- まず大前提:「防水」を名乗る数字は2つの階層に分かれている
- 耐水圧(mm)の読み方|「20,000mm」は20mの水柱に耐えるという意味
- IP等級(IPX◯)の読み方|数字は「上位互換」ではない
- 透湿(g/m²/24h)の読み方|試験法が違う数字は比べてはいけない
- 撥水(スプレー試験の級)の読み方|「防水なのに中が濡れる」の正体はここ
- 4つの数字を、買う前にどう使うか
- 補足:温度の数字(R値・フィルパワー・快適温度)は、また別の話
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耐水圧20,000mmと大きく刷られたレインウェアで、それでも背中まで濡れて下山したこと。「完全防水」とうたうザックの底で、着替えがしっとり湿っていたこと。山をやっていれば、どちらかは身に覚えがあるんじゃないだろうか。
スペック表の「防水」は、嘘をついているわけじゃない。ただ厄介なことに、その一語のなかには、まったく違う測り方をした数字が何種類も詰め込まれている。そして僕らはそれを、一緒くたに「防水=濡れない」と読んでしまう。
スペック表に並ぶ「防水」を名乗る数字は、少なくとも4種類ある。耐水圧(mm)、IP等級(IPX◯)、透湿(g/m²/24h)、撥水(スプレー試験の級)。この4つは、それぞれ別の試験室で、別の条件で、別のものを測っている。どれかが大きいからといって、山で濡れないとはかぎらない。
この記事は、その4つの数字が「何を測り、何を測っていないか」を、試験規格の測定条件まで遡って読み解く。読み終わるころには、スペック表の大きな数字に飛びつかずに、自分の山に必要な防水だけを選べるようになるはずだ。
まず大前提:「防水」を名乗る数字は2つの階層に分かれている
最初に地図を持っておきたい。防水まわりの数字は、「素材の話」と「製品の話」という2つの階層に分かれている。ここを混ぜると、一生スペック表に騙され続ける。
ここがいちばん大事なところだ。素材の耐水圧が20,000mmあっても、製品としては縫い目やジッパーから浸水する。 逆に、製品全体が IPX4 を取っていても、それは「飛沫まで」であって長時間の豪雨を保証しない。「完全防水」と書かれた製品に、同時に「IPX4」と表示されていても矛盾ではない。片方は素材寄りの理想を、もう片方は製品全体の試験等級を指していて、語っている階層が違うだけだ。
では、4つの数字を1つずつ分解していく。
耐水圧(mm)の読み方|「20,000mm」は20mの水柱に耐えるという意味
レインウェアやテント生地で最初に目に入るのが「耐水圧20,000mm」のような数字だ。これは生地の防水性能を示す、いちばん基本の指標になる。
何を測っているか
規格は ISO 811 / JIS L1092(静水圧法)。生地の片面に水圧をかけ、裏側に水滴が3粒にじみ出た瞬間の水柱の高さを記録する。単位はmm(=mmH₂O、水柱の高さ)。
「20,000mm」は文字どおり、高さ20mの水柱が押す圧力(約196kPa)に耐えて、ようやく3粒漏れるという意味だ。10,000mmなら水柱10m・約98kPa。数字が大きいほど、強い水圧に耐える。
ここで知っておくと効くのが、人が生地にかける圧力の目安だ。生地メーカー(ONYONE)の資料がよく引かれる。
| 生地にかかる動作 | 静水圧に換算した目安 |
|---|---|
| 小雨・霧雨 | 〜数百mm |
| 濡れた場所に座る(体重75kg) | 約2,000mm |
| 濡れた地面に膝をつく | 1万mm級 |
※接地面積の取り方で数値はかなり振れる。資料によっては膝立ちを17,000mm前後とするものもある。確実なのは「座るより膝をつくほうが桁違いに高い圧がかかり、それは1万mmを超える」という大小関係まで。
つまり「耐水圧20,000mm以上は登山向け」と言われるのは、濡れた岩に膝やお尻をつく、ザックのショルダーで生地が押される、といった局所的な高圧に備えるためだ。立って雨に打たれるだけなら数千mmでも足りる。スペックの大きさは「座る・膝をつく・押される」局面のための余裕だと読むと腑に落ちる。
この数字が黙っていること
