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ファーストインプレッションは「なんだ、このザック」だった

アウトドアショップの棚に並んでいる他のバックパックを、Go-onは完全に無視している。

ロールトップのクロージャー、フロントを覆う大型フラップ、ミリタリーやワークウェアと通じるようなインダストリアルな雰囲気。アウトドアギアとしてのそれではなく、もっと無骨で機能剥き出しの、工業製品に近い顔つきをしている。「かっこいい」ではなく「異質だ」という印象が先に来る。が、それが一目惚れに直結した。
Trail Bum Go-onは2024年に登場した、日本のハイキングブランド「Trail Bum」の新世代モデルだ。同ブランドとして初めてUltra Weave Ultra200Xという耐水・耐久素材を採用し、従来の軽量リップストップナイロン系モデルから大きく踏み込んだ作りになっている。
Trail Bumというブランドのこと
Trail Bumは2015年、東京を拠点に立ち上がった日本のハイキングギアブランドだ。Highland Designの鶴見知也氏を中心に、ロングハイクを経験した日本人ハイカーたちの自作ギアやフィールドのアイデアをベースにプロダクトを構築している。
ブランド名の「Bum」は英語で「何かに没頭し、生活の軸足をそこに置いてしまった人」を指すスラングだ。スキーバム、サーフバム——そういう文脈の「トレイルバム」である。リリース数を意図的に絞り、「市場には道具が足りている」という視点から新製品の投入を慎重に判断するスタンスを持つ。
Go-onはそのラインナップの中で「現在進行形の進化」として位置付けられたモデルだ。Bummer、Big TurtleといったNylon系の先行モデルから設計思想を継承しながら、素材と外装設計で大きく踏み出している。
スペック深掘り
Ultra Weave Ultra200X ── 保水しない、という言葉の意味

Go-onを語るとき、まず素材の話をしなければならない。メイン生地に採用されているUltra Weave Ultra200Xは、耐水性・耐久性に特化したセイルクロス系素材で、Challenge Sailcloth社が供給する。
素材の中核にあるのは超高分子量ポリエチレン(UHMWPE: Ultra-High Molecular Weight Polyethylene)という繊維だ。ポリエチレンという名前は日用品のビニール袋と同じ系統に聞こえるが、UHMWPEは分子量が通常のポリエチレンの10〜100倍以上に達する特殊なグレードで、繊維に加工したとき他の素材には出せない特性の組み合わせを持つ。
耐引裂・耐摩耗性能
UHMWPEを用いたセイルクロス系素材の引裂強度は、同デニール数の通常ナイロン生地を大幅に上回る。素材の分子鎖が長く緻密に絡み合う構造が、力を分散して裂けを広げにくくする。摩耗に対しても高い耐性を発揮し、ザックが頻繁に接触する岩や地面との擦れに対して通常の軽量ナイロンより明確に長持ちする。
吸水性・撥水性
UHMWPEは疎水性(水を弾く性質)が非常に高い。繊維自体が水分子を吸収しないため、DWR(耐久撥水)処理がなくても表面に水が染み込まない。雨中のハイクで長時間使用しても、素材が吸水して重くならないのはこの疎水性によるものだ。ナイロンやポリエステルが湿潤状態で数十グラム〜数百グラムの吸水重量増加を起こすのに対し、Ultra200Xはそもそも保水の機構を持たない。
ただし、これは「防水」ではない。縫い目はシームシーリングなし(後述)で、縫い穴からの浸水は起きる。完全防水が必要な場面ではパックライナーの使用が前提になる。
軽量化とのトレードオフ
Ultra200Xは軽量でもある。セイルクロス系素材は同等強度のコーデュラナイロンやリップストップナイロンより生地重量が軽く、これがGo-on全体の680gという数字に貢献している。耐久性・耐水性・軽量性の三点を同時に実現する素材ということになるが、一点だけトレードオフを言うとすれば価格だ。素材コストの高さが¥38,500という設定価格に反映されている。
シームシーリングなし ── 「修理できる設計」という哲学
一般的なアウトドアバッグの縫い目には、内側からシームテープが圧着されている。これにより縫い穴からの浸水を防ぐのだが、Trail BumはGo-onにこれを施していない。
理由は二つある。一つは軽量化。シームテープはそれ自体がある程度の重量を持つ。もう一つは修理のしやすさだ。シームテープが貼られた縫い目は、補修のために一度剥がす作業が発生し、フィールドでの対応が難しい。シーリングのないナイロンの縫い目なら、針と糸があれば再縫製できる。Trail Bumの設計思想の根底にある「使うほど育てる、壊れたら直せる」という考え方が、シームシーリングなしというディテールに滲んでいる。
フロントポケット ── 「メッシュじゃない」が使い道を広げる
フロントポケットの構造に、Go-onの実用設計がよく出ている。
大型ポケット全体がメッシュで作られているザックは多い。通気性が高く、濡れたものを入れやすく、中身が見えるというメリットがある。ただし、硬いものや尖ったものを入れると穴が開くリスクがある。
Go-onのフロントポケットは上部メッシュ+側面・底面Ultra Weave補強という構成だ。側面と底部にシェル素材が来ることで、硬い岩やペグ、工具類を入れても生地が持ちこたえる。熊野古道の3泊4日(パックウェイト9.9kg)のような重量パッキングで、ペグや調理器具をフロントに入れても傷まない安心感は、完全メッシュポケットにはない。
さらにポケット外側にはバンジーコードが付き、外付けした荷物(スリーピングマットや冬用装備)がバタつかないよう押さえ込む役割を果たす。

