- 結論先出し:軸ごとの1番手・2番手早見表
- そもそも何g入れる?:1時間あたりの糖質目標と「糖の交通整理」
- 水だけ飲むと危ない:低ナトリウム血症(水中毒)を避ける塩分設計
- 6製品の個別プロフィール:何が得意で、誰に向くか
- 6製品スペック比較表:糖質・電解質・カフェイン・胃へのやさしさを🌟5段階で
- タイプ別の買い判断:あなたの「最優先」から逆引きする
- まとめ:自分の胃と汗を知り、燃料を設計しきるために
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標高2,500mの稜線で、急に脚が動かなくなった経験はないだろうか。視界はクリア、呼吸も乱れていない。なのに太ももが鉛のように重く、一歩が出ない。あれは多くの場合、筋肉そのものの疲労ではなく「ガス欠」——肝臓と筋肉に蓄えた糖(グリコーゲン)が底をつきかけたサインだ。チョロチョロと残量を絞り出すような走り、いや歩きになる。
僕がトレイルランニングのレースで学んだのは、エナジージェルは「疲れたら舐めるお守り」ではなく「疲れる前に入れる燃料」だということ。補給は設計するものだ。1時間あたり何gの糖質を、どのタイミングで、どんな浸透圧(しんとうあつ=溶けている物質の濃さ)のジェルで入れるか。ここを詰めると、後半の失速が驚くほど遠ざかる。
この記事では、国内で手に入る代表的な6製品——Mag-on(マグオン)/メダリスト/Science in Sport GO Isotonic(サイエンス・イン・スポーツ ゴー・アイソトニック)/Maurten GEL 100(マウルテン ジェル100)/アミノバイタル パーフェクトエネルギー/WINZONE(ウィンゾーン)——を、糖質量・電解質・カフェイン・浸透圧・胃への負担・価格の6軸で並べる。あわせて、登山・トレラン両方で使える補給戦略(1時間あたりの糖質目標、低ナトリウム血症の回避)も整理する。
なお、補給の感じ方には大きな個人差がある。胃腸の強さ、発汗量、運動強度、当日のコンディション。ここに書く数値はあくまで設計の出発点で、最後は自分の体で試して微調整してほしい。
結論先出し:軸ごとの1番手・2番手早見表
細かい話に入る前に、よくある6つの悩みごとに「まずこれ」という製品を示す。詳しい根拠は各セクションで掘り下げる。
| 優先したい軸 | 1番手 | 2番手 |
|---|---|---|
| とにかく糖質を効率よく入れたい | Maurten GEL 100 | SiS GO Isotonic |
| 胃が弱い・ジェルで気持ち悪くなる | SiS GO Isotonic | Maurten GEL 100 |
| 脚のつりが心配(マグネシウム) | Mag-on | WINZONE |
| 眠気・終盤の集中力(カフェイン) | Maurten CAF 100 | メダリスト Coffee&Honey |
| 後半のスタミナ切れ(アミノ酸) | アミノバイタル パーフェクトエネルギー | WINZONE |
| コンビニ・薬局で確実に買えること | アミノバイタル パーフェクトエネルギー | メダリスト |
そもそも何g入れる?:1時間あたりの糖質目標と「糖の交通整理」
製品選びの前に、補給量の感覚を持っておきたい。スポーツ栄養の研究では、2.5時間を超えるような中〜高強度の持久運動では、1時間あたり60〜90gの糖質を摂ると後半のパフォーマンス低下を抑えやすいとされる(複数の研究レビューで概ね一致する数字)。普通のペースなら60gで十分、かなり速く強度高く動くなら90gに寄せていく、というのが大まかな目安だ。