耐水圧の試験は、新品・平面・静止した1枚の生地を測る。だから次のことは、数字に一切含まれていない。
- 縫い目(シーム):耐水圧は生地そのものの値。縫い穴は別問題で、シームテープがあって初めて塞がれる
- 摩耗・屈曲・経年:着用や擦れで生地はへたる。カタログ値は初期性能で、2〜3シーズン後の実力ではない
- 皮脂・汚れによる撥水低下:表面が濡れると、後述するように透湿まで巻き添えになる
なお JIS L1092 の静水圧法には、レインウェアや傘を想定した低圧のA法と、テント地・帆布を想定した高圧のB法がある。同じ「耐水圧」でも測る圧の桁が違うので、用途の違う製品の数字を単純に並べるのは本来おかしい。
テント生地ごとの耐水圧と素材の考え方は、ULテントの生地を素材科学から選び直す記事で深掘りしている。
耐水圧の数字を実物で確かめるなら、国産エバーブレス膜のこの一着。膝をつく・座る局面の水圧に向き合った防水透湿シェルだ。
IP等級(IPX◯)の読み方|数字は「上位互換」ではない
電子機器でおなじみの「IPX7」「IP68」。最近はザックやスタッフサックでも見かけるようになった。数々の賞を獲った良作、Rab Syclon XP 30 の「IPX4」もこれだ——きちんと作られたパックでさえ、「完全防水」と「IPX4」が同居する。ここに、防水スペックでいちばん多い誤読が潜んでいる。
IP◯◯ の構造と「X」の意味
規格は IEC 60529(日本では JIS C 0920)。IP + 第1記号 + 第2記号 で書く。
- 第1記号(0〜6)=防塵:粉じんの侵入をどこまで防ぐか
- 第2記号(0〜9)=防水:水の侵入をどこまで防ぐか
「IPX4」のX は「防塵を評価していない(未測定)」という意味で、「防塵ゼロ」ではない。防水だけ測ったから第1記号がXになっている。
第2記号(防水)の段階はこうだ。
| 等級 | 守れる水のかかり方 | 試験の系統 |
|---|---|---|
| IPX1〜2 | 真上からの滴下 | 滴下 |
| IPX3 | 散水(鉛直から60°以内のしぶき) | 散水 |
| IPX4 | 全方向からの飛沫 | 散水 |
| IPX5 | 噴流(6.3mmノズルのジェット) | 噴流 |
| IPX6 | 強力噴流(12.5mmノズル・100L/分級) | 噴流 |
| IPX7 | 水深1m・30分の一時的水没 | 水没 |
| IPX8 | メーカー規定条件での継続水没 | 水没 |
最重要:IPX7 は IPX5 を保証しない
ここが、この記事でいちばん持ち帰ってほしい一点だ。第2記号の数字は、大きいほど偉いという連続したハシゴではない。
噴流系(IPX5・6)と水没系(IPX7・8)は、まったく別の試験だ。水没(IPX7)に合格しても、横からのジェット(IPX5)に耐えるとは保証されない。逆もそうだ。だからメーカーは、両方をクリアした製品にだけ 「IPX5/IPX7」のようにスラッシュで二重表記する。
水のかかり方には「滴下 → 散水 → 噴流 → 水没」という別レーンがあり、レーンをまたぐと互換が切れる。同じレーンの中(例:散水なら4は3を含む)でだけ、数字の大小が効く。
山で言えば——横殴りの雨は「噴流」に近く、ザックを濡れた地面に置くのは「底面の接触浸水」で、これは IPX のどの試験にも入っていない。「IPX◯だから安心」と一語で片づけられないのは、このためだ。
IP等級が黙っていること
IP試験の前提条件を知ると、過信が一気に冷める。試験は次の条件で行われる。
- 清水(真水)を使う:塩分・汗・洗剤は対象外。海沿いや汗だくの背中は想定していない
- 新品・無傷のサンプル:摩耗・経年劣化は評価しない
- 静的・短時間:規定の流量・時間・水深での一回限り。何時間も降られ続ける状況ではない
汗・塩・砂による摩耗・縫い目の経年劣化・継続的な水圧——山でギアを蝕むものを、IP等級はひとつも見ていない。 「工場出荷時の新品を、真水で、短時間、静かに測った値」だと理解しておくと、数字との距離の取り方を間違えない。
そのIPX4の「飛沫まで」を埋める保険が、ザックの内側に仕込むパックライナー。素材防水に頼り切らない、確実な一手になる。
