山道具ラボ

by Daringdaddy #山で使う道具の話 #軽さと快適さのあいだ #買う前に知りたかったこと

ULブランド探訪:Bonfus —— アルプスの兄妹が国境をまたいで縫う、引き算のコテージUL

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1. はじめに:僕がBonfusに惹かれる理由

イタリアの兄妹が立ち上げたブランドが、ノルウェーで最初の製品を売り、いまの製品はメキシコの自社工房で縫われている。設計はヨーロッパ、縫製は中米、販売は世界中——Bonfus(ボンフェス)というブランドの住所は、ひとつの国に収まらない。

ガレージULというジャンルには、ある種の建国神話がつきまとう。アメリカのどこかの裏庭やガレージで、一人の職人がミシンを踏んで始めた——という物語だ。実際、このシリーズで取り上げてきたブランドの多くがそうだった。Bonfusはその神話の地理から、最初から外れている。アルプスを庭にして育った兄妹が、わざわざ国境をまたいでものづくりを組み立て直した。

その結果として出てくる製品が、また妙に整っている。テントもパックも、名前が全部ラテン語めいた「-us」で終わる。Framus、Aerus、Maxus、Duos、Solus……家名Bonfadiniからつないだブランド名Bonfusも含めて、命名規則が一本の線でつながっている。装備の見た目も、機能の足し引きも、どこか几帳面だ。

ただ、整った見た目だけのブランドなら、ここまで気にならない。Bonfusの引っかかりは、その作り方が製品の中身に効いている点にある。パックは受注生産で、生地もサイズも自分で選んで注文する。フレームを抜けばフレームレスに変わり、軽量級なのに荷重をかけても背中から離れない。なぜそんな作り方ができるのか——その答えは、この兄妹がどこで、どうやってものを作っているかに直結している。

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2. ノルウェーで生まれ、イタリアに根を張った兄妹

Bonfusを作ったのは、Niccolò(ニコロ)とStefania(ステファニア)のBonfadini兄妹。イタリア・アルプスのふもとで育ち、山が文字通り「裏庭」にあった二人だ。

兄のNiccolòは、工学の学位を取るためにノルウェーへ渡る。当初は写真が趣味で、山には撮影のために入っていた。ところが時間が経つにつれ、カメラを持つ時間より、ただ歩いて野営する時間のほうが長くなっていく。バックパッキングそのものに取り憑かれていったわけだ。

ここで彼は壁にぶつかる。当時のヨーロッパには、ダウンキルトや本格的な超軽量バックパックがほとんど流通していなかった。アメリカのコテージブランドが作るような道具が、欧州では手に入らない。ないなら作るしかない——Niccolòは自分用にキルトやダウンジャケット、テント、バックパックを縫い始める。

2017年、企業勤めをしていた妹のStefaniaが「アウトドアブランドを立ち上げよう」と提案する。二人はまずダウンシュラフ、キルト、衣類から事業を始めた。そして2019年初頭、ノルウェーで超軽量製品の販売を本格的にスタートする。翌2020年にはイタリアへ拠点を移し、EUの本部をそこに置いた。2025年初めの時点で、チームは13名規模にまで育っている。

この兄妹は、住む場所も役割も分かれている。兄のNiccolòはノルウェーで製品の設計・開発・テストを担い、技術者である妹のStefaniaは——メキシコに10年ほど暮らしている——素材調達・生産・物流をメキシコ側で統括する。会社の二つの拠点は、そのまま二人の住む場所だ。次の章で見るように、この一見ばらばらな地理こそ、Bonfusのものづくりを特徴づけている。

3. 「ハイカーが、ハイカーのために」——引き算の設計思想

Bonfusが公式に掲げる言葉はシンプルだ。"ULTRALIGHT GEAR made by hikers, for hikers"——ハイカーが、ハイカーのために作る超軽量ギア。設計するのは実際に山を歩く人間で、経験を積んだハイカーからのフィードバックを製品に取り込む。発想の出発点が、机の上ではなくトレイルの上にある。

その思想を一語に縮めれば「less is more(引き算)」だ。軽い素材を使うだけでなく、製品そのものを本質まで削ぎ落とす。要らないものを足さない。装飾的なポケットや過剰なストラップで「便利そう」に見せる方向には行かない。その引き算は製品単体にとどまらず、ライン全体にも及ぶ。用途が重ならないようモデルを配置し、思いつきで数を増やさない。一本ずつが、体系の中の役割を持っている。

