- 1. はじめに:道具が、人を外に連れ出す
- 2. 兄はライター、弟はデザイナー——「Pack And Go」前史
- 3. 設計思想:丸いけど、尖っている
- 4. 僕が背負ってきた道具たち
- 5. おわりに:次に、何を出すのか
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1. はじめに:道具が、人を外に連れ出す
2011年、東日本大震災のあと、ひとりのバッグデザイナーが15年続けたフリーランスを畳んで会社を起こした。その動機が、少し変わっている。「みんなが家にこもって外に出なくなったら、世の中はもっと荒む。だったら自分が道具を作って、人をもう一度外へ連れ出せばいい」。儲かりそうだから、でも、好きだから、でもない。外に出る人を増やすための道具屋。そんな発想から生まれたのがPAAGO WORKS(パーゴワークス)だ。
僕の山道具はパーゴワークスがやけに多い。Rush 20、Buddy 22、Buddy 33、Ninja Tarp、Ninja Nest、そしてSnap。走るためのザックから、タープ泊のシェルター、ショルダーにぶら下げる小物まで、各ジャンルに一つずつパーゴが居座っている。安かったからでも、流行りに乗ったからでもない。気づいたら増えていた、という増え方だ。なぜこうなるのか。理由を言葉にしようとすると、このブランドの「ものの考え方」そのものに行き着く。
2. 兄はライター、弟はデザイナー——「Pack And Go」前史
創業者は斎藤徹。1971年東京生まれ、製品デザインの会社を経て1998年に独立し、「斎藤デザイン」の名で、大手アウトドアブランドのバッグを15年にわたり外部設計してきた人だ。つまり長いあいだ、彼は黒子だった。自分の名前はどこにも刻まれないまま、他社のザックに線を引き続けた。
兄がいる。アウトドアライターのホーボージュン——ペンネームで、本名は斎藤潤。HOBOは英語で「放浪者」の意だ。兄はフィールドで言葉を書き、弟は道具を設計する。妹もデザイナーだというから、よほど作る・表現することに傾いた家系なのだろう。2003年、兄弟は「HOBO GREAT WORKS」を立ち上げ、そこで一つのチェストバッグを世に出す。「パスファインダー」だ。
パスファインダーは、ショルダーハーネスの胸元に付けるマップケース兼オーガナイザーだ。ザックを下ろさずに地図を確認し、行動食を取り出せる。「歩きながら、止まらずに、必要なものに手が届く」——のちのパーゴ全製品を貫くこの発想は、最初の一個の時点で既にあった。
そして2011年。安定した裏方の仕事を捨て、自分の名前で表に立つ——その決断の引き金が、震災だった。ブランド名のPAAGOは "Pack And Go"——「さあ荷物を詰めて、出かけようぜ」の造語だ。沈んだ空気の底から、ずいぶん威勢のいい名前を選んだものだと思う。だが、その威勢こそが、起業の動機そのものだった。
3. 設計思想:丸いけど、尖っている
パーゴワークスの設計コンセプトは「UNIQUE & UNIVERSAL DESIGN」。既成概念に従わない尖り(ユニーク)と、誰がどこで使っても破綻しない普遍性(ユニバーサル)を、同じ製品の中で両立させる、という宣言だ。たいてい、この二つは引っ張り合う。尖らせれば人を選び、万人向けにすれば角が取れる。その矛盾を一個の道具に押し込めるのが、このブランドの芸風だ。
斎藤さん自身は、それを「丸いけど尖っている」と言い表す(Buddy 33の紹介などでも使われる、パーゴを象徴する言葉だ)。背中に沿う丸くやさしい形なのに、機能のどこかが必ず普通でない。ロゴが折り紙の手裏剣なのも、この二面性の表れだろう——誰でも折れる親しみと、よく研がれた一点突破。柔らかい紙でできた刃物、というわけだ。
その尖りは、たいてい「小さな不便」から生まれる。手裏剣型タープのNINJA、それに合わせるインナーのNINJA NEST、カメラを背負って登るためのFOCUS、3WAYで化けるSWITCH、ショルダーに留めるSNAP——どれも「こういう地味な不便、誰か何とかしてくれないか」という日常の隙間を、一個ずつ道具に翻訳したものだ。派手に大問題を解くのではなく、みんなが見て見ぬふりをしてきた小さな摩擦を埋めていく。
