山道具ラボ by Daringdaddy

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ULブランド探訪:Pa'lante | ソルトレイクのbasement発、底メッシュ1枚で世界を変えた前進主義

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1. はじめに:僕がPa'lanteに惹かれる理由

スルーハイカーのトレイル動画を眺めていると、ある瞬間にふと目が止まる。歩く速度を緩めずに、片手を背中の真下――ザックの底面に回して、何かを放り込んだり取り出したりする仕草。立ち止まらない。あの位置に収納がついているパックは、決して多くない。

僕はまだPa'lanteを所有していない。けれどUL界隈を掘れば掘るほど、米国ユタ州ソルトレイクシティの2人組ブランド――Pa'lante Packs に何度も行き当たる。彼らがザックの底面に縫い付けたメッシュポケットは、いまや他社が次々と模倣する「スルーハイク的シグネチャー」になった。

ただの追加収納ではない。あの一枚は、「歩行を止めない」という思想を物理化した設計言語だ。本稿は、その思想と、それを支える2人体制の小さな工房に踏み込む探訪記。


2. ユタの地下室から始まった、2人だけの工房

Pa'lante Packs は 2016年、Andrew Bentz と John Zahorian がユタ州ソルトレイクシティで創業した。最初に作ったのはわずか100枚程度のシンプルパック。Andrew の家の地下室にミシンを並べ、Instagram と YouTube で売り捌くというDIYマーケティングからスタートしている。

ブランド名 "Pa'lante" は、Andrew がパナマに住んでいた頃に耳にしたスペイン語フレーズ "para adelante" の省略形だ。意味は 「前へ」「進み続けろ」。トレイルでハイカーが互いに掛け合う応援のような響きを持つこの言葉が、製品名ではなくブランド名そのものに据えられている。

2017年、Joe "Stringbean" McConaughy がアパラチアン・トレイル(AT)のFKT(最速既知記録)を Pa'lante のパックで樹立した。AT界隈で「Stringbeanは何を担いでいた?」というギアリストが拡散し、Pa'lante は一気にスルーハイカー業界の認知を得る。広告予算ゼロの草の根ブランドが、トレイル文化の内部から押し上げられた瞬間だった。

現在のチームは Andrew Bentz と Andy Gohlich の 2人体制。設計はユタ州、運営はカリフォルニア州ビショップから指揮し、製造は品質確保のためベトナム(バックパック)、中国(アパレル)、ユタ州オグデン(小ロット)に分散している。


3. 「自分たちが使いたいものだけを作る」という頑固な第一原理

Pa'lante の設計思想を一文で言うなら、共同創業者がインタビューで語ったこの言葉に尽きる:

"We try to not chase bigger trends and just make things we want to use." 「より大きなトレンドを追わず、自分たちが使いたいものを作るだけ」

表向きはありふれたミニマリズム宣言に聞こえる。だがPa'lanteのそれは、3つの点で他のULブランドと明確に角度が違う。

(1)「機能を削る」のではなく「動作を観察する」

通常のULブランドは「いかに軽く」「いかに削るか」を競う。Pa'lanteの出発点はそこではない。まずスルーハイカーが歩行中にどう動くかを観察し、その動きを邪魔しない――あるいは後押しする――最小限の機能を、最も意味のある位置に置く。底面メッシュはその象徴で、「追加収納」ではなく「歩きながら手が回る唯一の場所」という解像度で設計されている。軽さは結果でしかない。

(2) ハードウェアの最小化=信頼性のため

V2の主要構成を眺めると、バックルやコードロックの少なさに気づく。ロールトップは1点止め、ヒップベルトは標準では省略、ストラップ類も取り外し可能。これは「軽くするため」というより、「トレイルで壊れる可能性のあるパーツを最小化するため」だ。重量と信頼性が同時に手に入る、副作用としての軽量化。

(3) 営業もマーケ専任もいない――製品が広告

Pa'lanteには専任のマーケティングチームが存在しない。Andrew と Andy の2人が、設計・テスト・出荷・SNS・顧客対応のすべてを回している。新作の発売告知すらInstagramの1投稿で終わる。それでも在庫が瞬殺されるのは、Joe "Stringbean" のAT FKT以降、製品そのものがコミュニティ内で勝手に拡散しているから。「広告予算ではなく信頼で売る」という、ULガレージブランドの理想形を最も純度高く体現している。

そしてこの3つを支えているのが、「リリース前に必ずトレイルで生活する」という鉄則だ。AndrewはPCT・CDT・ATを歩いた本物のスルーハイカーで、新作V2のフィードバックループは机上ではなく数百マイルの実地で形成される。「他社よりたくさん作る」ではなく「他社よりよく使われる」。前へ進む(pa'lante)という哲学が、規模ではなく密度を選ぶ意思決定として現れている。


4. 底面メッシュという宣言:偏執的に守られたシグネチャー

Pa'lante V2 ── スルーハイカー設計者が作る24-30Lフレームレス、底面メッシュポケット標準
画像引用: Pa'lante Packs JAPAN(Nomadics 日本公式)

Pa'lante を Pa'lante たらしめる最重要シグネチャーは、ザックの底面に縫い付けられたメッシュポケットだ。

通常のフレームレスULパックは、サイドメッシュ+フロントメッシュ+ヒップベルトポケット、という三点配置で行動中アクセス性を確保する。Pa'lante はそこに 「底面メッシュ」 という第四の収納を加えた。位置として一見不便そうだが、実際に背負って歩いてみると役割が見える。