フラップと外側バンジーコードの存在がGo-onの顔つきの独特さをつくっている一因でもある。
サイドポケット ── ゴムを替えれば完成する
サイドポケットは軽量メッシュ製。飲料ボトルや小物の取り出し口になる。
一点、使い始めに気になるのがポケット口のゴムだ。標準状態では細く、引っ張ってもポケット口が十分に締まらない。対策は簡単で、太いゴムに交換するだけ。生地の端を引き抜いてゴムを通し直す作業で、道具も不要・5分もかからない。これだけでポケットの使い勝手が大幅に上がる。Trail Bum的な「自分で育てる」カスタム文化の一環とも言える。
背面設計とVBPパネルとの組み合わせ

Go-onの背面は取り外し可能なバックパッドを4点のテープで固定するシンプルな構造だ。フレームステーはない。自分はバックパッドをとって使っている。
このフレームレス設計は、モンベル(mont-bell) V.B.P. バックパネルとの相性が良い。背面に通気パネルを後付けしたとき、フレームレスのGo-on本体が背中の形に沿うように追従するため、VBPのスチールフレームが作るエアギャップを維持しやすい。ショルダーストラップとチェストストラップの調整で、パック全体を体側に引き寄せる設定にしれば重心が外に逃げず、9kg超のパックウェイトでも安定した背負い心地になる。背中からの発汗が大幅に減るVBPの効果と、Go-onの素材が保水しないという特性が重なって、背負いの快適性では明確な相乗効果がある。

重量・サイズ・容量
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 重量(本体) | 620g |
| 重量(背面パッド込み) | 680g |
| 容量(メイン本体) | 35〜43L |
| 容量(フロントポケット) | 約5L |
| 容量(合計) | 40〜48L |
| 高さ | 55〜65cm(可変) |
| 幅 | 27〜28cm |
| 奥行き | 15〜15.5cm |
| 定価(税込) | ¥38,500 |
実際に使ってみてわかること

3月半ばの熊野古道、3泊4日テント泊(パックウェイト9.9kg)と、1月の氷点下-8℃の奥多摩テント泊——季節も温度帯も対極に近い二本の山行で使っている。共通して感じるのは「ザックのことを気にしなくていい」という感覚だ。
雨の熊野で素材が保水しなかったこと。奥多摩の寒い朝にパックを持ち上げても、凍りついた感触がなかったこと。重量を担いでいるときの背面の安定感。フロントポケットに硬い調理道具を放り込んでいても傷まないこと——これらは合わさって「道具としての信頼感」になっていく。
内部に余計なものが一切ないULザックらしい潔い設計で、オーガナイズ機能はほぼゼロだ。荷物の整理はスタッフサックなどを自分で用意して行うことになる。これを不便と感じるか、シンプルで使いやすいと感じるかは、使い方のスタイルによる。