4. ものづくりの座組み——大手とも、ガレージとも違う第三のかたち

アウトドアギアの作られ方は、大きく二つに分けられる。ひとつは大手メーカーの道——設計は自社で握り、量産は主にアジアの協力工場に委ね、大きなロットで効率よく回す。もうひとつは古典的なアメリカのガレージ/コテージブランドの道——"Made in USA"を掲げ、創業した土地の自社作業場で、少人数が一台ずつ縫う。前者はスケール、後者は「作った場所が分かる」近さが武器だ。

Bonfusは、そのどちらでもない第三の場所に立っている。設計はノルウェー、生産はメキシコ。大手のようにアジアへ量産を丸投げするのでもなく、コテージの定石どおり「創業地で縫う」のでもない。

面白いのは、この座組みが緻密なサプライチェーン戦略から逆算されたものではない、という点だ。きっかけは家族の地理そのものだった。技術者のStefaniaがメキシコに生活基盤を持っていたから、生産がそこに置かれた。2021年にはメキシコシティのより本格的な工房へ移り、フルタイムの縫製スタッフを雇い入れた。住む場所がそのまま生産拠点になり、そこに人を雇って規模を育てていった——順番が逆なのだ。

そして彼らは、その偶然を意図に変えた。コンセプト立案から素材・サプライヤー選び、試作、テスト、再試作、細部の詰め、最終生産、そして顧客に届けるところまで、全工程を自分たちの手の内に置く。だからこそ「作ったものすべての背後に立てる」と言い切れる。この垂直統合が、Bonfusの背骨だ。

雇用への姿勢も、この座組みと地続きになっている。彼らはメキシコの住民を雇い、きちんとした賃金を払うことを公言する。「高単価の製品を扱っているから、まともな給料を払う余地がある」——従業員が自分の家を建てたり土地を買えたりすることを、自分たちの喜びとして語る。安く大量に縫わせてコストを削る方向とは、はっきり逆を向いている。軽い道具を作るブランドが、その作り方の重さからは目を逸らさない。第三のかたちは、地理の偶然から始まって、倫理の選択で輪郭を得た。

そして、この座組みは読者にとっての実利にも跳ね返る。自社の工房を持っているから、Bonfusのパックは受注生産で作られる。注文時にUltra・DCF・X-Pacから生地を選び、サイズを指定する。さらに踏み込みたい人向けにはAltusという完全受注モデルがあり、装備の取捨や胴長(トルソ長)まで自分の体と用途に合わせて指定できる。アジアの協力工場へ大ロットを発注する作り方では、こうした一点ずつの作り分けは割に合わない。設計と生産を自分たちの手の内に置いているからこそ、「棚から選ぶ」のではなく「あなたのために組む」が成立する。ものづくりの座組みの話は、ここで製品の手触りの話に変わる。

5. 3つの生地を「選ばせる」という素材戦略

Bonfusの素材へのアプローチで面白いのは、ひとつの正解を押し付けないことだ。主力パックの多くは、Ultra(200/400)、Dyneema Composite Fabric(DCF)、X-Pacという複数の生地から選べる。軽さ重視ならDCF、耐摩耗とコスト重視ならUltraやX-Pac——同じモデルでも、使い手が自分の優先順位で生地を決められる。

しかもその素材選びには、環境配慮の軸も通っている。リサイクル繊維を使ったUltra Fabric、バイオベース由来のDyneema生地。軽さと強さだけでなく、原料の出自まで選択肢に含めている。

これらの生地が「なぜそう作られているのか」——DCFとUltra、X-Pacが同じUHMWPE(超高分子量ポリエチレン)という一本の化学式からどう枝分かれしたのかは、それ自体が一本の記事になるテーマだ。生地の家系図を知っておくと、Bonfusの「3つから選べる」という設計の意味がより立体的に見えてくる。

→ DCF・Ultra・X-Pacは何が違うのか、素材の家系図をたどる

テント側のアップデート史にも、同じ「足し引き」の思想が出ている。たとえば2人用のDuosでは、フロア素材をシルポリ(silpoly)に更新した。DCFのフロアと近い重量帯のまま、耐摩耗性を上げ、収納サイズを小さくする狙いだ。さらにサイドのタイアウト補強では、DCFの繊維方向に対して45度の角度で補強材を縫い付け、引き裂き耐性を高めている——という細部まで、ユーザーレビューで報告されている。縫い目ひとつの角度に意図がある。メキシコの工房で積み上げているのは、こういう手仕事の精度だ。

6. 唸らされる代表作

Bonfus Framus 48L ウルトラライトバックパック
画像引用: Bonfus

Framus(48L / 58L)——フレームを抜ける主力スルーハイクパック

Bonfusの看板であり、最も売れているパックがFramusだ。48Lで約760g、58Lで約795g(Ultra素材の標準構成)。ロールトップ開閉、両サイドポケット、フロントの大型メッシュポケットという、ULパックの王道レイアウトを踏む。

