旧モデル(NP12301)を3年使った。満足している。ハセツネで終日雨に降られたときも、このジャケットが自分を守ってくれた。防水は申し分なく、シルエットはバタつかず、重さも動きも文句ない。あえて言うなら不満は何もない。
だから新モデル(NP12501)を買う理由はないはずだった。ところが登山用品店で試着して、少し気になった。「これは本当に5万円出す価値があるのか」——旧モデルを使い続けてきた人間として、フラットに判断してみたい。
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前提:旧モデルへの信頼はガチだ
まず立場を明確にしておく。僕が持っているのはNP12301、GORE-TEX Micro Grid Backer採用のモデルだ。
ハセツネカップに初出場したとき、予報では雨はそれほどでもないはずだった。ところが序盤から霧雨が降り続き、標高が上がるにつれて本降りに変わっていった。午後5時を過ぎた頃、汗冷えを感じはじめたタイミングでNP12301をパックから出した。袖を通した瞬間、風がシャットアウトされる感覚があった。生地の向こう側で雨が叩いていても、体がそれを感知しない。縫い目から水が染みてくる気配もない。そのまま夜通し走って完走できた。
単純に、このジャケットがなければ途中でリタイアしていたと思う。それくらい信頼している。
だから今回の評価は「NP12301を持っていない人への推薦」ではなく、「すでにNP12301を持っている人が、新型を買い替えるべきかどうか」という判断軸に絞る。
スペック比較:新旧の数字を並べる
| 項目 | 旧モデル NP12301 | 新モデル NP12501 |
|---|---|---|
| 素材(表地) | 20D リサイクルナイロン | 20D リサイクルナイロン(同) |
| メンブレン | ePTFE(GORE-TEX) | ePE(GORE-TEX) |
| 裏地 | Micro Grid Backer | C-Knit Backer |
| 重量(Lサイズ) | 約270〜300g | 285g |
| 脇下ベンチレーション | なし | あり(止水ファスナー式) |
| ポケットファスナー | 通常ファスナー | 止水ファスナー |
| DWR処理 | C6〜C8系フッ素 | C0系フッ素フリー |
| 価格(税込) | 発売時 約¥38,500 | ¥50,600 |
変更点を一つずつ解剖する
メンブレン:ePTFEからePEへ——性能は変わらないが、意味はある
GORE-TEXの心臓部であるメンブレンが、フッ素化合物ベースのePTFE(拡張ポリテトラフルオロエチレン)から、フッ素フリーのePE(拡張ポリエチレン)に切り替わった。これはGORE-TEX全体で進んでいる世代交代で、2025年のカリフォルニア州PFAS規制や欧州規制に対応した動きだ。
使い手として気になるのは「性能が落ちていないか」だが、GORE社は「防水性・透湿性・防風性はePTFEと同等か以上」と主張しており、業界テストの結果もその数値を裏付けている。さらにePEはePTFEの半分の重量、3分の1の薄さという物性を持つため、生地全体の軽量化に貢献している。
現実的な評価:性能面での後退はない。環境面では進歩。旧モデルを手放す理由にはならないが、将来的な方向性として正しい変化だ。
ただし注意が必要なのはDWR(撥水処理)との関係だ。これは後述する。
裏地:Micro GridからC-Knitへ——触れると違いは分かる
NP12301の裏地はMicro Grid Backer——格子状の微細な起毛素材で、ベースレイヤーの上を滑りやすく耐摩耗性に優れる。NP12501はC-Knit Backerに変更された。ニット構造で、触れると明らかに柔らかくしなやかだ。透湿性は最大15%向上、重量は最大10%の削減とされている。
ショップで両者を着比べると、柔軟性の差はすぐ分かる。C-Knitは腕を回したときのつっぱり感が少なく、長時間着用時の疲労感に影響するかもしれない。
ただし、Micro Grid Backerの方が耐摩耗性が高いという事実もある。岩稜帯でのスクランブリングや、ザックのハーネスとの擦れが多いアルパイン用途では、長期的な耐久性の差として現れる可能性がある。柔らかいが、そこには若干のトレードオフがある。
現実的な評価:着心地は改善されている。ただし旧モデルのMicro Gridが「不快」だった人はほぼいないはずで、「あれば嬉しい」止まりの改善だ。耐久性を重視するなら旧モデルに分があると言う見方もできる。
脇下ベンチレーション:滝汗族にとっては、これだけで買い替えが成立する
新モデルの変更点の中で、唯一「これは欲しかった」と声に出た機能がこれだ。脇下に止水ファスナー式のベンチレーションが追加された。
旧モデルでできる体温調整は「フロントジッパーを開ける」だけだった。しかし雨の中でフロントを開けると、正面から雨が吹き込む。着ている意味が半減する。結果、暑くてもジャケットを閉じたまま耐えるか、ガマンできずに開けて濡れるかの二択しかなかった。
脇下ベンチレーションはこのジレンマを直接解決する。脇の下のファスナーを開けると、腕の動きに連動して熱と湿気が上方に逃げる。フロントは閉じたまま防水を維持しながら、同時に排熱できる。
