- 1. はじめに:僕がULA Equipmentに惹かれる理由
- 2. PCTの残像と、ユタのガレージに置かれた1台のミシン
- 3. 「軽量は脆弱である」という呪いを解く
- 4. 素材への執念と終わりのないアップデート
- 5. 僕が唸った代表作
- 6. おわりに:変わらないことの説得力
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1. はじめに:僕がULA Equipmentに惹かれる理由
はじめてULAのCDTを背負った日のことは、今でもはっきり覚えている。
旧モデルのカスタマイズオーダー版で、届いた夜にとりあえず荷物を詰め込んで、ひょいと担いでみた。その瞬間、何かが腑に落ちた。重さがない、というより——背中に収まる、という感触だ。自分の体の一部みたいに馴染む。それまで使っていたパックとは次元が違う話で、思わず「なんだこれ」と声が出た。
フィット感の話は各社がウェブサイトに書き連ねているけれど、実際に体感できるブランドはそう多くない。ULAがそれをできるのは、設計した人間が純粋にハイカーだったからだ——という結論に、今は辿り着いている。
2. PCTの残像と、ユタのガレージに置かれた1台のミシン
1999年、Brian Frankle はパシフィック・クレスト・トレイルを北上した。
出発時のベースウェイトは約11kg。カナダ国境に到達するころには5.4kgまで削ぎ落としていた。きっかけは Ray Jardine の "Beyond Backpacking"。軽くすれば快適になるという逆説——「担ぐ重さを半分にすれば、疲労より先に景色を楽しめる」という発見を、3ヶ月かけて足で理解した旅だった。
帰ってきたFrankleが直面したのは、「市場に自分が欲しいパックがない」という欲求不満だった。大手ブランドのパックは依然として重い。かといって当時の「超軽量パック」は機能を捨てすぎていて、長期山行には現実的ではなかった。「軽くて、ちゃんと使えるもの」——その両立を誰もやっていないなら、自分でやるしかない。
2001年、ユタ州ローガンの自宅ガレージに1台のミシンを据えて、ULA Equipment(Ultralight Adventure Equipment)が動き出した。
最初の商業モデルはフレームレスのP1、続くP2はメタルステイを仕込んでショルダーからヒップへ荷重を流す設計を採用。当時として驚異の重量約1.1kgで、これがのちのCatalystの原型となる。週に最大80本のパックを一人で縫い、秋になれば生産を止めて自ら長期ハイクへ出かけ、戻ったら10〜12時間・週7日のペースで縫い続ける——そのサイクルでブランドは育った。
「自分が使いたいものを、使う人間が作る」という設計者とユーザーの同一性。これがULAの最も根本的な強みであり、ガレージブランドとしての誠実さの源泉だ。
2007〜2009年にChris & Sally McMasterが買収して実工房として拡張。2020年にはAT(アパラチアン・トレイル)のスルーハイカーでもあるPeter Longobardiが引き継いだ。オーナーが3代変わっても、ローガンでの100%USA製造という軸はただの一度も揺らいでいない。2021年には製造スペースを9,000平方フィートへと拡大しながら、それでも工場は同じ街にある。
3. 「軽量は脆弱である」という呪いを解く
ULAが登場する以前のウルトラライト市場には、暗黙の諦めがあった。軽くしたければ耐久性を犠牲にする。フレームを抜けば重さは落ちるが、快適性も落ちる——そういう二択を「ULの宿命」として受け入れる空気が濃かった。
Frankleはこの前提を拒否した。「軽量・耐久・快適の三つは同時に追えるはずだ」と信じ、素材と構造を徹底的に見直していった。その姿勢は彼自身の言葉に明瞭に現れている。
"So much of my design is processing other people's ideas and making them functional and usable for a wider swath of people." 「自分の設計の多くは、他の人のアイデアを処理して、より多くの人に機能的で使いやすいものにすること」
天才的な単独発明より、現場の声を咀嚼して実装する——職人の矜持だ。
その代表例がヒップベルトポケットの普及だ。ULAは早期にこれを標準化した先駆けのひとつとされており、「行動食とスマートフォンをベルトに収めたい」というハイカーの声を、実際に使えるサイズと取り出しやすさで製品化した。現在ではメインストリームの大手ブランドが当然のように採用しているこの機能が、ローガンのガレージから広がったという系譜がある。
フレームレス設計の思想も独特だ。「軽くするためにフレームを抜いた」のではなく、「体の動きと一体化するためにフレームを抜いた」という解釈が近い。バックパネルのフォームパッドは睡眠マットとして流用できるよう設計されており、パッキングシステム全体の重量最適化を前提に組まれている。パックを1点で完結させるのではなく、パック+マット+体のシステムとして設計する——そのレイヤーの深さが、ULAの背負い心地の本質だと思う。
4. 素材への執念と終わりのないアップデート
初期のULAはRobicナイロンを主力素材として採用した。軽量・高強度・コストの現実的なバランスがあったからだ。だがそこから20年以上、素材の選定は止まらない。
現行ラインナップで使われるUltraGrid™は、200Dのリサイクルナイロングリッドを採用し、揮発性有機化合物(VOC)を使わない製造プロセスで作られた生地だ。従来のRobicより引き裂き強度が高く、環境負荷も下がっている。バックパック生地のトレンドは別記事で詳しく解説しているが、ULAはこれを独自のブランドネームで展開することで、素材の進化を製品アイデンティティに直結させた。
