- はじめに:「どのパックが最初の一本になるか」という問い
- ボーイスカウトの荷物を軽くしたかっただけだった
- 「Take Less. Do More.」:土木技師の設計倫理
- Robic ナイロンとサステナビリティ:素材選択の変化
- 僕が唸った代表作
- おわりに:G1から始まった問いは、まだ続いている
はじめに:「どのパックが最初の一本になるか」という問い
ULへの踏み出し方に、王道がある。
まずレイ・ジャーディンの本か、r/ultralightを読む。Big Threeを見直す。テントを軽くして、シュラフを軽くして——最後に残るのがバックパックだ。そしてそこで多くの人が迷う。HMGにするか、Zpacksにするか、あるいは国内ブランドか。軽くて、使いやすくて、なるべく財布に優しいものがいい。
その問いに対して、一つの明確な答えを出し続けているのがGossamer Gear(ゴッサマーギア)だ。「Take Less. Do More.」——少ない荷物で、もっと多くのことを。創業から四半世紀以上、このスローガンを製品で具現化し続けてきた。
ボーイスカウトの荷物を軽くしたかっただけだった
Gossamer Gearの始まりは、壮大な野望ではなかった。
創業者のGlen Van Peski(グレン・ヴァン・ペスキ)はカリフォルニア州カールスバッドの土木エンジニアだった。バックパッキングとの本格的な再会は、長男Brianがボーイスカウトに入隊したことがきっかけだ。スカウトマスターのRead Millerがレイ・ジャーディンの超軽量バックパッキングの本を読んでその哲学を実践し始め、Glenもその影響を受けた。
「7ポンドの空のパックを背負っている——これは軽量化の余地しかない」。そう気づいたGlenは、ジャーディンが著書で言及した「アルパイン・リュックサック」をヒントに、最初のパックを自作した。それが「G1」だ。
G1は荒削りだった。G2は1.1オンス生地を全面採用して軽量化した。G3、G4とプロトタイプを重ねるうち、周囲の登山仲間から「自分にも売ってほしい」という声が上がった。Glenの妻Francieと近所の女性たちがミシンを踏み、手縫いでパックを量産した。いつの間にか事業になっていた。
当初のブランド名は「GVP Gear」——Glen Van Peskiのイニシャルだ。2004年初頭、事業拡大にあわせて「Gossamer Gear」へと改名した。Gossamerとは「極めて軽く繊細な素材」を意味する英語で、ブランドの志向をそのまま名前にしている。2005年にはテキサス州オースティンへ移転し、Grant Sibleが社長として加わってビジネスとしての骨格が整った。
「Take Less. Do More.」:土木技師の設計倫理
Glen Van Peskiが土木エンジニアであることは、製品設計に直接反映されている。
余分なものを削り、必要な機能を最小の素材で実現する——これはUL哲学であると同時に、構造設計の基本原則でもある。橋や道路を設計するとき、「この部材は本当に必要か」と問い続けるのが土木技師の仕事だ。その問いをバックパックに持ち込んだのが、Gossamer Gearの設計の出発点だ。
「顧客は装備ではなく、思い出にお金を使うべきだ」というGlenの言葉は、Six Moon Designsの創業者と似た価値観だが、アプローチが違う。Gossamer Gearはコストだけでなくフレームとサスペンションシステムへの本格投資を選んだ。フレームレスの軽さを捨てず、しかし担ぎ心地も犠牲にしない——その両立を実現したのがPVT Frame Systemだ。
アルミニウム製の閉じた形のフレームと、骨盤の動きに合わせてピボットするヒップベルトを組み合わせたこのシステムは、歩行中の自然な腰の回旋を妨げない。フレームあり・軽量・担ぎやすいの三つを同時に追求した結果が、GorillとMariposaの現在のかたちだ。
Robic ナイロンとサステナビリティ:素材選択の変化
Gossamer Gearの素材遍歴は、機能重視からサステナビリティへの移行を示している。
現行モデルで採用しているのはRecycled Robic Nylonだ。Robic糸はナイロンの中でも引裂き強度と耐摩耗性が高く、従来のナイロンと比べてより薄い生地でも十分な耐久性を確保できる。GorillA 50は70D・100D、Mariposa 60は100D・210Dと部位によって厚みを変えることで、軽さと強度のバランスを取っている。
素材のコーティングもPFAS(フッ素系撥水剤)フリーへの移行を進めており、アウトドア業界全体で問題視されている有害化学物質を排除する方向にある。軽量化の追求と並行して環境負荷の低減を設計に組み込む——これも「余分なものを省く」という設計倫理の自然な延長線上にある。
僕が唸った代表作
Gorilla 50 と Mariposa 60:二つの答え
Gossamer Gearのパックラインナップは、ざっくり言えば「50Lか60Lか」の選択だ。
どちらもPVT Frame Systemを採用し、Recycled Robic Nylonを使う。本質的な設計思想は同じで、容量と素材の厚み・重量配分が異なる。
| 比較項目 | Gorilla 50 | Mariposa 60 |
|---|---|---|
| 容量 | 50L | 60L |
| 重量 | 約33.5oz / 950g | 約33.4oz / 946g |
| 価格 | $275 | $315 |
| 素材 | 70D & 100D Recycled Robic | 100D & 210D Recycled Robic |
| 耐荷重 | 〜30lbs(約13.6kg) | 〜35lbs(約15.9kg) |
| 向いている用途 | 軽量志向・2〜3泊 | 多用途・3泊以上 |
重量はほぼ同じで、容量と耐荷重が違う——この事実が、「軽さへの妥協なしにどこまで担げるか」を追求したGossamer Gearの設計意図を如実に示している。
日本とGossamer Gear
Gossamer Gearと日本の関係は、単なる輸出入を超えている。
東京・三鷹にあるHiker's Depotのオーナー・土屋智哉氏は、「日本のミスター・ウルトラライト」として知られるULハイキングの伝道師だ。Hiker's DepotはGossamer Gearの創業期から取り扱いを続けており、Glen Van PeskiとGrant Sibleが来日して直接イベントに参加するほどの関係を築いてきた。
国内での入手のしやすさも、このブランドの強みのひとつだ。Amazon.co.jpと楽天市場の両方にバックパック・テント・トレッキングポール・アクセサリーが幅広く出品されており、あす楽対応のショップも複数ある。専門店ではAIFA、Sokit(練馬)、宗像山道具店 by GRIPS、Sunday Mountain、Sankaku Stand、West(新潟)など全国のULショップが取り扱う。「試着してから買いたい」派も「すぐ欲しい」派も、選択肢が揃っているブランドだ。
おわりに:G1から始まった問いは、まだ続いている
ULテント選びの三角形でも書いたように、ギアの選択はトレードオフの連続だ。ただ、Gossamer Gearはそのトレードオフの中で「担ぎ心地と軽さを同時に諦めない」という立場を四半世紀以上守り続けている。
息子のスカウト活動に付き合うために自作したG1から、PVT Frame Systemを搭載した現代のGorilla・Mariposaまで——設計の動機は変わっていない。「7ポンドの空のパックには、軽量化の余地しかない」というGlenの最初の気づきは、今も製品のすみずみに宿っている。
ULバックパッキングの素材選びについてはバックパック生地の革命2026|DCF、Ultra200X、ALUULA、DWCも合わせて読んでほしい。Gossamer GearがRobic Nylonを選び続ける理由が、素材文脈から見えてくる。