Daringdaddy’s days

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年を取るにつれ時間が過ぎるのが速く感じる謎、デューク大学教授が科学的に解明

年を取るにつれ時間が過ぎるのが速く感じる

子供の頃、時間ってゆっくりと過ぎていく感じがする一方、年を取れば取るほどあっという間に時間が過ぎていく感じ、ありませんか?

ほとんどの人がこの現象・感覚に対して心あたりがあるのではないでしょうか。

 

「10歳児の1年は1/10だけど、40才の1年は1/40だからだ」というフランスの哲学者ジャネーの発案した「ジャネーの法則」もありますが、「速く過ぎ去る感覚」に対する説明としてイマイチ説得力はないとかんがえてます。

実は心理学など含めて色々な分野の研究者がこのメカニズムを解明するべく取り組んでいます。

 

つい最近の2019年1月にデューク大学の教授がこの謎を「物理的に解明した」というニュースが、アメリカのquartzで報じられていました。

Physics explains why time passes faster as you age — Quartz

その後多くの報道機関にも報じられています。

 

論文の内容を要約したこの記事、面白い内容だったので今回紹介します。

 

なお記事の元ネタはその教授が書いた論文なのですが、その論文はジャーナル「European Review」(Cambridge University Press)の掲載が承認されており、掲載日が確定するのを待っている状態とのこと。

アカデミックの世界できちんと評価されている内容ということですね。 

 

論文著者のエイドリアン・ベジャン デューク大学特別教授

論文を書いたベジャン教授は、MIT出身、現デューク大学の特別教授。

熱工学では世界的に有名で、日本語で本も出しています。

「流れとかたち―万物のデザインを決める新たな物理法則

 

以下はアマゾンの著者紹介にあるBookデータベースからの引用。

1948年ルーマニア生まれ。デューク大学特別教授。
マサチューセッツ工科大学にて博士号(工学)取得後、カリフォルニア大学バークレー校研究員、コロラド大学准教授を経て、1984年からデューク大学教授。24冊の専門書と540以上の論文を発表しており、「世界の最も論文が引用されている工学系の学者100名(故人を含む)」に入っている。
1999年に米国機械学会と米国化学工学会が共同で授与する「マックス・ヤコブ賞」を受賞。2006年には熱物質移動国際センターが隔年で授与する「ルイコフメダル」を受賞。
これらは熱工学分野のノーベル賞とも言われるもので、二つとも受賞している研究者は少なく、いずれも熱工学の歴史に名を残した人物である。

そんな凄い人が、こんな身近な問題に取り組むというのも興味深いですね。

 

では具体的に、年を取るにつれて時間が速く過ぎ去る感覚の謎をみていきましょう。

物理的な時間と、知覚される時間

まず、この現象についての論点の整理です。

 

「年をとればとるほど、時間があっという間に過ぎていく感覚」とは、以下の図のように整理されます。

 

物理的な時間と知覚される時間の間隔の画像

物理的な時間と知覚される時間の間隔

 

図の一番上のように、子供の頃や若い時は、時間の間隔が長く、年を取るにつれて時間の間隔が短くなります。

一方、図の真ん中のように、物理的な時間の間隔は常に等分です。

このことから、図の一番下のとおり、物理的な時間1単位あたりの、知覚される時間の長さは、年を取るにつれどんどん短くなっていきます。

 

さて、この現象の起こる要因ですが、 

・脳が認識する視覚情報変化が、いくつかの要因により若い時は頻度高く、年を取るにつれ頻度が少なくなる

・脳が認識する視覚情報変化と、知覚する時間の間隔は反比例関係にあり、老化に伴い時間がはやくすぎさることの要因である

 

これらを頭に入れて読み進めてもらえればと思います。

 

要因1:目の動き、脳の情報処理能力の変化

ベジャン教授が最初に挙げている重要な要素として、目の働きの一つ、「サッカード(サッケード)」と呼ばれるものがあります。

 

サッカードとは、衝動性眼球運動、サッケードとも呼ばれるもので、無意識的に頻繁に発生する目の素速い動作のことです。

そのスピードは秒速「300度(眼球なので、角度で表現するようです)」、そして頻度としては0.150.3秒おきに起きるものらしいです。

 

たとえば、この文章をじっとみつめているときも、目は動いてないようで実は小刻みに周辺をみているのです。

そして、サッカードとサッカードの間に、視覚情報を脳が処理するのです。

 

皆さんご想像のとおり、大人よりも子供の方がこの処理に伴う時間が短い、つまり視覚情報を高速に処理することができます。

 

