山道具ラボ

by Daringdaddy #山で使う道具の話 #軽さと快適さのあいだ #買う前に知りたかったこと

ULブランド探訪:LUNA Sandals —— 『Born to Run』が生んだ、ワラーチの正統

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LUNA Sandals Mono
画像引用: LUNA Sandals公式

1. はじめに:物語が強すぎて、あえて外した一足

テント場サンダルから始まった僕のサンダル探しは、気づけばトレイルを歩ける一足を求める旅になっていた。さんざん比べて結局選んだのはShammaとBedrock。だがその旅のあいだ中、いちばん強い引力で僕を引き止めたブランドがある。Luna(ルナサンダル)だ。

引力の正体は、製品ではなく物語だ。2009年のノンフィクション『Born to Run』——メキシコ北部の峡谷コッパー・キャニオン(銅渓谷)の奥に暮らす先住民タラウマラ族が、古タイヤを切っただけの素朴なサンダル一枚で何百キロも走る、その姿を世界に知らしめた一冊がある。あの本に実名で登場する裸足ランナーが立ち上げたのがLunaだ。これほど出自の物語が濃い履物は、そうそうない。だからこそ天邪鬼な僕は、物語に飲み込まれる気がして、あえて選ばなかった。それでも、その引力がどこから来るのかには、確かな理由がある。

2. 銅渓谷の、一足のワラーチ

創業者はBarefoot Ted(バーフット・テッド、本名Ted McDonald)。「痛みなく走る」方法を探していた彼は、2006年、銅渓谷でタラウマラ族と50マイル(約80km)のウルトラマラソンに参加する。そこで職人マヌエル・ルナ(Manuel Luna)と親交を結び、彼が古タイヤ製の伝統ワラーチ(タイヤやゴム板を足裏の形に切り、ひも一本で甲と踵に結んで履く、メキシコ発祥の極薄サンダル)を、テッドのために最初の一足として作ってくれた。この旅と出会いが、のちに『Born to Run』の中心的な場面として描かれることになる。

翌2007年、テッドは自作のワラーチで銅渓谷のウルトラを再び走り、「この履き方を世界に伝えたい」と確信する。そして2010年、シアトルでタイヤサンダルを自作していたスムイン兄弟(ScottとBookis)と出会い、三人でLuna Sandalsを創業した。ブランド名の「ルナ」は、最初の一足を作ってくれたマヌエル・ルナへの敬意から取られている。テッドは今も、銅渓谷の子どもたちの教育を支える基金を運営し、この履物を生んだ土地との関係を絶やしていない。

タラウマラ族——彼らは自らを「ララムリ(走る人)」と呼ぶ——は、峡谷の集落から集落へ、ときに100マイル(約160km)を超える距離を、この古タイヤのワラーチ一枚で駆ける。厚いクッションも、反発するミッドソールもない。にもかかわらず、現代のランナーを苦しめる故障とは無縁だ——という『Born to Run』の見立てが、「もっと厚く、もっとハイテクに」と進化してきたランニングシューズの世界に、冷や水を浴びせた。ただし、この「裸足に近いと故障が少ない」という見立てが科学的にどこまで正しいかは、慎重に見る必要がある(査読研究をもとにした検証は裸足・ミニマルシューズの科学にまとめた。タラウマラ=無故障の超人という像は、研究者自身が否定している)。テッドが銅渓谷から持ち帰ろうとしたのは、サンダルという製品ではなく、この「走り方」そのものだった。

出自がマーケティングの作り話ではなく、実在の人物と土地への恩返しに根ざしている——そこがLunaの一番の強みだ。

LUNA Sandals のあゆみ ── 年表
沿革素材
2006
テッドが銅渓谷でタラウマラ族マヌエル・ルナのワラーチに出会う。
2007
自作ワラーチで銅渓谷ウルトラを再走し、製品化を決意。
2009
『Born to Run』刊行。バーフット・テッドを世に知らしめる。
2010
シアトルでスムイン兄弟と創業。ブランド名はマヌエル・ルナへの敬意。
2012
ATS(結び目が足裏に出ないストラップ)を確立。
現在
ワナッチーへ移転後も、ワラーチの思想を現代の素材で更新し続ける。
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3. 結び目を、足裏から消す