このパックの肝は、フレームの「可変」にある。アルミステーとフォームパッドは背面の開閉式スリーブに収まっていて、丸ごと抜き取ればFramusはそのままフレームレスパックに変わる。重荷を背負う長期行程ではフレームを入れ、荷を絞った区間では抜いて軽くする——1本で2つの背負い方を持てる。

そして背負いの作り込みが細かい。アルミフレームはわざと湾曲させて背中との間に2〜3cmの隙間を作り、通気を確保する。この容量帯では省かれがちなロードリフターを残し、荷重が後ろへ引かれる力を相殺してパックを背中へ引き寄せる。ショルダーストラップは11mm厚のEVA+3Dスペーサーメッシュ、ヒップベルトには8mmの腰パッド。「軽さのために機能を捨てる」だけでない、背負いの理屈を踏まえた引き算だ。海外レビューが「荷重した瞬間に分かる、目に見えない “secret sauce”」「身体に追従するレスポンシブな背負い」と評するのは、この積み重ねの結果だろう。なお、フルカスタムのAltusと違い、Framusは生地とサイズの選択までで、装備のカスタムには対応しない。

パックの守備範囲——23Lから80Lまで

Framus以外のラインも、用途ごとにきれいに割り振られている。

  • Altus(約315g〜・フレームレス・完全受注):装備の取捨、サイズ、生地、胴長まで指定できるフルカスタムモデル。Bonfusの「あなたに組む」がいちばん尖って出るパック
  • Fastus 23L(約360g〜・フレームレス):ファストパッキングやトレイルランニング向けのベスト型に近い軽量パック
  • Iterus 38L / Saccus 48L(380〜485g・フレームレス):荷物を絞れる人向けのフレームレスUL。キャンプ用途も視野に
  • Aerus 55L(約795g・フレーム入り):スルーハイク向けの中核フレームパック
  • Maxus 80L(約1,080g・フレーム入り):長期遠征・重荷運搬まで担う最大容量

フレームレスからフレーム入りまで、容量と背負える重さの段階が連続している。「軽さ一辺倒」ではなく、荷重に応じて構造を変える設計思想がライン全体に通っている。

Bonfus Duos 2P ウルトラライトDCFテント
画像引用: Bonfus

Duos / Solus / Middus——DCFシェルターの几帳面さ

テントもBonfusの本領だ。2人用のDuos 2Pは、ガイライン込みで約675g。最大16ヶ所のガイアウトポイントを持ち、うち6ヶ所は天候に応じて取り外せる。DCFのフライにフルテープシームを組み合わせた防水性と、16点のガイラインによる耐風性。軽さと安定性を両立させた、最も売れている万能シェルターだ。

1人用のSolus 1Pは500gを切る軽さで、14点のガイラインを備える。長距離スルーハイクでの快適性と信頼性を、半キロ以下のシェルターで成立させている。Middusはその中間に位置づくダブルウォール寄りのモデルだ。

先述したフロアのシルポリ更新や、45度角の補強といった細部の積み上げが、これらのシェルターを「ただ軽いDCFテント」から一段引き上げている。

Bonfus パックのショルダーストラップのディテール
画像引用: Bonfus

7. おわりに:国境を持たないものづくり

Bonfusは、住所が一つに定まらないブランドだ。イタリア人兄妹が、ノルウェーで会社を興し、メキシコで縫い、世界に売る。生地はアメリカ由来のDCFやUltraを使い、それを欧州の感覚で設計する。コテージULの建国神話が前提にしてきた「どこかの国の裏庭」という地理を、最初から持っていない。

その身軽さが、製品の中身に効いている。場所に縛られず自社の工房を握っているから、生地もサイズも、Altusなら胴長まで、注文ごとに作り分けられる。フレームを抜き差しできるパックや、重量のわりに背中から離れない背負い心地も、その手の内に置いた作り方の延長線上にある。一言でいえばBonfusは、「棚から選ぶ」のではなく「あなたに合わせて組む」超軽量ブランドだ。「less is more」を製品とブランドの座組みの両方に適用し、軽いだけでは終わらせない——選ぶ前に、まずそこを覚えておけばいい。

日本でも、UL系のセレクトショップ数店がBonfusを取り扱い始めている。アメリカ製のDCFやUltraという生地を、欧州の「引き算」の感覚で組み直すと何が起きるのか——その答えが、Framusの整った背面やDuosの45度の縫い目に表れている。場所に縛られないものづくりが、かえって筋の通った道具を生む。Bonfusはそういう逆説を、静かに成立させているブランドだ。

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