ここで面白いのが「糖の交通整理」の話。糖質の主役であるブドウ糖(グルコース)は、小腸のSGLT1という1種類の輸送体を通って吸収される。ところがこの輸送体は1時間あたり約60gで渋滞(飽和)してしまう。だから糖だけをそれ以上ガブ飲みしても、吸収しきれずに腸に残り、ゴロゴロ・ムカムカの原因になる。
そこで登場するのが果糖(フルクトース)だ。果糖はGLUT5という別の輸送体を使う。ブドウ糖と果糖を組み合わせると、2本のレーンを同時に使えるため、合計で90g前後まで吸収を伸ばせる。研究ではブドウ糖:果糖=おおよそ1:0.8の比率が高い酸化率を示すと報告されている。後で見るMaurten GEL 100が「1:0.7」という比率をうたうのは、まさにこの交通整理を設計に落とし込んでいるからだ。
レース補給は制限時間とエイドの位置に左右される。エイドが少ない長丁場では、ジェルを何本どこで投下するか事前に決めておくと心強い。山岳レースで「補給ができるのは44km地点の関門だけ」という状況をどう乗り切ったかは、別記事のハセツネ参戦記に細かく書いた。
水だけ飲むと危ない:低ナトリウム血症(水中毒)を避ける塩分設計
糖質と並んで設計したいのがナトリウム(塩分)だ。汗で失うのは水だけではない。ナトリウム・カリウム・マグネシウムといったミネラルも一緒に流れ出る。ここで「脱水が怖いから」と水ばかりをガブガブ飲むと、血液中のナトリウム濃度が薄まってしまう。これが運動誘発性低ナトリウム血症(EAH)——いわゆる水中毒だ。
EAHは「運動中または終了後24時間以内に、血中ナトリウム濃度が135mEq/L未満になる状態」と定義される(正常値は135〜145mEq/L)。軽ければ脚のつりや吐き気、重くなると意識障害に至ることもある。長時間の登山やウルトラ系のレースで、汗をかいた分の塩分を補わずに水だけを飲み続けると起こりやすい。
対策はシンプルで、水分・糖質・塩分をセットで入れること。ジェルの多くはナトリウムを含むが、その量は製品差が大きい(後述の比較表参照)。発汗量が多い日や塩辛い汗をかくタイプの人は、ジェルだけに頼らず塩タブレットや経口補水も併用したい。
ここでも個人差が大きい。発汗量も汗中のナトリウム濃度も人によって倍以上違う。自分がどれだけ汗をかき、どれだけ水を消費するタイプかを知っておくのが第一歩だ。発汗量の体感やウェアによる発汗コントロールについては、汗っかき目線で実験した記事がある。
6製品の個別プロフィール:何が得意で、誰に向くか
ここから1製品ずつ見ていく。糖質量・電解質・カフェイン・胃への負担・国内入手性を中心に。
Mag-on(マグオン):マグネシウム50mgで「脚のつり」に備える定番
トレイルランナーの間で定番化しているのがMag-on(マグオン)。1袋41gでエネルギー120kcal・糖質30gと、ジェルとして標準的な糖質量を持ちつつ、名前の由来である水溶性マグネシウムを50mg配合する。マグネシウムは筋収縮に関わるミネラルで、不足が脚のつりと関連するとされるため、「終盤に脚がつる」悩みを抱える人がまず手に取りやすい。原材料はマルトデキストリンと果糖が中心で、味はリンゴ・レモン・ピンクグレープフルーツ・バナナ・梅など豊富。青みかん・レモン・ピンクグレープフルーツにはカフェインが入り、それ以外はカフェインなしと、目的で選べるのも便利だ。粘度はジェルらしいトロッとした質感で、水で流すとさらに楽になる。フレーバーが多いので、長時間行動で味に飽きないようローテーションを組める。
メダリスト:蜂蜜+クエン酸の自然派、コンビニ的な入手性
