山道具ラボ

by Daringdaddy #山で使う道具の話 #軽さと快適さのあいだ #買う前に知りたかったこと

ULブランド探訪:Xero Shoes —— DIYキットから世界へ、ベアフットの大衆化

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Xero Shoes Z-Trail EV
画像引用: Xero Shoes公式

1. はじめに:僕が最後まで迷った「王道」

テント場でつっかけるサンダルを探していたはずが、いつのまにか「トレイルも歩ける一足」を探す旅になっていた。さんざん比べて僕が手に入れたのは、ShammaとBedrock——手縫いで軽さを突き詰めたワラーチ(ソールに紐を通しただけの、素足に近いサンダル)と、ソールを張り替えて履き継ぐ頑丈なアドベンチャーサンダルだ。だが、最後までかごの前で迷わせたブランドがもう一つある。Xero Shoes(ゼロシューズ)だ。

サイズ展開も入手性もいちばんこなれていて、店頭で試せる店も多い。ベアフットサンダルを一足目に選ぶなら、まず名前が挙がるのがXero——つまり、この分野の王道だ。なのに僕は買わなかった。天邪鬼で、あえて王道を外しただけの話だ。それでも、この王道が「なぜ王道になれたのか」には、はっきりした理由がある。始まりは、コロラドの自宅の空き部屋で売られた、ソールと紐だけの一つのDIYキット——当時の名は「Invisible Shoes(見えない靴)」だった。

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2. 自作ワラーチを売った夫婦

創業者はSteven Sashen(スティーブン・サッシェン)とLena Phoenix(リナ・フェニックス)の夫婦。サッシェンはマスターズ(年齢別カテゴリ)の短距離スプリンターでもあり、たびたび故障に泣かされていた。そのなかで、裸足で走る文化を描いて世界的ベストセラーになったノンフィクション『Born to Run』(C・マクドゥーガル著、2009年)とベアフットランニングに出会い、厚いクッションを脱ぎ捨てる方向へ舵を切る。行き着いたのが、Vibramのソールに紐を通しただけの自作ワラーチだった。

仲間から「それ、どこで買えるの」と聞かれたのが始まりだった。2009年、夫婦は自宅の一室で「Invisible Shoes」を立ち上げる。売っていたのは完成品ではなく、ソールと紐を自分で組み立てるDIYキット。価格は$24.95。裸足に一番近い履物を、自分の手でこしらえる——サンダル一枚で超長距離を走ることで知られるメキシコ先住民・タラウマラ族のワラーチ文化を、そのまま現代のガレージに持ち込んだような商品だった。

転機は2013年、『Shark Tank』への出演だった。起業家が投資家(="サメ")に出資を乞う、アメリカの人気オーディション番組——日本でいう『マネーの虎』に近い。出資を求めた夫婦に、投資家のひとりが「40万ドルで株式の50%」を逆提示する。会社の半分を渡す条件だ。夫婦はこれを断り、ディールは不成立に終わった。ところが放送後、サイトには注文が殺到し、サーバーが何度も落ちる。「サメに投資を断られたのに、その後大きく伸びた起業家」の語り草になっている一幕だ。

Xero Shoes のあゆみ ── 年表
沿革新カテゴリ素材
2009
コロラドの自宅で創業。自作ワラーチ「Invisible Shoes」をDIYキットで販売。
2012頃
ブランド名を「Xero Shoes」へ改称。
2013
Shark Tank出演。50%要求を断るも、放送後に注文が殺到。
2016
初のクローズドトゥ(スニーカー型)を投入。サンダル専業から脱却。
2017
エクイティ型クラウドファンディングで100万ドル超を調達。
2020
投資会社TZP Groupが少数株出資。本格的なスケールへ。
2023
『Born to Run』コラボラインを発売。原点へのオマージュ。
現在
世界へ広がっても、ワイドトゥ・ゼロドロップ・薄いソールの原則は不変。

3. 足は、本来もっと「感じられる」

Xeroの設計は、創業から一貫して三つの原則で説明できる。

  • ワイドトゥボックス:足の形に沿い、指が自然に広がる
  • ゼロドロップ:かかとを持ち上げない、フラットな構造
  • 薄く柔軟なソール:地面の感覚(グラウンドフィール)を残す

