- 1. はじめに:僕がLiteAFに惹かれる理由
- 2. キッチンのミシン1台から始まった家族経営
- 3. 標準モデルを作らない、という設計思想
- 4. ダイニーマ・ウルトラウィーブ・エコパック、3択という答え
- 5. 僕が唸った代表作
- 6. おわりに:重さを嫌うなら、距離まで詰める
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1. はじめに:僕がLiteAFに惹かれる理由
2025年4月、メイン州モンソンという町に、パックを一針ずつ縫う小さな工房が引っ越してきた。アパラチアン・トレイル(AT)の入口から1マイルも離れていない場所だ。トレイルに惹かれて始まったブランドが、何年もかけてトレイルの真横まで物理的に近づいていく。そんな会社が、実在する。LiteAFだ。
僕がこのブランドに行き着いたのは、それまで使っていたULAのCDTからの乗り換えを検討していた時期だった。UL系バックパックを片っ端から比較する中で、LiteAFの注文画面に行き当たった。素材を3種類から選び、色を40通り以上から選び、ポケットの有無まで1つずつ足していく。既製品の中から一番近いものを探すのではなく、最初から自分の仕様を組み立てていく買い方に、正直かなり惹かれた。
結局、注文には至らなかった。理由は単純で、日本への持ち込みが重い。フルカスタムのバックパックは製作だけで12週間、そこに国際便で3〜4週間が乗る。関税も購入者負担だ。半年仕事になる買い物に踏み切れず、比較検討はそこで止まった。
それでも、LiteAFという存在そのものへの興味は消えなかった。台所のミシン1台から始まり、家族3人でATのすぐ隣まで工房を運んだこの会社は、いったい何を大事にしてここまで来たのか。
2. キッチンのミシン1台から始まった家族経営
創業者のChris Millardは、2017年、自身のアパラチアン・トレイル・スルーハイクに備えて、YouTubeの動画だけを頼りに独学でミシンを覚えた。市販のギアに納得がいかず、自分で縫うしかないと判断したのがきっかけだ。スタッフサック、ベアバッグキット、ジッパーポーチ。作るうちに手元の在庫が余り、余剰分をふざけ半分でEtsyに「LiteAF」の名で出品したところ、即完売した。
この社名自体、最初から両義的に仕込まれている。共同創業者Lorraineによれば、名付けは「ちょっとしたお遊び」で、公式にはロゴに描かれた羽根を根拠に「light as a feather(羽根のように軽い)」と説明できる。ただし本人の言葉には「そう取りたいならね」という留保がつく。もう一段際どい読み方を、否定も肯定もしていない。まじめな顔でふざける、というこのブランドの気質は、社名の時点からすでに始まっていたことになる。
これが2018年、ブランドとしてのLiteAFの始まりになる。反応の大きさに驚いたChrisは、拠点をニュージャージー州サウサンプトンの台所カウンターから、ガレージの片隅に置いた工業用ミシン(Juki)へと移す。2019年4月には専用の工房兼倉庫を構えるまでになった。
現在は妻のLorraine Millard、そして息子を含めた少人数のファミリービジネスとして運営されている。掲げるモットーは「Why hike heavy?(なぜ重い荷物で歩くのか)」。そしてこの言葉を体現するように、2025年4月、工房そのものをメイン州モンソンへ、ATの結節点である「100マイル・ウィルダネス」入口の目と鼻の先へと移した。作る人間とトレイルの距離を、比喩でなく物理的に縮めた格好だ。
3. 標準モデルを作らない、という設計思想
LiteAFのラインナップを眺めていて最初に戸惑うのは、「これが完成形です」という顔をした製品がひとつもないことだ。パックの型番はあっても、実際に届く1台は注文ごとに違う。素材、色、ポケット構成、トルソー丈。すべてが選択式で、既製品はむしろ「選ばなかった場合のデフォルト」に近い。
素材はUltraWeave™・ECOPAK™・Dyneemaの3種から選ぶ。ショルダーストラップはS字カーブの立体裁断で、公式は「なで肩からいかり肩まで、femme-presentingなハイカーの体型も含めて」対応すると明言している。パックのサイズも3段階のトルソー展開があり、追加できるポケット類(ショルダー、サイド、ボトム、ヒップベルト)もすべて個別課金のオプションとして並ぶ。「妥協せずに、自分の完璧な1台を組み立てる」というのが公式の謳い文句だ。
環境面への配慮も設計思想の一部として組み込まれている。ECOPAK™はペットボトル由来のリサイクル素材で、公式は再生可能エネルギーによる製造とCNC裁断による廃材削減を掲げる。「高機能なギアを、地球への負荷を減らしながら作る」という言葉を、フルカスタム路線と同じ熱量で語っているのが印象的だ。
この徹底したオーダーメイド路線は、裏を返せば量産と在庫の効率を捨てる選択でもある。フルカスタムのバックパックが製作だけで12週間かかるのは、この設計思想の直接の代償だ。速さより、自分の仕様に合わせ切ることを取った。そういうブランドだと思う。