メダリストは糖質源に蜂蜜とクエン酸を使うのが個性。1袋あたり約105〜107kcal・炭水化物約26gと、Mag-onよりやや控えめの糖質で、半固形でツルッと飲みやすい。フレーバーはリンゴ&ハニー/グレープフルーツ&ハニー/グレープ&ハニー/コーヒー&ハニーの4種。カフェインが入るのはコーヒー&ハニー(50mg)のみで、他はカフェインなし。食塩相当量は0.2〜0.27g程度と、ナトリウムもそこそこ含む。人工的な甘さが苦手な人に好まれる味づくりで、スポーツ用品店やドラッグストアでの取り扱いが広く、入手しやすいのも実用上の強みだ。
Science in Sport GO Isotonic(SiS ゴー・アイソトニック):水なしで飲める「アイソトニック」設計
世界初のアイソトニック(等張性)エナジージェルをうたうのがSiS GO Isotonic。アイソトニックとは、ジェルの浸透圧を体液に近づけた設計のこと。普通の高濃度ジェルは、胃の中で水を引き込んでから吸収されるため、水なしで摂ると胃が張りやすい。SiSは最初から薄めに作ってあるので、水なしでもスッと胃から流れていくのが最大の売りだ。1袋60mlで糖質22g。ナトリウムは製品表示で1袋あたり比較的少なめ〜中程度(おおむね数十〜100mg台と出典により幅がある)、カリウム・マグネシウムも微量含む。カフェイン版(75mg)も選べる。容量が60mlとやや大きく重いのが弱点で、糖質単価でも割高寄り。ただ「ジェルを飲むと毎回気持ち悪くなる」人には、胃への優しさが何物にも代えがたい。なお国内ではAmazon・楽天の並行輸入やショップ取り扱いが中心で、コンビニ等での入手性はMag-onやアミノバイタルに劣る。
Maurten GEL 100(マウルテン ジェル100):ハイドロゲルで大量の糖を穏やかに運ぶ
トップアスリートの使用で一気に知られたのがMaurten GEL 100(マウルテン ジェル100)。1袋40gで糖質25g・100kcal、ブドウ糖:果糖=1:0.7という前述の「2レーン」設計で、1時間あたり最大100gの糖質摂取を狙える。最大の技術がハイドロゲル——アルギン酸ナトリウムとカルシウムで作る寒天状のゲルが糖を包み込み、胃をスムーズに通過させることで、高濃度の糖でも胃が荒れにくいとされる。原材料はわずか6種で着色料・保存料・香料なし、味もほぼ無味に近い。食塩相当量は1袋50mgと控えめ。カフェイン100mgを足したCAF 100版もあり、終盤の眠気・集中力対策に使われる。弱点は価格で、1袋あたりの単価は本記事の中で最も高い部類。国内正規(マウルテン ジャパン)流通はあるが、在庫が薄いことがあるので早めの確保が無難だ。
アミノバイタル パーフェクトエネルギー:糖質+アミノ酸5000mg、入手性は随一
味の素のアミノバイタル パーフェクトエネルギーは、厳密にはジェルではなく130gのゼリードリンクだが、行動中の補給として外せない一本。1袋で180kcal・糖質40.7gと糖質量が多く、さらにアミノ酸5000mg(アラニン4.5g+プロリン0.5g)を配合する。このアラニン+プロリンは「後半にきくエネルギー源」として設計されており、スタミナの粘りを狙う人に向く。カフェインは含まない。最大の強みは入手性で、コンビニ・ドラッグストア・スーパーまで流通が広く、当日でも確実に手に入る。難点は130gとかさばり重いこと。ザックのポケットで動きながら吸うには、25〜40g級のジェルのほうが取り回しは上だ。出発前のチャージや、車・小屋でのリセットに向く。
WINZONE(ウィンゾーン):日本新薬の国内製造、ヒドロキシクエン酸を配合
国内製薬メーカーの日本新薬が手がけるのがWINZONE(ウィンゾーン)エナジージェル。オレンジ風味で115kcal・炭水化物29g、そこにヒドロキシクエン酸50mg・マグネシウム50mg・カフェイン50mgを配合する(風味によりヒドロキシクエン酸は100mgのものもある)。ヒドロキシクエン酸はガルシニア由来の成分で、糖の利用に関わるとされるが、効果の感じ方には個人差がある。マグネシウムでつり対策、カフェインで眠気対策と、Mag-onとアミノバイタルの中間的なオールインワン設計。国内製造で品質管理の安心感があり、メーカー直販や薬局系でも入手しやすい。糖質はマルトデキストリン主体で血糖の上がり方が穏やかとされる。