根っこにあるのは「足はもともと精巧なセンサーであり、靴はその機能を邪魔すべきでない」という考え方だ。Xeroはこれを、生体力学の言葉でかなり具体的に説明する。かかとを上げないゼロドロップは、アキレス腱を自然な長さで働かせ、骨盤と背骨をまっすぐ積み上げる。指が広がるワイドトゥボックスは、他の指の約4倍も密度が高い母趾(親指)を「歩行の要」として使わせる——足指が自由に開くほど足裏の小さな筋肉が目を覚まし、荷重が前足部に自然に散る。薄く柔軟なソールは、足のアーチが持つ天然のバネを働かせ、地面から届く感覚(グラウンドフィール)を残す。同社いわく、人の足裏には約20万の神経終末があり、その情報こそが動きを組み立てているのだという。あくまでブランド側の主張だが、「守る」より「感じさせる」という一貫した設計思想は、この理屈で筋が通っている。とはいえ、この理屈が実際に「怪我を減らす」「足を強くする」のかは別問題だ。査読研究をもとにした検証は裸足・ミニマルシューズの科学にまとめた——結論を先に言えば、「足は強くなる/怪我は減るとは言えない」だ。

薄いソールに履き替えた人が口をそろえて言うのは、足の「使い方」が変わることだ。かかとから叩きつけていた着地が、自然と前足部でそっと接地する動きへ寄っていく。クッションに任せていた仕事を、足そのものへ返す——ベアフットで起きるとされるのは、そういう変化だ。

では、その「薄さ」を支えるソールは何でできているのか。Xeroの独自ラバーFeelTrue®は、Vibram社のCherry材をベースに、元Nike/Reebokのデザイナーと組んで「ベアフット走行のためだけに」設計された高耐摩耗ゴムだ(一部にリサイクル素材を含む)。FeelTrueを一枚で使うモデル——自分で組み立てるキットや、単層ソールのGenesis——のソール厚は4〜6mmと極薄で、路面をつかむデュアルシェブロンのラグを刻む(複数の層を重ねるZ-Trailのようなサンダルは、これとは別ものだ)。薄いのに簡単には削れない——それを裏づけるのが、5,000マイル(約8,000km)走り込んでソールが1mm未満まで摩耗したら、同型を大幅割引で買い替えられるプログラムだ(無償交換ではなく、公式直販での買い替え支援である点は正確に押さえておきたい)。薄さと引き換えに耐久を捨てていない、という自負がここに出ている。

ただしXeroは同時に、正直な注意も発している。厚底に慣れきった足が薄いソールへ移行するには適応期間が要る——公式は「1〜4か月かけて、20〜30分の短時間から徐々に距離を伸ばす」ことを勧める。いきなり長距離を走れば、ふくらはぎやアキレス腱を痛める。薄さは自由であると同時に、足の側にも準備を求める。この「万能ではない・急ぐな」という但し書きを自分から出すのは、ベアフット系ブランドとして誠実な姿勢だ。

4. キットから、世界へ——「大衆化」のはしご

Xeroの歩みは、ガレージブランドが世界規模に育つ過程そのものだ。2016年に初のクローズドトゥ(スニーカー型)を投入してサンダル専業から脱却し、2017年にはエクイティ型クラウドファンディングで100万ドル超を調達。2020年には投資会社TZP Groupが少数株を出資し、本格的なスケールへ入る。2021年には欧州法人(プラハ)を開き、売上は3,360万ドル規模に達した。ラインもサンダルからトレイル、ロード、ジム、ブーツまで一気に広がっている。

DIYキットの$24.95から始まったブランドが、ベアフットという「思想」を、誰でも買える「商品」に翻訳して大衆化させた。この振れ幅がXeroの個性であり、原理主義者からは「薄すぎない・普通に売れすぎ」と物足りなく見られる理由でもある。裾野を広げることと、尖りを保つこと——そのあいだで立っているブランドだ。

日本でも輸入代理店を通じてAmazon・楽天やアウトドア専門店で広く手に入り、店頭で試し履きできる店も多い。ベアフットに興味はあるが、サイズ感が読めない通販での失敗が怖い——という人にとって、この入手のしやすさと「試せる」環境は、地味だが大きな後押しになる。