ある「完全防水」をうたうパックの IPX4 が、実際の山で「降雨量×風速×行動時間」のどの組み合わせで破綻するかは、完全防水パックの正味の実力を製品単位で検証した比較記事で具体的な表にして確かめている。スペックの一語を、現場の条件まで翻訳して見たい人はそちらへ。
なお IP等級は、登山時計やヘッドランプ、モバイルバッテリーのスペックにも必ず出てくる。GPSウォッチを縦走視点で比較した記事やヘッドランプ比較でも、この「数字は上位互換ではない」という読み方はそのまま使える。
同じIPX4は、ヘッドランプにも書いてある。電子機器のIP等級を一度実物で見ておくと、時計やライト選びでも数字に騙されない。
透湿(g/m²/24h)の読み方|試験法が違う数字は比べてはいけない
「防水なのに蒸れない」をうたうのが透湿(透湿度)だ。汗の水蒸気を生地の外へ逃がす力で、単位は g/m²/24h(1m²の生地が24時間で何gの水蒸気を通すか)。レインウェア選びで耐水圧と並ぶ主役の数字だが、ここには「比較しても無意味な数字を並べてしまう」罠がある。
A法とB法で、同じ生地が数倍違う数字になる
規格は JIS L1099。代表的な試験法がいくつかある。
| 試験法 | 通称 | 何に近いか |
|---|---|---|
| A-1法 | 塩化カルシウム法 | 着用環境に近い(40℃・90%RH) |
| A-2法 | 水法 | A法の別条件 |
| B-1 / B-2法 | 酢酸カリウム法 | 生地の最大透湿性能を引き出す条件 |
問題は、同じ生地でも B法は A法の数倍の値が出ることだ。B法は試験片を直接水に接触させ、水蒸気圧の勾配を極端に大きくするので、特に無孔質の親水性メンブレンが有利な高い数字を出す。
だから——カタログで「透湿35,000g」と「透湿15,000g」を見比べても、片方がB法、もう片方がA法なら、その比較は成立していない。 突出して大きい透湿値は、B法かメンブレン単体での測定であることが多い。ラミネートした完成品をA法で測ると、そこまでの数字はめったに出ない。
RET という別の物差し
ゴアテックスなどは、g/m² ではなく RET(透湿抵抗、ISO 11092) で性能を示すことが多い。これは「水蒸気の通りにくさ」なので、数値が小さいほど高透湿——大小の向きが逆だ。
- RET < 6:非常に高い透湿
- RET 6〜13:透湿性あり
g/m² 系と RET 系は別の軸なので、相互に換算して比べることはできない。「うちは数字が大きい/小さい」で勝負している土俵が、そもそも違うことがある。
透湿膜そのものの構造(多孔質 vs 無孔質親水膜)にまで踏み込みたい人は、モンベルがゴアテックスを降りた理由を追った記事が詳しい。耐水圧・透湿を軸にした実機の比較は梅雨向けレインシェル10機種比較へ。
透湿をRET(数値が小さいほど高透湿)で語るゴアテックスの定番。A法/B法の数字に振り回される前に、基準になる一着を持っておくと比較が楽になる。
撥水(スプレー試験の級)の読み方|「防水なのに中が濡れる」の正体はここ
最後の数字、撥水(DWR)。これは前の3つとは毛色が違う。撥水は「防水」ではない。生地の表面が水を弾くかどうか、という別の物理量だ。
撥水と防水は、測っているものが違う
規格は JIS L1092 のスプレー法 / ISO 4920 / AATCC 22。生地に水を噴霧し、表面の濡れ方を標準写真と見比べて等級をつける。
| 表面の状態 | JIS/ISO級 | AATCC点 |
|---|---|---|
| まったく濡れない(水玉が転がる) | 5級 | 100 |
| 上面にわずかな濡れ | 4級 | 90 |
| 噴霧点が濡れる | 3級 | 80 |
| 上面が部分的に濡れる | 2級 | 70 |
| 上面が完全に濡れる | 1級 | 50 |
実務では「3級以上で撥水性あり」とみなす。重要なのは、これが表面の濡れ方だけを見ている点だ。極端に言えば、水が裏側に抜けても、表面が濡れるパターンさえ基準内なら評価は成立する。つまり撥水の級(5級/100点)と耐水圧(mm)は、まったく次元の違う指標で、撥水が高くても耐水圧が低い生地はふつうにある。
ウェットアウトが、透湿まで道連れにする