4. ダイニーマ・ウルトラウィーブ・エコパック、3択という答え
素材へのアプローチにも、LiteAFらしさが出ている。多くのULブランドは主力素材をひとつ決め、世代を重ねながらそれを置き換えていく(例えばULA Equipmentは、Robicから自社開発のUltraGridへ、さらにULTRA X 200へと素材を切り替えてきた)。LiteAFは逆で、3つの素材を並べたまま、選ぶ判断をユーザーに預けている。
- Dyneema(DCF):軽さでは頭ひとつ抜けるが、公式自身が「UltraWeaveより耐久性は劣る」と認めている
- UltraWeave™:Dyneema比で引き裂き強度が3倍とされ、耐摩耗性も高い。重量と頑丈さのバランス型
- ECOPAK™:リサイクルPETベース、DWR加工済みで防水性がある。環境配慮を優先したい層向け
「どれが正解か」を会社が決めない代わりに、それぞれの弱点も含めて開示している姿勢は好感が持てる。ロングトレイルの後半で軽さを削りたいのか、岩稜帯での擦過に備えたいのか、環境負荷を優先したいのか、用途と価値観を自分で選ばせる設計だ。
5. 僕が唸った代表作
Curve Full Suspension:S字ストラップとアルミステーの本気
フレーム入りのフラッグシップ。40Lの本体に外部ポケット15L超を加えた計55L、重量は708〜907g(サイズ・オプション次第)、推奨積載量は約16kgとされる。脱着式の湾曲アルミステー2本と、フルパッド仕様の背面パネルを組み合わせた構成で、上部Yストラップと下部Vループ、5点のサイドコンプレッションで荷物を締め上げる。クマ缶を縦向きのまま内部に収納できる設計も持つ。ULAのCDT(約54L・573g)と容量帯はほぼ同じだが、フレーム入りの分だけ重量は上乗せされる。軽さより荷重分散を取った、という選び方になる。
写真で見ると分かる通り、Curveは横幅を絞って高さで容量を稼ぐ、細く縦長のシルエットをしている。これは見た目だけの話ではない。実際に使うハイカーからは「奥行きが浅い分、荷物の重心が背中に寄って揺れにくい」という評価が出ており、フレームに頼らず荷重を安定させるための理にかなった形だ。一方でこの細さは万能ではなく、クマ缶のような太くて硬いものを積む場面では相性が悪い。内部に入れると缶が背中に直接当たって不快だったり、天面に外付けしようにも幅が狭くベルトで固定しづらく、ずれ防止に自作の工夫をしているユーザーもいる。「細くする」という選択は軽さと安定のトレードオフとして筋が通っているが、クマ缶必須のロングトレイルでは事前に確認したほうがいい。
長期使用のレビューでは、良い面と厳しい面の両方が具体的に報告されている。600マイル走破後も「破れや縫製の緩みはない」という耐久面の評価がある一方、別のレビュアーは2,200マイル時点でウォーターボトルポケットの摩耗を報告し、「濡れた岩でのスクランブルには強くない」とも指摘している。背面のパッド性能についても「パックずれによる擦れが改善したとは言えない」という声があり、フルカスタムゆえの価格の高さ(総額で400〜500ドル台に達することも)も繰り返し挙げられる弱点だ。
Curve Frameless:軽さに振り切った、もう一方の答え
同じCurveの名を冠しながら、フレームを完全に抜いた対極のモデル。20L本体+外部ポケットで計30L、ストラップ込みで402g、ストラップを外せば385gまで落ちる。天面のロールトップ+KAMスナップと、サイド引き下げ式の二重クロージャーを備え、推奨積載量は約9kg。トルソー展開はXS〜Mの3サイズ。
Full Suspensionが「フレームありで荷重を流す」答えなら、こちらは「そもそも軽くすれば分散の必要が減る」という別解だ。同じブランド、同じCurveというシルエットの中に、思想の異なる2台が共存している。LiteAFの選択式アプローチが最もよく表れている対比だと思う。
6. おわりに:重さを嫌うなら、距離まで詰める
「Why hike heavy?」というモットーを掲げるブランドは他にもある。だがLiteAFは、その問いを製品だけでなく自分たちの立地にまで適用した。台所のミシン1台から始まり、ガレージへ、専用工房へ、そして最後にATから1マイルの町へ。縫っている人間とトレイルの距離そのものを、荷物の軽さと同じくらい大事に詰めてきたように見える。
日本からは、正直まだ遠いブランドだ。国内の代理店はなく、注文すれば製作と輸送だけで半年仕事になる。ULAのCDTから乗り換えを検討していた僕がその時点で踏みとどまったのも、この距離のせいだった。それでも、標準品をひとつも置かず、1台ずつ組み立てるという頑固さは、ガレージブランドの原点として覚えておきたい。「妥協しないこと」と「届きやすいこと」は、簡単には両立しない。LiteAFは、その代償を事業ごと引き受けている会社なのだと思う。