ワラーチの宿命的な弱点は、ストラップだ。足にどう固定するか、結び目が足裏に当たって痛くないか、走って横ズレしないか。素朴なタイヤサンダルを「何十キロも走れる道具」に引き上げられるかどうかは、ほぼこの一点にかかっている。Lunaの技術史は、そのストラップとの終わりのない格闘でできている。

2012年に導入したATS(All-Terrain-Strapping)は、ソール裏に座ぐりを設けてプラグでウェビングを留め、足裏に結び目もバックルも出さない構造だった。指の股を抜けるのは摩擦の少ない細いチューブ状のストラップ、甲から踵へ回すのは幅約16mmのナイロンで、踵側には伸びるレザーを噛ませてズレを抑える——「結ばずに素早く締まり、走っても横ずれしない」を、部材の一本一本で作り込んでいる。この思想は現行の特許取得済みPerformance Lacesへ受け継がれ、一本の連続ループで一気に締め上げられるまで洗練された。「横ズレしてマメができる」というサンダル最大の弱点を、伝統の民芸品から技術製品へ押し上げた核心が、このストラップ工学だ。

足を乗せる面にも仕掛けがある。ソール表面に約1mm(実測ベース)のラバー層を貼ったMGT(Monkey Grip Technology)は、汗や雨で濡れても足裏が滑らないためのフットベッドで、公式も「濡れた条件ならMGTが最適」と言い切る。トゥ穴・アンクル穴の補強も兼ねる、地味だがよく効く一枚だ。

とはいえ、この自由なストラップは最初のひと手間を要求する。かかと・甲・親指の股を通す締め具合を、自分の足で見つけるまでが最初の関門だ。だが一度そこを越えれば、サンダルは足の一部のように一体化する——走っても脱げず、擦れず、横にもずれない、という声が多い。

フットベッドは、足になじむPittardsのプレミアムレザーか、グリップと耐久に振ったMGTか——「快適さ」と「性能」を選ばせる二択になっている。

4. タイヤから、Vibramへ

伝統のワラーチのアウトソールは古タイヤだった。Lunaはそれを、用途に応じたVibramのソールに置き換えている。街〜ランには、EVAをベースにした微細発泡で最も軽く、衝撃をいなすMorflex。荒れたトレイルには、乾いても濡れても食いつく高性能ラバーMegagrip(ゴムの硬さを表すShore Aで65〜80、数字が大きいほど硬い)。同じLunaでも、路面が変われば足裏に敷くべきゴムも変わる、という考え方だ。

一方で、起源への敬意として、アップサイクルの古タイヤをアウトソールに使うモデル(Origen=スペイン語で「起源」)も残している。正確には、接地面が古タイヤ、その内側にVibramのミッドソールを重ねた二層構成で、「最も長持ちするソール」を謳う頑丈さだ。最新の素材で武装しながら、始まりのタイヤも手放さない。伝統と現代を、懐古でも上書きでもなく、思想として両立させているのがLunaらしさである。

このソールの使い分けは、そのまま買う側の選択軸になる。街と軽い運動が中心ならMorflexの軽い一足、荒れたトレイルや長い下りを攻めるならMegagripの厚手——同じLunaでも、路面と用途で最適解は変わる。だからモデル選びは、憧れの一足を指名する前に、自分がどこを走るのかから逆算するのが失敗しないコツだ。