「防水透湿のいいレインウェアなのに、なぜか中が濡れる」——この正体が、撥水と透湿の連動にある。
- 透湿は、生地の内側(暖かく湿った体側)と外側(冷たく乾いた外気)の水蒸気圧の差を駆動力にして水蒸気を外へ押し出している
- 表面の撥水(DWR)が落ちて表地が水を吸って飽和する(ウェットアウト)と、外側表面が「冷たく濡れた湿度100%」状態になる
- すると内外の水蒸気圧の差が大きく縮み、透湿の駆動力が失われる
- 防水自体は保たれていても水蒸気が抜けず、内側で結露する=「防水なのに中が濡れる」
ここは専門家でも見解が割れる部分があり、「温度差が十分なら濡れた表地越しでもある程度は透過する」という反論もある。だから正確には「透湿がゼロになる」ではなく「透湿性能が大きく落ちて、体感的に蒸れる」が一次資料に忠実な表現だ。いずれにせよ、表面の撥水が落ちることは、防水だけでなく蒸れにも直結する。撥水は消耗品で、洗濯・摩耗・皮脂・紫外線でへたっていく。
近年主流の PFASフリー(非フッ素系)DWR は、環境負荷が低い一方、撥油性や摩耗耐久ではフッ素系にまだ分が悪いとされる。ただし「水だけを弾く力」の差は比較的小さく、各社が世代ごとに詰めている最中だ。「PFASフリーは必ず劣る」と決めつけるのは、もう正確ではない。
落ちた撥水を洗濯・熱処理・回復剤で戻す具体的な手順は、レインウェアの撥水回復の記事にまとめてある。撥水が落ちたまま使い続けるのは、防水と透湿を同時に手放しているのと同じだ。
撥水が落ちて中が濡れ始めたら、これが処方箋。洗濯機で入れるだけで表地の水弾きを取り戻し、巻き添えで死んでいた透湿まで生き返る。
4つの数字を、買う前にどう使うか
ここまでを1枚に畳む。スペック表を前にしたとき、それぞれの数字が「何を保証し、何を黙っているか」を思い出せれば十分だ。
| 数字 | 測っているもの | これを見たら | 黙っていること |
|---|---|---|---|
| 耐水圧(mm) | 生地1枚が耐える水圧 | 座る・膝をつく・押される局面の余裕。登山は2万mm級が安心 | 縫い目・摩耗・経年。製品全体ではない |
| IP等級(IPX◯) | 製品全体が防ぐ水のかかり方 | レーン(散水/噴流/水没)を確認。数字の大小は同レーン内だけ | 塩・汗・摩耗・長時間。新品を真水で短時間測った値 |
| 透湿(g/m²) | 水蒸気を逃がす力 | 試験法(A法/B法)を揃えて比較。RET系とは別軸 | 実際の発汗量・結露。最大条件の値かもしれない |
| 撥水(級) | 表面が水を弾く力 | 3級以上で撥水あり。防水とは別物 | これが落ちると透湿も死ぬ。消耗品 |
防水スペックの数字は、嘘をつかない。ただ、自分がどんな条件で測られたかを、表の上では黙っているだけだ。「20,000mm」も「IPX4」も「透湿35,000g」も、それぞれの試験室では正しい。その正しさが、自分の歩く山の雨・風・時間とどれだけ重なるかを見極めるのが、買う前にできる唯一の防水テストになる。
ザック側で「素材防水・パックライナー・レインカバー」のどれを選ぶかは、ザック防水システムの比較記事で3択の実力差を検証している。あわせてどうぞ。
補足:温度の数字(R値・フィルパワー・快適温度)は、また別の話
ここまでは「水の数字」だった。スリーピングマットの R値、ダウンのフィルパワー、シュラフの快適温度といった「温度の数字」にも、まったく同じ構図——測定規格の有無、表記法による数値のズレ、体感との乖離——がある。
たとえば R値は ASTM F3340 という共通規格ができて初めてメーカー横断で比べられるようになり、フィルパワーは US法と EU法で同じダウンでも7〜8%ずれる。シュラフの「快適温度」は女性基準、「下限温度」は男性基準で、Extreme(極限)は快眠ではなく生存限界の値だ。
このあたりは水の数字とは独立した話なので、稿を改めて「温度を名乗る数字の読み方」として別に書く。
防水という言葉は、ひとつの安心を指しているように聞こえる。でも実際には、4つの試験室から持ち寄った、別々の条件の数字の寄せ集めだ。その出どころを知っているだけで、スペック表は「大きい数字を探す場所」から、「自分の山に必要な防水を見つける場所」に変わる。