山道具ラボ by Daringdaddy

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ULブランド探訪:CAYL|好きなように登れ、ソウル発エンジニアの非対称美学


はじめに:変なバックパックを見かけたら、声をかけずにはいられない

バックパックオタクの悪い癖がある。

山でもトレイルでも街中でも、見慣れないシルエットのバックパックを背負った人が目に入ると、反射的に追いかけてしまう。「すみません、そのバック、何ですか」——何度このセリフを言ったかわからない。相手は突然話しかけられて戸惑うだろうが、こちらは止められない。

CAYLと出会ったのも、そのパターンだった。

登山口の駐車場で見かけた人物が、どう見ても普通ではないジッパーラインのバックパックを背負っていた。正面から見ると、ジッパーが斜め——いや、非対称と言った方が正確か——に走っている。それだけで十分だった。声をかけた。

「韓国のCAYLです」。

CAYL バックパック DCFホワイト 正面
正面を走る非対称ジッパーがCAYLのアイデンティティ。DCFホワイトカラー。画像引用: CAYL 公式

ソウルのエンジニアが、クライミングウェアに不満を持った話

CAYL(読みは「ケイル」)は2011年、韓国・ソウルでEuijae Lee(이의재)が立ち上げたアウトドアブランドだ。

創業のきっかけは、ありがちなようでいて少し変わっている。Leeはエンジニアだった——ファッションでも繊維でも登山用品でもなく、工学が本職だ。クライミングを趣味としていたが、当時の韓国のクライミングウェアはタイトなシルエットのものばかりで、「もっとゆったり、普段着に近い感覚で着られるものが欲しい」と感じていた。どこにも売っていないなら、自分で作るしかない。そこから話が始まる。

ウェアを作りながら、Leeのアクティビティの幅が広がった。クライミングからハイキング、トレイルランニング、バイク。活動が増えるにつれて「バックパックも、自分の思い通りのものがない」という不満が積み上がり、バッグラインへと踏み出した。

ブランド名「CAYL」は"Climb As You Love"の頭文字だ。「好きなように登れ」——自分が楽しみたいスタイルで山に向かう、という宣言がそのままブランドの姿勢になっている。「climb our LIFE」というコンセプトも掲げており、山と日常を切り分けないという考え方が根底にある。

CAYL ブランド基本情報
設立:2011年 / 韓国・ソウル
創業者:Euijae Lee(이의재)/ エンジニア出身
ブランド名:Climb As You Love の頭文字
コンセプト:「climb our LIFE」——山と日常の境界を消す
CAYL バックパック カーキ 正面
B-GRIDカーキ。黒いUHMWPEグリッドが表情を引き締める。画像引用: CAYL 公式

韓国の山が、デザインを鍛える

CAYLのプロダクト開発には、明確なフィールドテストの文化がある。

Euijae Leeは「LMHC(The Lowest Mountain Hiking Club)」というハイキングクラブに参加しており、月に一度25kmのハイクを仲間と実施している。自分たちがプロトタイプを背負い、実際に山を歩いた末に出てきた課題だけが、次のバージョンに反映される。デスクの上ではなくフィールドで設計を詰める——エンジニアのバックグラウンドを持つ創業者らしい、徹底した検証主義だ。

素材選択にも韓国の気候が反映されている。夏の酷暑から冬の豪雪まで、韓国の四季は日本以上に振れ幅が大きい。その環境で実際に動いて使える素材である必要があり、「軽さ」と「耐久性」を同時に満たす素材へのこだわりがCAYLの独自ファブリック開発につながった。

韓国国内の工場で「自分たちの目の届く範囲でものづくりをする」姿勢も、ガレージブランドとしての矜持だ。大量生産に舵を切らず、品質管理を内製で維持する——その分だけ生産数は限られるが、それがCAYLの一貫した選択でもある。

CAYL バックパック ブラック 装着カット
ブラックカラーの装着カット。フィールドテストを重ねた背負い心地がシルエットに出ている。画像引用: CAYL 公式

B-GRIDとX-PAC:素材への独自アプローチ

CAYLのバックパックを語る上で外せないのが、素材の話だ。

CAYL B-GRIDは同ブランドが独自開発したファブリックで、210Dナイロン(Robic糸)と400D UHMWPE(超高分子量ポリエチレン)糸を組み合わせたグリッド構造を持つ。UHMWPEは強度対重量比で鋼鉄を超える繊維であり、DCFにも使われているDyneema®と同系統の素材だ。B-GRIDの「B」は黒いUHMWPE糸を使用していることを指し、視覚的にもグリッドパターンがはっきりと浮かぶ。

素材 構成 質感 強み 適したシーン
CAYL GRID 210D Robic + 白UHMWPE 柔軟・軽量 耐摩耗・軽さのバランス オールシーズン
CAYL B-GRID 210D Robic + 黒UHMWPE やや硬め・精悍 耐久性・長期使用向け 多用途・都市〜山
X-PAC ラミネート複合素材 硬め・フォルム保持 防水性・形状安定 悪天候・テクニカル
CAYL メッシュポケット ディテール
CAYLのシグネチャー:ギャザーの効いた大型メッシュポケット。ゴムが緩くなりにくい工夫が施されている。画像引用: CAYL 公式
CAYL バックパック ホワイト サイドビュー
サイドビュー。メッシュポケットの容量と、ロールトップのシルエットが一目でわかる。画像引用: CAYL 公式