そして、視覚情報処理と、時間が過ぎる感覚は反比例の関係ではないかというのです。

つまり

・視覚情報の処理時間が短いと、時間感覚は長く感じる

・逆に視覚情報の処理時間が長いと、時間感覚が短く感じる

という関係であると言うこと。

 

私たち人間は年を取るにつれ、目や脳の働きが劣化します。

すると、サッカードに伴う視覚情報処理に時間を要することになり、反比例関係にある「時間の経過」を短く感じるようになるのです。

 

疲労感のもたらす影響

なお、疲労もサッカードに影響します。

 

疲労していると、サッカードで同じ箇所に何度も目をやったり、目の動きが止まったりといった事態を引き起こします。

疲れてるときに本を読もうとすると、妙に頭に文字が入ってこなかったり・・・のような感覚ってありませんか?アレのことだと思います。

 

疲労の結果、サッカードで取得する視覚情報は、重複情報や欠落情報の入り交じったものになり、シグナルがごちゃごちゃになります。

このとき、脳が疲労していれば、視覚情報を処理しようとしてもうまくいきません。

 

平常時であれば問題なく行える

「サッカードにより視覚情報を得て、視覚情報から意味を見いだす」

という行動ができなくなるというわけです。

 

アスリートが疲れている時にいいパフォーマンスを発揮できないのも、これが原因です。

 

つまり、視覚情報処理能力が鈍化し、時間の感覚(タイミング)がずれる。

すると状況に対し、機敏に認知・反応できなくなる、ということなのです。

 

要因2:脳や神経網の複雑化

もう一つの時間感覚の変化の原因として、ベジャン教授は脳や神経網の発達をあげています。

 

つまり、成長にともない、脳と身体が発達し複雑化するにつれ、神経網も増えていきます。

これにより、情報が伝わる経路が複雑化していきます。

Screen-Shot-2019-01-07-at-3.56.02-PM.png

この一見当たり前と言える現象も、時間の感覚に影響を及ぼすとベジャン教授は考えています。

 

この論点については上記のquartzの記事でも詳しくは触れられていないのですが、たとえば象や恐竜、あるいは身体の大きな人間の場合などの場合どうなるのか、想像して見ると興味深いですね。

 

要因3:高齢化による脳機能の低下

最後に、ベジャン教授は老化に伴う、脳機能の低下をあげています。

 

たとえば老人の場合、サッケードが遅延するようになります。

 

サッケードが遅延すれば、視覚情報の処理時間が長くなったり、複雑な情報処理ができなくなります。

 

この結果、ゆっくりと物事を見る一方、時間が過ぎるのを早く感じるという身近な日常感覚が起きるとベジャン教授は言うのです。

 

時間の感覚を、子供の時のように感じるようになるためには

年を重ねるごとにこのまま時間の感覚がどんどん速まっていくのを、私たちは指をくわえて何もできないのでしょうか?

そうではない、とベジャン教授は言います。

 

ベジャン教授は以前にルーマニアのバスケットボールのナショナルチームに属していたらしいのですが、当時のコーチが常に口酸っぱく「たっぷりの睡眠、規則正しい生活」を提唱していたとのこと。

 

知覚する時間の間隔を少しでも遅くするため、このコーチが言うような事をすることで「疲労による視覚情報の重複や欠落」を防ぐことができ、遅くできるだろうといっています。

 

あまりこの最後のアドバイスは、自分的にはしっくりきていないのですが、どちらかというとベジャン教授の言葉を踏まえると

「常に新しい情報や取り組みを取り入れる事で、視覚情報を充実させ、脳の活動を活性化することで、時間の過ぎる感覚を遅める事ができる」

のではないかと考えています。

 

全く新しいジャンルで何かプロジェクトをはじめたときって、

・水曜なのに、月曜日のことが先週のように思える

・1ヶ月前の事が、3ヶ月、半年前のことのように思える

こういうことってあると思いますが、これがまさに、実際には物理時間は1ヶ月でも、知覚する時間はそれよりも遙かに多い、ということではないかと。

 

自分が、5キロラン、10キロラン、ハーフマラソン、フルマラソン、ウルトラマラソン、トレイルランニング、ウルトラトレイルと渡り歩いてるのも「充実感を味わいたい」が動機でしたが、こうした時間の知覚を欲してるのかもしれないな。。と思わされました。

 

今回はベジャン教授の論文を元にした記事をベースに書いてみましたが、実際に論文がでたらさらに掘り下げてみようと思います。

お楽しみに!