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ULブランド探訪:Trail Bum | 「致命的な考えかた」を抱えたまま、それでも作り続ける理由

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TRAIL BUM
2015 — Tokyo, Japan
「メーカーとしては致命的とも言える考えかた」を持つブランドの
ザックが、なぜここまで欲しいのか。

1. ゴーライトが消えた日

1998年、アメリカ・コロラド州。ひとつのブランドがOR(Outdoor Retailer)ショーに現れた。

Go Lite(ゴーライト)。レイ・ジャーディンのPCT Hiker's Handbookに端を発するウルトラライト思想を、はじめて「市販品」として具現化したブランドだ。フレームなし、ヒップベルトなし、特殊素材なし——とにかく削る、削る、削る。初めて実物を目にしたとき、その潔さに言葉を失ったという声は多い。

Go Liteは日本でも熱狂的な支持を集め、三鷹のハイカーズデポをはじめULシーンの中心に置かれた。だが2014年頃、そのGoLiteが静かに姿を消した。

そのとき「この世界観を消してはいけない」と考えた人間がいた。「もう一度マーケットに、軽くてシンプルなものを戻したい」——その一念だけを持って、2015年、Trail Bumは東京で産声を上げた。

Trail Bum Bummer バックパック
画像引用: Trail Bum公式サイト

名前の由来は明快だ。「Bum」とは英語で「何かに没頭するあまり、そこに生活の軸足を移してしまった人」を指すスラング。スキーバム、サーフバム——そういう文脈の、トレイルバム。トレイルで生きることを選んだ人たちのための道具を作る。それがこのブランドの出発点だ。


2. 致命的な告白

普通、メーカーはこういうことを言わない。

「トレイルバムでは、マーケットにはもうすでに物が充分にあると考えています。ですので、そもそもの話として、あまり新しい製品を作る必要性を感じていません。例えばバックパック一つとっても世に多くの製品が存在し、次々と生み出されているからです。これはメーカーとしては致命的とも言える考えかたでしょう。そして常に内包されているジレンマ。極端な話、ゆくゆくはゴミになってしまうものを新しく作り出す行為なのです。しかし一方で、スルーハイカーやトレイルバムたちが好むような、シンプルな構造のバックパック、シンプルなデザインのウェアが市場からなくなっていく現実を知りました。そうであれば自分たちのためにも作るしかないと考えたのです。また本来私たちが何気なく使っている道具の多くは「初め」はシンプルであったはず。そういうものを「便利」と引き換えに忘れてはいけないという思いもあります。」

— Trail Bum ブランドコンセプトより

「ゴミになってしまうものを新しく作り出す行為」。

これはメーカーが自社製品について口にする言葉ではない。でも彼らはそれを、コンセプトページの中心に平然と書いている。自らを批判する文章を、ブランドの旗として掲げている。

この一文に出会ったとき、Trail Bumというブランドへの興味が一気に変質した。「かっこいいザックを作るブランド」ではなく、「自分たちが本当に欲しいものを、覚悟を持って作るブランド」だと理解した。

ゴッサマーギアの創設者はかつてこう言った。「ULバックパックにオリジナルなんてものは存在しない。シンプルを追求すれば、最終的には同じようなデザインになる」と。Trail Bumはその言葉を正直に受け止めた上で、「その中でトレイルバムが作る意味は何か」を問い続けている。


3. シンプルを守る、三つの選択

Trail Bumの設計哲学は抽象的なスローガンではない。製品の隅々に、具体的な「選択」として刻まれている。

普通のナイロンで、十分だ

「できる限りそぎ落とす。特殊素材でなくても今のナイロンで充分だし、過剰な縫製をせず自作っぽくても問題はない」——これがTrail Bumの設計方針だ。

BummerやSteadyのメイン素材は100Dまたは200Dのリップストップナイロン。シャッキリと張りがあるが、ほどよく柔らかく、折り畳めばヘナリと薄くなる。派手なコーティングも複合ラミネートも要らない。縫い目にはシームシーリングを施さない——テープで塞いでしまえば、フィールドで針と糸があれば直せる設計が死ぬからだ。

ただし、2024年に登場したGo-onはこの基本路線に変化をもたらした。素材にUltra Weave Ultra200Xを採用したのだ。これはUHMWPE(超高分子量ポリエチレン)繊維を用いたセイルクロス系素材で、同重量のナイロンをはるかに上回る耐摩耗性と、繊維自体が水を吸わない疎水性を持つ。

これを「普通のナイロンで十分という哲学への裏切り」と見るかどうか。僕はそう思わない。シームシーリングなし、修理前提の構造——設計の根っこは変わっていない。Go-onは「より長く使えること、より修理しやすいこと」を追求した結果として、素材だけが進化した製品だ。ゴーライトが「よりシンプルに」を目指したように、Trail Bumは「より長く使えるシンプル」を目指している。

ポケットに「用途を書かない」

「使うシチュエーションがイメージできすぎるデザインにはならないように気をつけています。例えば『〇〇用ポケットです』のような。できるだけ、あえて自由度を残す」——これもコンセプトページに書かれた言葉だ。

Trail Bumのバックパックに、「ハイドレーションスリーブ」も「トレッキングポールホルダー」も「レインカバーポケット」もない。大きなメインコンパートメント、前面のフラップ(またはメッシュ)ポケット、サイドのスリット。それだけだ。