その象徴が、2014年のトレランパック「RUSH」だった。海外ブランドのベスト型が主流だった時代に、日本人の体と日本の山に合わせて設計をやり直し、初心者でも体にフィットを出せるようにした一台だ。以来11年で40を超えるモデルを生み、2023年にはRUSHを5機種に整理しきった。散らかすだけ散らかして、最後にちゃんと畳む。実験を重ねた末に整えるこの律儀さも、パーゴらしさのひとつだ。
そして、その実験は素材にもカテゴリにも及ぶ。DCFやUltraの次の世代と目される最先端生地ALUULA Graflyte®を主素材にしたロールトップパック「ZENN 35 EXP」。円筒形が常識のクッカーに、あえて角型で挑んでパッキングのデッドスペースを減らした「TRAIL POT」。テントをゼロから見直した軽量シングルウォールドーム「ZENN DOME SHELTER」(最小895g・前室80cm)——小さなポーチから、クッカーやテントという定番中の定番まで、パーゴはくり返し「まだ市場にないもの」を作りにいく。100Dや330Dの頑丈なナイロンで「普通の人に山を開く」ことを足場にしながら、誰も作っていないものへ手を伸ばす。守りに入らない、その振れ幅こそパーゴの本性だ。
4. 僕が背負ってきた道具たち
走るためのザックから、タープ、小物まで。僕の手元にあるパーゴを、一つずつ紹介する。
| 製品 | 重量 | 容量・サイズ | 価格(税込) | 僕の使い方 |
|---|---|---|---|---|
| RUSH 20 | 450g | 19L | ¥23,100 | トレランレース・ファストパッキング |
| NINJA TARP | 約470g | 280×280cm | ¥22,000 | タープ泊向け(自分は出番少) |
| BUDDY 22 | 660g | 22L | ¥20,900 | ふだんの日帰り登山 |
| BUDDY 33 | 1150g | 33L | ¥26,400 | 荷物の多い日帰り(山メシ等) |
| SNAP | 85g | 0.5L | ¥4,950 | 小物の定位置(どのザックにも) |
RUSH 20 —— レースやファストパッキングで担ぐ。
僕がRush 20を背負うのは、トレランのレースとファストパッキングのときだ。長い距離のレース——ハセツネ(日本山岳耐久レース)もこれで走った。19L・450g。本体は100Dナイロンとストレッチメッシュで、走るのに必要なぶんだけの軽さに抑えてある。背面に硬いフレームを持たず、荷物を背中に密着させ、無段階で調整できるショルダーハーネスで体に引きつける。走る道具として理にかなった設計で、フロントのポケットに行動食・水・地図を分けておけば、止まらずに手が届く。パスファインダー以来の「歩きながら手が届く」思想が、走る場面でそのまま生きている。
ただし、その密着が弱点と裏表だ。背中にぴったり貼り付くぶん、汗の逃げ場がない。長く走ると、背中はもちろん中身まで汗まみれになる。レース用と割り切れる人にはいいが、蒸れに弱い人は覚悟がいる。背中の蒸れそのものを減らしたいなら、後付けの背面パネルという別の手もある。
NINJA TARP / NINJA NEST —— 良い道具だが、テント派の自分には出番が少ない
280×280cmの正方形タープに見えて、Ninja Tarpの正体はアタッチメントポイントが21点もある変則シルエットだ。四隅、各辺、面の途中——そこら中にループが配され、ポールの本数や位置、張る高さを変えれば、オーソドックスなA型の屋根から、片側を大きく跳ね上げた開放的な張り方、低く絞った悪天候用まで、文字どおり何十通りにも姿を変える。手裏剣のような見た目は伊達ではなく、その分岐の多さの表れだ。約470gという軽さは、シリコンコートを施した薄手ナイロンによるもので、ソロのタープ泊には過不足ない。
面白いのは、パーゴがあえて「正解の張り方」を細かく教えないことだ。これだけのループを与えておいて、最適解はあなたが見つけろ、という突き放し方。NINJA NEST(吊り下げ式インナー)を合わせれば、虫の季節も寝床として完結する。タープとインナーで自分だけのシェルターを組み上げる——その過程そのものを面白がれるかどうかが、この道具の分かれ目だ。
ここははっきり書いておく。シェルターをテントで完結させている僕にとって、Ninja Tarpの出番は多くない。これは道具の優劣ではなく、スタイルが合うかどうかの問題だ。タープ泊やファストパッキングを軸にする人には、その自由度の高さがそのまま楽しさになる筆頭候補。一方、テント派が「一応タープも」と無理に持つ道具ではない。自分がどちら側の人間かで、評価がきれいに割れる一枚だと思う。