通常のCAYL GRIDが白いUHMWPE糸を使うのに対し、B-GRIDは黒糸のため見た目が引き締まる。耐久性・防水性・重量のバランスにおいて、B-GRIDはX-PACより少し柔らかく、UHMWPEの耐摩耗性が高い分だけ長期使用に向いている。X-PACはより高い防水性を持ちながらやや硬い質感——用途と好みで選べる構造になっている。

UHMWPEを使ったバックパック素材の進化についてはバックパック生地の革命2026|DCF、Ultra200X、ALUULA、DWCも参照してほしい。CAYLのB-GRIDがどういう素材的文脈に位置するか、より立体的に理解できる。


僕が唸った代表作

Mari Roll Top:非対称ジッパーという問い

CAYLの顔であり、最初に声をかけてしまった理由そのものがこの製品だ。

前面を斜めに走る非対称ジッパーは、見た目のインパクトだけで存在する奇抜さではない。ジッパーをフルオープンにすることでバックパック内部への完全アクセスが可能になり、かつロールトップ構造と組み合わせることで容量を27〜32Lの間でフレキシブルに調整できる。形の独自性が、使い勝手に直結している。

Leeは「Mari Roll Topが一番好きな製品」と語っており、この製品のために何度もプロトタイプを繰り返したと明かしている。ハイキングにも街にも持ち込める汎用性を追求した結果が、あの斜めのジッパーラインなのだ。

CAYL バックパック メッシュポケット開放
メッシュポケット全開放。荷物をそのまま放り込めるアクセス性が、行動中の快適さに直結する。画像引用: CAYL 公式

モデルラインナップ:韓国の山から名付けられた全シリーズ

CAYLのバックパック名は、すべて韓国の山から取られている。Mari(摩利)、Gaya(伽耶)、Taebaek(太白)、Baekdu(白頭)——朝鮮半島の主要な山岳の名が、製品ラインにそのまま並ぶ。Euijae Leeが「Seoraksan(雪岳山)から多くのインスピレーションを得た」と語るように、韓国の山岳文化はCAYLの意匠に深く染み込んでいる。

モデル 容量 重量 主な用途 特徴
Soyo 17〜20L 318〜360g 日帰り・デイパック 最軽量モデル。街とトレイルの往来向き
Gaya 18〜22L 421g 日帰り〜ライトパック Soyoより容量アップ、1気室構成
Mari Roll Top 27〜32L 540〜590g 1泊〜街使い 非対称ジッパー+ロールトップ。ブランドの顔
Juheul 28〜32L 622〜637g 1泊〜小屋泊 Mariより構造を強化、重荷対応
Taebaek 2 45〜48L 870〜940g 1〜2泊縦走 フレーム内蔵。本格縦走入門
Baekdu 2 55〜60L 930〜970g 長期縦走・冬季 最大容量。冬山・テント泊装備向き

各モデルはSM・ML・ML-SMショルダーの3サイズ展開で、身長・体型を問わずフィットを追求できる。アルミフレームを内蔵(取り外し可能)し、容量のわりに軽量を実現している点も、ULハイカーが評価する理由のひとつだ。

CAYL バックパック オリーブ サイドポケットモデル
オリーブカラー・サイドポケット搭載モデル。ラインナップの幅広さがわかる一枚。画像引用: CAYL 公式
CAYL バックパック 装着カット
装着カット。軽さを感じさせるシルエットと、大型メッシュポケットの存在感が際立つ。画像引用: CAYL 公式

日本での入手先

日本での取り扱いは、幡ヶ谷のNicetime Mountain Galleryが長年取り組んでおり、2023年秋から国内代理店として本格始動している。NicetimeのCAYLフィッティングイベントはその人気をよく象徴している。

CAYLを試せる国内拠点
Nicetime Mountain Gallery(東京・幡ヶ谷)
2023年秋より国内正規代理店として本格始動
フィッティングイベントも定期開催。試着してから購入できる数少ない場所

おわりに:あの斜めのジッパーが、まだ頭から離れない

Trail BumPa'lanteも、最初の出会いは「これは何だ」という違和感からだった。CAYLもまた、そういうブランドだ。

「ジッパーがなぜ斜めなのか」という問いに、設計者のEuijae Leeは使い勝手と美学の両方で答えを用意している。エンジニアの発想でプロトタイプを繰り返し、韓国の山でフィールドテストを重ね、山の名前を製品に冠す——その全部が一本の線でつながっている。

山で変なバックパックを見かけたら声をかけずにはいられない僕は、次にCAYLを見かけたらどのモデルかを確認しに行くだろう。Mari以外にも気になるものが増えてしまった。


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