「便利な道具は思考を奪います。考えて使いこなすことこそ、道具を使う喜びである」——その信念が、あえて「余白」を残す設計になっている。同じポケットを、ある人はレインウェアの収納に使い、別の人はスナックの取り出しに使い、またある人はファストパックの一時スタッシュに使う。そういう使い方の多様性を、Trail Bumは意図的に設計に組み込んでいる。

リアルなハイカーのフィルター

Trail Bumの製品には、原型となった実在のバックパックがある。

BummerとSteadyのベースになったのは、日本初のトリプルクラウン(AT・PCT・CDT)を達成したスルーハイカーが、何ヶ月ものロングトレイルで実際に使い続けた自作のバックパックだ。フィールドで生まれ、フィールドで育てられた設計が、そのまま製品になっている。Big Turtleもハイカーズデポのスタッフがフィールドで愛用していたサコッシュのデザインが原点だ。

「何を作るにしても、リアルなハイカーやトレイルバムたちのフィルターを通し、彼らが『良し』と思うものでないと作る意味がない」——この方針は宣言ではなく、製品の来歴そのものに刻まれている。


4. 製品の系譜

BIG TURTLE
13–19 L
250 g〜
¥10,780〜
ドローコード一本で閉まるシンプルな口。ハイカーズデポスタッフのサコッシュが原型。日帰りから日常使いまで、「荷物を選ぶ喜び」を教えてくれる入門モデル。
BUMMER
30 L
370 g
¥19,800〜
ウエストベルトなし。広い幅のショルダーベルトだけで10kgの荷物をしっかり保持する。スルーハイカーの自作パックがベース。トレイルと街を行き来する万能モデル。
STEADY
40–50 L
485 g
¥23,100〜
ロングトレイルのフラッグシップ。北米の6ヶ月ハイクを想定したエクステンションカラーと、3Dメッシュのヒップハーネスを備える。「歩き続ける」ために設計された。
GO-ON
30 L+
680 g
¥38,500
Trail Bum初のUltra200X採用。ロールトップ×フラップのインダストリアルな外観と、保水しない素材。シームシーリングなしの修理前提設計は変わらず。ブランドの現在進行形。
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Trail Bum Bummer フィールド使用イメージ
画像引用: Trail Bum公式サイト

ウェアラインも同じ哲学の上に立つ。Walker Shell Jacketは3レイヤーのPertex Shield Proを採用。耐水圧20,000mmの防水性能を持ちながら、構造はシンプルに絞られている。「半年のロングトレイルで使い続けられる耐久性」を基準に素材を選んだとされ、233gという重量は機能の過不足を感じさせない落とし所だ。


5. こんなハイカーに刺さる

◎ こんな人に刺さる
  • 多機能ギアの「機能過剰」に違和感を感じている
  • 「使い方は自分で考えたい」と思う
  • 国内外のロングトレイルを歩いてみたい
  • 壊れたら直しながら長く使い続けたい
  • インダストリアルな無骨感に惹かれる
  • 日本発のブランドを育てたいという気持ちがある
△ 別の選択肢を検討したい人
  • 細かいオーガナイゼーション(仕分けポケット多数)が必要
  • シームシーリング済みの完全防水を求める
  • フレームシステムによる重量分散を重視する
    → 山と道 THREE、Granite Gear等
  • すぐ在庫を確保したい(人気モデルは品薄になりやすい)

価格対価値について: BummerやSteadyは¥17,600〜¥22,000という価格帯で、性能を考えれば実用的な選択肢だ。Go-onの¥38,500はUltra200Xの素材コストが反映されており、同素材を使うLITEWAYやTrail Stuffと比較しても適正な水準にある。「長く使う」前提で考えれば、コストパーユースは良好だ。


6. おわりに:「それでも良い」

コンセプトページの末尾に、こんな一文がある。

「多くの人に理解してもらえないかもしれない。それでも良い。」

この「それでも良い」という言葉が、Trail Bumというブランドを一番よく表していると思う。シンプルさを求めれば市場に受け入れられない可能性がある。ゴミを作ることへの後ろめたさを持ったまま製品を出す。それでも、今のマーケットにないものを作らなければならないから作る——その覚悟の上に、BummerもSteadyもGo-onも立っている。

「シンプルであり続けることは簡単ではありません」——同じページにそう書いてある。

気を抜けば足してしまう。便利という言葉に惑わされる。Trail Bumは10年近くそれと戦い続けて、未だに同じ問いを自分たちに向けている。棚で浮くあの異形のシルエットは、その戦いの証だ。

Trail Bum公式サイトでラインナップを見る

Go-onの実際の使い心地——雨の熊野古道と氷点下の奥多摩での記録は別記事にある。→ Trail Bum Go-onを熊野古道・奥多摩テント泊で使い込んで気づいたこと


引用・参考資料
本記事中のTrail Bumブランドコンセプトに関する引用(「メーカーとしては致命的とも言える考えかた」「ゆくゆくはゴミになってしまうものを」「多くの人に理解してもらえないかもしれない。それでも良い。」「シンプルであり続けることは簡単ではありません」等)は、Trail Bum 公式ブランドコンセプトページより引用。
設計方針に関する引用(「できる限りそぎ落とす」「使うシチュエーションがイメージできすぎるデザインにはならないように」「便利な道具は思考を奪います」等)は、同ページおよびGO OUT WEB「Trail Bum ブランドピックアップ」より。
「ULバックパックにオリジナルなんてものは存在しない」はGossamer Gear創設者の発言としてTrail Bum公式コンセプトページに記載されているものを引用。
各製品スペック・価格はTrail Bum公式サイト(2026年5月時点)に基づく。

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