BUDDY 22 / 33 —— 実は、いちばん背負ってきたのはこれ
僕がいちばん高頻度で背負ってきたのはBuddyだ。22はふだんの日帰り登山に、33は山メシの道具を担ぐ「荷物の多い日帰り」に——友達と凝った山ごはんをやる日などに使う。共通して良いのは、まず頑丈さだ。330Dの厚手ナイロンを使い、RUSHの100Dとは別物の、ぶつけても気にならないタフな手触りがある。そして側面にバンジーコードを通せば外付けをいくらでも増やせる拡張性も、かなり気に入っている。生地の話はバックパックの素材の記事でも書いたが、Buddyは数字のとおり、軽さより耐久に全振りした作りだ。
弱点も正直に。22は耐水性能はそれほど高くない(とはいえ日帰りで割り切れば不満は出ていない)。33はトップリッド(上蓋)の形が独特すぎて使いづらい——大容量と引き換えの、数少ない難点だ。なお33は1150gとUL的には重いが、パーゴは「とにかく軽く」より「頑丈さと普通の背負い心地」を取るブランドで、その価値観がこの重さに出ている。最軽量を追う人は別の選択肢がある。
SNAP —— どのザックにも付く、小物の定位置
登山で地味に困るのが、「スマホ・財布・日焼け止めをどこに入れるか」だ。ザックのヒップベルトのポケットはモデルによって有無も大きさもバラバラ、ジャケットのポケットは走ると中身が暴れる。Snapはその隙間を突いてくる。0.5L・85gのこのポーチは、ショルダーハーネスに留めるだけで、どのザックとも相性がいい——ここが最大の強みだ。胸元に小物の定位置ができ、立ち止まらずに、片手で出し入れできる。
しかも、ザックを買い替えてもSnapはそのまま次のザックへ移せる。85gの小物に¥4,950は一見高いが、手持ちのザック全部で使い回せると考えれば腑に落ちる値段だ。弱点は容量で、ペットボトルは入らない——入るのはスマホ・財布・日焼け止め・行動食といった平たい小物まで。そこを割り切れる人にとっては、一度使うと外せなくなる小さな相棒になる。
で、どんな人に向くのか
海外のガレージブランド(たとえばULに振り切ったHMGやZpacks)が「軽さの限界」を攻める道具だとすれば、パーゴは「日本の普通の人が、普通に外へ出るための道具」を作っている。最軽量ではない。最先端素材でもない。けれど、ふだんの日帰りからレースまで、頑丈に付き合える懐の深さがある。
価格はRUSHが¥23,100、Buddyが2万円台と、特売品でもブティック価格でもない中庸だ。その値段で買えるのは「軽さ」ではなく、頑丈さと、日本の体・日本の山への素直さ、そして「あの地味な不便」を潰す工夫——そこに納得できるかどうかが分かれ目になる。加えて、Amazon・楽天・好日山荘あたりで普通に手に入り、店頭で背負って選べるのも見逃せない。直販頼みで実物を試しにくい海外ガレージブランドにはない、地味だが大きな安心感だ。
最初の一本に迷うなら、用途で選べばいい。走るならRUSH 20、ふだんの日帰り登山ならBuddy 22、山メシや撮影で荷物が増えるならBuddy 33。そこに小物の定位置としてSnapを足す——これが、僕の考える素直な入り口だ。
尖った軽量化を求めるなら他に行けばいい。「ちゃんと使えて、ちょっと面白い」を求めるなら、パーゴは外れない。
5. おわりに:次に、何を出すのか
パーゴワークスの道具を使っていると、「これを作った人は、きっと自分でも同じことに困ったんだろうな」と思う瞬間が何度もある。地図を見るのに止まりたくない、小物の置き場所を決めたい——どれも派手な悩みではない。けれど一つずつ潰されると、確かに山が少し快適になる。それは、長く黒子だったデザイナーが、特別な上級者ではなく「ふつうに山へ行く人」のために作る道具の、地に足の着いた優しさなのだと思う。
初心者に扉を開けながら、中身は誰も作っていないものを平然と出す。震災のあとに掲げた「人を外へ連れ出す」という動機が、いまも製品の一つひとつに生きている。だから気づけば、僕の山道具にはパーゴがやけに多い。
最軽量を競うブランドではない。それでも目を離せないのは、小さなポーチからクッカー・テントまで、「まだ市場にないもの」を作ろうとし続けるからだ。次は何を出すのか——それが気になって、つい新作をのぞいてしまう。UL振り切りの軽さとは別の場所で、このブランドは僕を山へ引っ張り続けている。