5. 代表的な一足

Mono —— 迷ったらこれ、万能型のベストセラー

LUNA Sandals Mono
画像引用: LUNA Sandals公式

もっとも売れているのが、オールラウンドのMono(片足約5.9oz=約167g、ソール厚11mm)。街歩きから軽いトレイル、旅先まで一足でこなす、Lunaの標準形だ。厚すぎず薄すぎないソールと安定したストラップで、ワラーチが初めての人でも扱いやすい。「まずLunaを一足」という人の、失敗の少ない入口になる。

LUNA Sandals Mono
LUNA Sandals Mono
オールラウンド / 約5.9oz / ソール厚11mm / 実勢 約1.4万円

Venado 2.0 —— 最軽量、街にもなじむ一足

LUNA Sandals Venado 2.0
画像引用: LUNA Sandals公式

ラインで最軽量なのがVenado 2.0(片足約4.4oz=約125g、ソール厚9mm)。防水のVibram Morflexソールで、ランニングから普段履きまで軽快にこなす。薄くて軽いぶん地面の感覚も伝わりやすく、Lunaの入門としても、玄人の街履きとしても選ばれる。

LUNA Sandals Venado 2.0
LUNA Sandals Venado 2.0
軽量ラン/タウン / 約4.4oz / ソール厚9mm / 実勢 約1.3万円

Oso Flaco —— Megagripでトレイルに食いつく一足

LUNA Sandals Oso Flaco
画像引用: LUNA Sandals公式

トレイルでのグリップを最優先するならOso Flaco(片足約7.2oz=約204g、7mmベース+4.5mmラグ)。乾いた岩でも濡れた土でも食いつくVibram Megagripを奢った、Lunaのトレイル本命だ。薄手のベースにラグの深さを効かせ、荒れた下りでも足裏の情報を残しながら攻められる。さらにクッションと保護を厚く盛った兄貴分のOso(13mmベース、Vibramミッドソール入り)もあり、「サンダルで50マイル(約80km)走れるのか」という驚きを、この系譜が現実にしてきた。

LUNA Sandals Oso Flaco
LUNA Sandals Oso Flaco
トレイル/ハイク / 約7.2oz / 7mmベース+4.5mmラグ / Vibram Megagrip / 実勢 約1.5万円

弱点も正直に

万能ではない。価格は一足1.3〜1.5万円と、サンダルとしては安くない。ストラップは結び目こそ出ないが、自分の足に合わせて調整するまで少しコツがいる(ここを詰めないと横ズレやマメの原因になる)。そして当然ながら、ベアフット系サンダルは薄いソールへの「移行期間」と、寒さ・悪路での保護の限界を抱える。サイズも普段の靴のcm表記とズレることがあるので、可能なら試し履きか、公式のサイズガイドで足長・足幅を測ってから選びたい。物語に惚れて飛びつく前に、この現実は知っておいたほうがいい。

6. おわりに:4足のなかの、Luna

冒頭に書いたサンダル探しで、最後まで僕の手元に残ったのは4ブランド。所有しているのはShammaとBedrock、強く惹かれつつ見送ったのがXeroとLuna——同じワラーチでも、性格ははっきり分かれる。

  • Bedrock:Vibram Megagripとソール張り替えで一生履き継ぐ、頑丈なアドベンチャー派
  • Shamma:軽さを突き詰めた、レーサー気質のワラーチ
  • Xero:DIYキットから世界へ、いちばん手に入れやすい入門の一歩
  • そしてLuna:『Born to Run』とタラウマラのワラーチ文化を、最も正統に受け継ぐ物語派

Lunaを選ぶ理由は、性能だけでは説明しきれない。銅渓谷の一足から始まった物語に敬意を払いながら、Vibramと特許ストラップで現代の山と街をちゃんと走れる——その両立に価値を感じるかどうかだ。裸足に近い履物の"源流"に、いちばん近い一足。天邪鬼な僕は結局よそへ行ったが、王道を外す理由が特にないなら、この物語ごと履いてみる価値は十分にある。

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