汗かきの人間にとって、これは別次元の話だ。蒸し暑い日にGORE-TEXを着ることの辛さは、防水以前に「蒸れで体力を消耗する」ことにある。急登で汗が噴き出してくる場面でも、脇を開ければジャケットの中に熱がこもらない。シェルを着たまま動き続けられる時間が、体感的に明らかに長くなる。
他の変更点がどれも「あれば嬉しい」止まりの改善である一方、脇下ベンチレーションだけは「なかったことが不満だった」問題に対する答えだ。この機能ひとつのために新モデルへの買い替えを検討することは、滝汗族にとって十分に合理的だと思う。
正直に言う:C-Knitの柔らかさもePEの環境性能も、旧モデルが壊れていないなら後回しでいい。だが脇下ベンチレーションは別枠だ。汗の量が多い人ほど、この穴ひとつの価値は跳ね上がる。
ポケットの止水ファスナー:小さいが確実な改善
旧モデルのポケットファスナーは通常仕様だった。激しい雨の中では、ポケットに入れたものが湿気る問題があった。NP12501はフロントに加えてポケットも止水ファスナー化されている。地図やスマホ、行動食を入れた状態での安心感が上がる。
現実的な評価:小さいが確実な改善。これ単体で買い替えの理由にはならないが、積み重なる地味な利点の一つ。
DWR劣化の問題:これだけは正直に伝えたい
フッ素フリーDWR(C0系)への移行は環境的には正しい。ただし、使い手として理解しておくべき現実がある。
旧来のC8/C6系フッ素DWRは撥水性の持続力が高く、汚れや油脂にも強かった。C0系は持続性が劣り、皮脂や汗、埃が付着すると撥水機能が落ちやすい。GORE-TEX全体でこの問題が指摘されており、新モデルではより定期的なウォッシュ&リプルーフが必要になる。
実際の使用感でいうと、旧モデルが「洗わなくてもしばらく撥水した」とすれば、新モデルは「定期的なメンテが前提」というスタンスに変わったと理解すべきだ。ガンガン使うトレイルランナーや登山者にとって、これは見逃せない違いだ。
現実的な評価:これは改悪ではなく環境規制への対応だが、メンテナンスの手間は増える。旧モデルをまだ持っているなら、その優位性が一つある。
変わらないもの:基本性能はブレていない
公平に言うと、変わっていないものの方が多い。ヘルメット対応フード、ハーネスと干渉しないスランティングポケット、バタつきを抑えるシルエット、スタッフサック付きのパッカブル収納——クライムライトジャケットの本質的なアドバンテージは新モデルでも維持されている。
GORE-TEXとしての基本防水・透湿性能も変わらない。雨の中で着た感覚、体をドライに保つ安心感——そこに差はない。旧モデルが「信頼できる」と感じているなら、その感覚は新モデルでも変わらない。
旧モデル保有者向けの正直な結論
買い替えなくていい人
旧モデル(NP12301)が今も正常に機能している人は、急いで買い替える必要はない。
GORE-TEXの基本性能は同等、重量差は約15g(誤差範囲)、価格は¥50,600と高い。C-Knitの着心地改善は確かだが、Micro Grid Backerで不満を感じていた人はほぼいないはずだ。DWRの持続性は旧モデルの方が優位とも言える。
旧モデルが「まだ十分に使える」なら、¥50,600の価値は薄い。
買い替えを検討すべき人
ただし、以下に当てはまるなら新モデルへの移行を考える価値はある。
- 旧モデルのDWRが回復しなくなった——リプルーフを繰り返しても撥水しなくなったなら寿命と判断していい
- 脇下ベンチレーションを必要としている——ハイペースな登高でジャケットを着たまま体温管理したい人
- 旧モデルに物理的なダメージがある——破れ・シームテープの剥離・ファスナーの不具合
新規購入なら迷いなくNP12501を選ぶべきで、旧モデルの優位性はすでに廃盤になりつつある旧世代の話だ。問題は「すでに持っている人がわざわざ替えるか」であり、その答えが「よほどの理由がなければノー」というだけだ。
競合との立ち位置(参考)
| 製品 | 価格(税込) | 重量 | メンブレン | 特徴 |
|---|---|---|---|---|
| TNF クライムライトジャケット NP12501 | ¥50,600 | 285g(L) | GORE-TEX ePE C-Knit | 日本市場での信頼度・日本人体型への最適化 |
| mont-bell ストームクルーザー | ¥38,500前後 | 約255g | GORE-TEX ePE | コスパ重視。登山界での被り率が高い |
| Patagonia Torrent Shell 3L | ¥62,900前後 | 約368g | 独自H2No | リサイクル素材へのこだわり、フード設計が優秀 |
ストームクルーザーは¥12,000以上安くGORE-TEX性能も同等水準で、「機能で選ぶなら競合最有力」という評判は変わっていない。クライムライトジャケットが優位なのは、日本人の体型に合わせたパターン設計と、タウンユースにも馴染むデザインの振れ幅だ。
おわりに
新モデルを試着して、「悪くなった部分はない」とは感じた。C-Knitは確かに柔らかく、脇下ベンチレーションは本質的に便利で、ePEへの移行は時代の要請として正しい。
ただし、旧モデルを使い続けてきた立場からは「これで5万出すか」という問いに対して、正直なところ「いま持っているものが壊れていない限り、急がなくていい」というのが答えだ。
道具は壊れるまで使い切るのが美しい。クライムライトジャケットは、その価値に足る一着だと思っている。
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