5. 代表的な一足

Z-Trail EV —— フラッグシップ・サンダル

Xero Shoes Z-Trail EV
画像引用: Xero Shoes公式

サンダルの看板がZ-Trail EV(片足約5.4oz=約153g、総スタック〔ソールの総厚み〕11mm・ゼロドロップ)。Xeroが公式に「3層(3-layer)」と呼ぶFeelLiteソール——足あたりのBareFoam、路面の凹凸をならすTrailFoam、接地して噛むFeelTrueラバーの重ね——で、薄さを保ちつつ最低限の保護を残す。ワラーチのような開放感がありながら、岩や木の根の突き上げを"ちょうどよく"いなす。トレイルから街まで一足でこなす、ベアフット入門者の「最初の一足」として、もっとも失敗が少ないバランス型だ。

Xero Shoes Z-Trail EV
Xero Shoes Z-Trail EV
サンダル / 片足約5.4oz / ゼロドロップ / 実勢 約1.2万円

Genesis —— 最軽量・最廉価、いちばん素足に近い

Xero Shoes Genesis
画像引用: Xero Shoes公式

もっと「裸足そのもの」に寄せたいならGenesis。5mmのFeelTrue単層ソール(Z-Trailのような重ね構造ではない)に、足裏へ結び目が出ないトゥループと、数秒でフィットが決まる特許の張力調整を組み合わせた、いちばん素足に近いワラーチだ。Z-Trailよりさらに軽く、価格も抑えめ。クッションを削ったぶん地面の情報がダイレクトに伝わり、フォームの練習にも向く。裏を返せば、ゴツゴツした路面の突き上げはそのまま来る。ベアフットの"素"の感覚を確かめたい人の一足だ。

Xero Shoes Genesis
Xero Shoes Genesis
サンダル / 5mmソール / 最軽量・最廉価 / 実勢 約7,000円〜

Mesa Trail 2 —— トレイルを走る、つま先の要塞

Xero Shoes Mesa Trail 2
画像引用: Xero Shoes公式

サンダルでは守りきれない領域へ踏み込むのが、トレイルシューズのMesa Trail 2(片足約7.8oz=約221g)。3.5mmのTrailFoam層に3.5mmラグのFeelTrueソールを重ね、ゼロドロップとワイドトゥはそのままに、岩場や木の根を走れる保護を得た。「足を感じさせる」という思想を、閉じた靴でも貫いた一足。サンダルからシューズまで、Xeroを貫く原則は一つだ。

Xero Shoes Mesa Trail 2
Xero Shoes Mesa Trail 2
トレイルシューズ / 片足約7.8oz / ゼロドロップ / 実勢 約2万円台

弱点も正直に

万能ではない。濡れた路面でのグリップは弱めという声があり、薄いソールはかかと着地の人(ヒールストライカー)や足のトラブルを抱える人には向かない。長く履くとFeelTrueソールが母趾球の下でへたってくる、という報告もある(ランニング由来のヘタリは割引買い替えの対象外という不満も)。要するに、扁平や回内(着地で足首が内側に倒れ込む癖)が強い足や、これまで一度もクッションを外したことのない人が、いきなり普段履きにするのは勧めない。まずは短時間・平地から慣らし、足ができてから距離を伸ばす。ベアフットは「合う足」と「移行期間」を選ぶ。そこを理解したうえで選べば、これほど素直な履物もない。

6. おわりに:4足のなかの、Xero

冒頭に書いたサンダル探しで、僕が最後に天秤にかけたのは4ブランドだった。手元に残したのはShammaとBedrock、強く惹かれつつ見送ったのがXeroとLuna。同じ「薄い履物」でも、目指すところはまるで違う。

  • Bedrock:Vibram Megagripとソール張り替えで一生履き継ぐ、頑丈なアドベンチャー派
  • Shamma:軽さを突き詰めた、レーサー気質のワラーチ
  • Luna:『Born to Run』の物語を最も正統に継ぐ、文化派
  • そしてXero:DIYキットから世界へ、いちばん手に入れやすく、失敗の少ない入門の一歩

裸足に近い履物が気になっているなら、価格も入手性もこなれたXeroは、最初に足を入れる一足として理にかなっている。そこで地面の感覚を知って、もっと頑丈さが欲しくなればBedrockへ、軽さを追いたければShammaへ、物語ごと味わいたければLunaへ——と広げていけばいい。大衆化とは、その入口を誰にでも開いたということだ。角を丸めたのではなく、扉を広げた。Xeroの立ち位置は、そこにある。

山の花の名前を覚えたくて、写真クイズのiPhoneアプリをつくりました