6製品スペック比較表:糖質・電解質・カフェイン・胃へのやさしさを🌟5段階で
数値と定性評価をまとめる。🌟は5段階の相対評価(多い・優れているほど星が多い)。実数値はメーカー公称・販売情報に基づくが、フレーバーやロットで変わることがあるので、購入時に各製品の表示を確認してほしい。
| 製品 | 1袋の糖質 | エネルギー | 塩分・ミネラル | カフェイン | 胃へのやさしさ | 買いやすさ |
|---|---|---|---|---|---|---|
| Mag-on | 30g | 120kcal | Mg50mg/🌟🌟🌟 | 一部のみ | 🌟🌟🌟 | 🌟🌟🌟🌟 |
| メダリスト | 約26g | 約106kcal | 食塩0.2g前後/🌟🌟🌟 | Coffeeのみ50mg | 🌟🌟🌟🌟 | 🌟🌟🌟🌟 |
| SiS GO Isotonic | 22g | 約88kcal | Na少〜中/🌟🌟 | 版により75mg | 🌟🌟🌟🌟🌟 | 🌟🌟 |
| Maurten GEL 100 | 25g | 100kcal | 食塩50mg/🌟🌟 | CAF版100mg | 🌟🌟🌟🌟🌟 | 🌟🌟 |
| アミノバイタル PE | 40.7g | 180kcal | アミノ酸5000mg/🌟🌟 | なし | 🌟🌟🌟🌟 | 🌟🌟🌟🌟🌟 |
| WINZONE | 29g | 115kcal | Mg50mg+HCA/🌟🌟🌟 | 50mg | 🌟🌟🌟 | 🌟🌟🌟 |
タイプ別の買い判断:あなたの「最優先」から逆引きする
| こんな人 | 結局これ | 理由 |
|---|---|---|
| フルマラソン・ウルトラで攻めたい | Maurten GEL 100 | 高糖質を胃に優しく入れられる2レーン設計 |
| ジェルで毎回胃をやられる | SiS GO Isotonic | 水なしで飲めるアイソトニック設計 |
| 後半に必ず脚がつる | Mag-on | マグネシウム50mg+豊富なフレーバー |
| 前日・当日に確実に揃えたい登山者 | アミノバイタル PE | 入手性が抜群、糖質+アミノ酸で粘る |
| 国内ブランド・つり対策・眠気対策を1本で | WINZONE | Mg+カフェイン+HCAのオールインワン |
| 自然な甘さ・入手しやすさのバランス | メダリスト | 蜂蜜由来でやさしい味、店頭でも買える |
実戦では1ブランドで固める必要はない。僕は「動きながら摂る速攻枠」にMag-onやMaurten、「エイドや小屋でのリセット枠」にアミノバイタル、と役割分担させている。味の好みと胃の相性は本当に人それぞれなので、レース本番でいきなり新製品を使わず、必ず練習で試しておくこと。これだけは強く言いたい。
まとめ:自分の胃と汗を知り、燃料を設計しきるために
エナジージェル選びは、突き詰めれば「自分の体を知ること」に行き着く。どれだけ汗をかき、どんな強度で動き、ジェルで胃がどう反応するか。それが分かれば、糖質量・塩分・カフェイン・浸透圧の4つのつまみを、自分用に回せるようになる。
高糖質を攻めたいならMaurten、胃が繊細ならSiS、つり対策ならMag-on、確実な入手ならアミノバイタル。今日の山と、今日の自分のコンディションに合わせて1本を選ぶ。その小さな設計の積み重ねが、稜線でのあの「鉛の脚」を遠ざけてくれる。次の山行では、ぜひ補給を「お守り」から「燃料計画」へと格上げしてみてほしい。