そして2024〜2025年にかけて投入されたNexusでは、より上位のChallenge ULTRA X™ 200を採用。「重量あたりの強度が鉄の15倍、標準的な420Dナイロンの2倍の耐摩耗性」という物性を持つUHMWPE系素材で、さらに1ヤードあたり20本以上のペットボトルを再利用して製造されている。性能と環境配慮を両立させようとする選択は、Frankle時代からの「使う素材に理由を持て」という流儀の継承だ。
アップデートの流儀は「気がついたら変わっている」ペースだ。大々的な発表より、素材が良くなれば静かに切り替え、縫製の弱点が見つかれば次のロットで手を入れる。ユーザーからすると「去年と微妙に違う」という経験は決して珍しくなく、それはネガティブな品質のばらつきではなく、終わりのない改良の証拠として受け取られてきた。
5. 僕が唸った代表作
Nexus:10年ぶりのゼロ設計
2024年末に登場したNexusは、ULAにとって約10年ぶりのフルスクラッチ設計だ。既存モデルの改良や素材換装ではなく、白紙から起こし直した一本——その意味を、開発責任者のPeter Longobardiはこう語っている。
"We wanted to create something that stripped things down without sacrificing usability." 「機能性を犠牲にせず、ぎりぎりまで削ぎ落とすものを作りたかった」
スペックは40L・18.8〜22.3oz(533〜632g)。フレームレス設計で最大推奨荷重は約11kg。2024年のULシーンが前提とするシステム——サブ400gのテント、ダウンキルト、軽量水処理——に合わせて容量と構造を最適化している。
設計上の最大の特徴は5つのオープンポケットだ。標準的なULフレームレスパックが外付けポケットを3点程度に絞るのに対し、Nexusは「行動中にザックを開かず手が届く場所」を5点確保した。巨大なUltraStretch™フロントポケット、深めのサイドボトルポケット、ヒップベルトポケット——どれも「とっさに出せる」ことを最優先した寸法と位置だ。
ショルダーストラップも新設計。Jeremy Trippが起こしたハイブリッドストラップは、S字カーブとJ字カーブの中間に位置する曲率で、なで肩・いかり肩を問わず幅広い体型に対応できるよう設計されている。S/Jの2択ではなく中間値を作る——ここにも「より多くの人に機能的に使ってもらう」というFrankle以来の姿勢が流れている。
特筆すべき点のひとつがクマ缶(ベアキャニスター)への対応だ。フレームレスパックの内部にBV500を縦向きのまま収納できるよう前面パネルの幅を拡げつつ、40Lの容量は変えていない。クマ缶対応を後付けで解決するのではなく、設計段階で組み込んだ。ベアカントリーを歩くスルーハイカーへの解答だ。
CDTユーザーとしてNexusの変化については別記事でも詳しくレビューした。「正当進化」という言葉を使ったが、CDTの核にあるものを継承しながら現代のスルーハイク装備に合わせて再組立てした一本——という理解が近い。
Circuit SV / Circuit / Catalyst:フレームあり派への誠実な答え
CDTやNexusがフレームレスの文脈で語られる一方、Circuitラインナップはフレーム入りULパックの代名詞として別の層に深く刺さっている。原型のP2から続くCatalyst(大容量、長距離スルーハイク向け)、そこから派生したCircuit(汎用ミッドサイズ)、そして2024年にデビューしたCircuit SV(側面バルジ構造で実容量を拡大)の3本が現行ラインナップだ。
フレームがあることで荷重分散が効き、10〜13kgを担ぐ場面での快適性が際立つ。「完全ULじゃないけど軽量寄り」の層——カメラ、テント、3シーズン一式を詰め込んでもへたらないパックを求めているハイカー——に長年支持されてきた理由がここにある。ULAを「フレームレスのブランド」と誤解している人は多いが、Catalystは創業時からの主力であり、スルーハイカーたちが「信頼できる相棒」と呼び続けてきたモデルだ。
UltraGrid CDT:削ぎ落としの純度
CDTは現行ラインナップにUltraGrid CDTとして継続されている。50L・768g(27.1oz)、フレームレス、最大推奨荷重25lbs(約11kg)。フロントの大型UltraStretchメッシュポケット、ベルト両サイドのヒップポケット、ロールトップクロージャー。余計なものが何もない。
最大の特徴はモジュラー構造だ。フォームバックパネル(59g)、ステルナムストラップ(14g)、フロントショックコード(20g)、アイスアックスループ(11g)——すべて取り外しができる。ヒップベルトごと外せば重量は434gまで落ちる。「削れる余地」を設計に組み込む——これはULAの一貫した思想だ。
旧モデルの頃は今より素材も構造も簡素だったが、その分「パックとの対話」があった。どこに何を入れるか、どう詰めるかで背中への収まり方が全然変わる。使い込むほどに体に馴染む感触——あれが僕の中のULAの原体験だ。
6. おわりに:変わらないことの説得力
ULA Equipmentは、創業から25年経った今も、ユタ州ローガンで縫い続けている。
オーナーが3代変わっても、工場がアメリカ国内を出なかった。規模が拡大するたびに施設は大きくなったが、場所は同じ街だ。これを「国産主義」と読むこともできるけれど、僕には「作る人間とトレイルの距離を縮めたい」という動機に見える。ローガンは Wasatch Range へのアクセスが良く、Bridger-Teton Wilderness も近い。縫っている人間たちが、週末に同じパックを担いで山に入れる場所に工場がある——そういう物理的な近さが、道具の精度に滲み出てくると思う。
旧モデルのCDTを初めて担いだときの感触は、たぶんそういうものが凝縮されていたんだと今になって思う。道具の向こう側に人の意図が見える、という体験。それがULAを選ぶ理由として、今も有効だと感じている。
日本での購入:国内正規取扱店は Bamboo Shoots、Moonlight Gear、Tarcit、Leisures 等。在庫の入れ替わりが早いため、直接各ショップの在庫ページを確認のこと。