容量の融通が利く設計も便利で、テント泊装備を詰めた40L超の使い方から、日帰りで荷物を絞ったときにロールトップを巻いてコンパクトにする使い方まで、同じザックで対応できる。日帰りのときも「なぜかGo-onを持ち出してしまう」のは、フィット感とルックスへの愛着によるものだと思う。
競合比較表
| 製品 | 価格(税込) | 重量 | 容量 | 素材 | 特徴 |
|---|---|---|---|---|---|
| Trail Bum Go-on | ¥38,500 | 680g | 40〜48L | Ultra Weave Ultra200X | 日本産・保水しない・耐久性高 |
| 山と道 THREE | 非公開(直販のみ) | 554〜715g | 40〜45L | X-Pac UX10 or ECOPAK | 日本産・最軽量クラス |
| Gossamer Gear Gorilla 50R | ¥53,900 | 907g | 50L | Robic Nylon 70D/100D | フレームあり・大容量・米国産 |
| Hyperlite Mountain Gear 3400 | ¥74,800 | 947〜965g | 55L | 150D Dyneema Hybrid | 完全防水・超高耐久・米国産 |
Go-onと最も近い立ち位置にいるのは山と道THREEだ。同じ日本産ULバックパックで容量帯も被る。素材面ではX-Pac UX10採用のTHREEが最軽量クラスを狙えるが、Ultra200Xのテクスチャと耐摩耗性、そしてGo-onのルックスはまったく別の物語を語っている。どちらが優れているかではなく、自分がどちらの「文法」に共鳴するかで選ぶべき二択だ。
Gorilla 50Rはフレームあり・大容量でGo-onより重いが、安定した背負い心地で重荷物に向く。HMGはDyneema複合素材の防水性と耐久性で別格のカテゴリに入り、価格帯も異なる。
買い判断サマリー
こんな人に刺さる
- メカメカしいギアが好き ── 「このザックを持って山に行きたい」という気持ちになれる道具は、思いのほか重要だ。Go-onのインダストリアルなビジュアルはその感情を確実に起動する
- 素材の保水が気になる人、特に梅雨〜夏の低山や沢沿いのルートを歩く人
- 既存のハイキングザックに飽き足らなくなってきた、山と道・Gossamer Gearの次を探している人
- 日帰りから3泊程度のテント泊まで一本でカバーしたい人
- フレームレスパックにVBPバックパネルを組み合わせて使う予定がある人
こんな人は別の選択肢を
- 完全防水が必要なルートが多い → HMGやDCF系素材のパック、またはレインカバー前提での運用を別途検討
- 重荷物(15kg超)の長期縦走がメイン → フレームあり・ロードリフター付きのパックの方が荷重移動の効率が高い
- 内部の仕切りやオーガナイズ機能が欲しい → Go-onの内部はほぼ何もない。荷物の整理が苦手な人には向かない
- 予算を抑えたい → ¥38,500という価格は機能・素材に見合っているが、ULパック入門という観点では他の選択肢も多い
価格対価値の総評
¥38,500を「高い」と感じるかどうかは、Ultra200Xという素材に何を見るかによる。保水しない、耐摩耗が高い、軽い——この三点が同時に手に入る素材が使われた国産ULザックとして考えれば、妥当な価格設定だと感じる。Go-onのもう一つの価値は「長く使える道具を作る」というTrail Bumの思想が形になっているところで、シームシーリングなし=フィールド修理できる設計は、5年・10年という時間軸での投資として見た時に意味を持つ。
おわりに
Go-onを初めて見たとき「なんだ、このザック」と思った話を冒頭に書いた。
使い込むにつれてわかってきたのは、そのデザインに「なぜそうなのか」の答えが全部入っていたことだ。フロントのフラップも、Ultra200Xの素材選択も、シームシーリングなしという割り切りも——使う文脈に対して誠実な答えが積み重なって、あの顔つきになっている。
異質なのは当然で、それが正解なのだと今は思っている。