  • ゴミ放り込みポケット: 行動食の包み紙、ティッシュ、果物の皮を歩きながら親指で突っ込める
  • レインジャケット待機所: 雨予報の日、シェルを底メッシュに転がしておけば、降り出した瞬間にザックを下ろさず取り出せる
  • 重量バランス調整: 軽量=低重心設計のフレームレスパックで、底に少量のヘビーギア(テントポール等)を入れて姿勢を整える

これは「便利機能」ではなく 「立ち止まらない歩行」を物理化した設計だ。前進を信条とするブランドが、ザックの最下部に置く意味――身体を止めずに手を回せる位置に、最頻アクセスの収納を据える――そのロジックは美しいほど一貫している。

素材選定も同じ流儀。V2 は 210D UHMWPE Gridstop もしくは Ultraweave 200X という、軽量と耐摩耗を両立する最新ファブリックを採用。生地メーカーが新世代を発表すると、Pa'lante は次のロットでそれを試しに入れる。これは Andrew が「自分が使いたい」素材を試したい欲求と、ハイカー設計者の責任感の両方から来ている。


5. 僕が唸った代表作

V2(フレームレス・スルーハイカー定番)

24〜30L、フレームレス、510〜530g(18oz前後)。Pa'lanteのメインライン、ブランドの哲学が最も色濃く出る一本。

スルーハイクで「軽量×低重心×すぐ手が届く収納」を1パックで完結させたい人の第一候補。底メッシュを標準装備し、サイドメッシュ・フロントメッシュ・シンプルなロールトップという四点配置で行動中アクセス性を担保する。ヒップベルトは標準では省略、ハードウェアは極限まで切り詰められている。素材は 210D UHMWPE Gridstop の Standard と、Ultraweave 200X の Pro。

V2の真骨頂は 「Joey Straps」によるベストハーネス換装だ。標準のショルダーストラップを外してランニングベスト型ハーネスに差し替えるだけで、同じパックが「歩くULパック」から「走れるファストパッキングパック」へ性格を変える。1台で2つの性格を持てるという設計は、作り手の中で「歩く」と「走る」の境目がもともと曖昧であることの現れでもある。

Joey(ファストパッキング寄り、ベストハーネス標準)

Pa'lante Joey ── 24L・約410gのベストハーネス標準、走れるULパック
画像引用: Pa'lante Packs JAPAN(Nomadics 日本公式)

24L、約410g(14.3oz)、ベストハーネス標準。Joe "Stringbean" McConaughy のAT FKT(2017年、45日12時間)に直結する一本で、Pa'lanteを世界に知らしめた象徴的モデルでもある。

V2との違いは「走行性」への振り切り。ベストハーネスが標準装備で、走行中にボトルや行動食を即座に取り出すための胸ポケットが充実している。フロントメッシュは縦長で、走りながら片手で何かを掴みやすい形状。背面パッドは薄く、ランニング時の上下動を抑える設計。ファストパッカー・トレイルランナー・スピードハイカーが、2〜3日の自己完結装備を背負って山に入る場面で、定番として地位を固めている。

「歩くためのV2」と「走るためのJoey」――同じ思想から派生した2つの解答が、Pa'lanteのラインナップの背骨を作っている。

Desert Pack(砂漠・キャニオン特化)

砂漠縦走やスロットキャニオン降下といった、摩擦・砂塵・直射日光に晒される過酷な乾燥地帯を想定した派生モデル。Andrewが米国南西部のトレイルで実際に使い込んだ末に生まれた、地域特化型ザックだ。

通常のULファブリックが摩耗で穴を開ける状況下で、Desert Packは生地構成と縫製を専用化している。ハイドレーション携行を前提にした内部設計、岩壁での擦過に耐える底部の作り、低重心を意識したパッキング寸法――観光的なギミックは一切ない。「砂漠を歩くスルーハイカーが本当に必要とするものだけを乗せる」というPa'lante流の用途特化が、最も明確に出る一本。

Snow Pack(冬季バックカントリー特化)

雪山ハイク・スキーツーリング・冬季バックパッキングを想定した、ラインナップで最もテクニカルな存在。ピッケルアタッチメント、スキーキャリー対応のサイドコンプレッション、雪上で硬化しにくい素材選定といった、冬季特有の要件が反映されている。

注目すべきは、Snow Packも底面メッシュを継承している点。雪上で底メッシュは意味があるのか――という疑問が浮かぶが、実際にはスキンやワックスバー、行動食の包み紙を瞬時に放り込める場所として、冬季でも機能する。「シグネチャーは用途を超えて適用される」というPa'lanteの設計信念が、最も保守的になりがちな冬季モデルにおいても譲られていない事実が面白い。


V2・Joey・Desert・Snow――4モデルすべてに底メッシュが残っている事実は偶然ではない。用途が変わってもブランドの第一原理は変えない。これは「機能を増やすこと」を競う家電的な設計思想とは真逆の、コア・コミットメントを守り抜くガレージブランドの強さだ。


6. おわりに:「進み続けろ」というスペイン語の宣言を、底に縫い付ける

Pa'lante を一言でまとめれば、「スルーハイカーが自分のために作ったパックを、結果的に世界中のスルーハイカーが背負っている」 ブランドだ。

ユタの地下室で2人で始まったプロジェクトが、AT FKT を経て世界のULコミュニティに広がり、いま日本では Nomadics(Moonlight Gear 運営のpalantepacks.jp)が公式日本サイトを構えている。Tokyo・大阪・福岡の Moonlight Gear 実店舗で実物を見られるのも、ありがたい話。

僕がいつか日本のロングトレイルを北上するとき、ザックの候補にはきっとJoeyかV2が並ぶ。前進という言葉を背中に背負って、底メッシュにエナジーバーの包み紙を突っ込みながら歩く――そんな日を、密かに思い描いている。

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