- 携帯トイレを持つ山、持たなくていい山|「トイレとトイレの間が何時間空くか」で決める
- 「1回分」は水で測った数字だった|JIS K7223が脱イオン水と食塩水を分けている理由
- 山では尿の量そのものが増える|高所利尿と寒冷利尿が「1泊で2個」を崩す
- モンベル43gからほっ!トイレ約190gまで|主要5製品を凝固剤の量と袋の構成で見る
- 臭いを止めるのは凝固剤ではなく袋の枚数|アルミ蒸着・二重チャック・防臭袋の置きどころ
- 使い終わってからが本番|早池峰の販売3,645個・回収627個が示す持ち帰りの設計
- 行き先別に何個持ち、何を足すか|型A・B・Cから逆算する5パターン
- まとめ:袋に書いてある数字を、自分の山の数字に置き換えるために
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磐梯山の弘法清水小屋は、自分たちのサイトにこう書いている。「磐梯山の山頂近辺には、いわゆる『トイレ』はございません」。夏でも秋でも、雪が消えていても、無いものは無い。
携帯トイレは秋の道具だと思われがちだ。9月下旬から10月にかけて小屋が順に店じまいをして、既設のトイレが止まる。富士山では山梨県側の山小屋の営業が9月11日までで、その営業期間中ですら、最高所の小屋から山頂までの往復およそ2時間はトイレのない区間になる。小屋が閉まれば、その手前も止まる。
ただ、磐梯山のように季節と関係なく最初から無い山もある。そして持っている人の多くは、たぶん一度も開けていない。僕もそうだ。保険として買われ、ザックの底で潰れ、期限が来て入れ替わる。
だから問いは2つある。今回の山は持つべき山か。持つなら何個か。先に前者から片づける。
携帯トイレを持つ山、持たなくていい山|「トイレとトイレの間が何時間空くか」で決める
判断はひとつの問いに落ちる。登山口を出てから戻るまで、トイレとトイレの間が何時間空くか。成人の排尿間隔は日中でおよそ3〜5時間とされる。この幅を超える空白があるなら、持つ側に倒す。
空き方には3つの型がある。自分の行き先がどれに当たるかを、出発前に一度だけ確かめればいい。
型A:そもそも山にトイレが無い(季節と無関係)
冒頭の磐梯山がこれだ。弘法清水小屋には携帯トイレ用ブースが2室あり、専用の携帯トイレを400円で売っている。使用済みは登山口まで持ち帰り、八方台・裏磐梯・猪苗代の各登山口にある回収箱へ入れる。環境省の東北地方環境事務所が2011年から試行を始めた仕組みで、理由は身も蓋もない。麓の駐車場にはトイレがあるが、登山道の上には無い。
利尻山はさらに徹底している。島を挙げて携帯トイレの持参を必須とする運動を展開していて、コース上には携帯トイレ専用ブースが5か所。携帯トイレは島内の宿・商店・コンビニ・観光案内所・フェリーターミナル・役場などで1セット400円で買え、鴛泊と沓形の両登山口に回収箱がある。
甲斐駒ヶ岳も、北沢峠から10分の長衛小屋を出ると、下山までトイレが無い。
この型に小屋締めも冬期閉鎖も関係ない。歩く日がいつであっても持つ。そして型Aの山ほど、ブースや回収箱といった受け皿が整っていることが多い。無いから整備された、という順番になっている。
型B:あるが、時期で止まる
小屋締め後の稜線、冬期閉鎖された公衆トイレ、富士山の閉山後。ここは日付で決まるので、行く山の小屋の営業期間を1つ調べれば足りる。営業最終日の翌日から、その小屋のトイレは無いものとして計画する。
注意したいのは、小屋が閉まる日とトイレが止まる日が同じとは限らないことだ。管理者がいなくなれば清掃も汲み取りも止まる。「閉鎖」と書かれていなくても、使える状態とは限らない。
型C:あるが、間隔が空く・行列する
縦走で次のトイレまで4時間、5時間と空くケース。ハイシーズンに行列ができて、順番が回るまでに20分かかるケース。トイレはあるのに実質使えない、という型だ。
環境省も、既存トイレがある山で登山者が集中する場合に、仮設の携帯トイレ用ブースを設けて負荷を分散するのは効果的だとしている。行列の側にも意味がある。
判定表:この条件に1つでも当たるなら持つ
| 状況 | 判断 |
|---|---|
| 登山口から先にトイレが1つも無い(型A) | 必ず持つ。ブースの形状に合う袋かも確認する |
| 小屋締め後・冬期閉鎖の時期に入る(型B) | 持つ。既設は止まっている前提で組む |
| 次のトイレまで3時間以上空く区間がある(型C) | 持つ。空白がいちばん長い区間で判定する |
| 標高の高い場所に泊まる | 持つ。夜間の回数が読めない(次章) |
| 子どもや、体調の読めない同行者がいる | 持つ。人数分で数える |
| 日帰り・登山口と山頂の両方にトイレ・間隔1時間以内 | 1個をザックに残しておく程度でよい |
最後の行を素直に書いておきたい。全部の山で持つ必要はない。低山の整備された往復コースで、登山口にも山頂にもトイレがあり、行動時間が短いなら、1個を入れっぱなしにしておけば足りる。持つ持たないを毎回悩むより、そのほうが続く。
持っていても使えないことがある
型Aの山でいちばん見落とされるのがここだ。弘法清水小屋のブースは洋式便座に被せるタイプの携帯トイレ専用で、形状が合わないものは使えないと明記されている。小屋は事前に小屋番へ確認するよう求めている。
つまり、袋の口が広くて便座を覆えるかどうかが、その山では性能そのものになる。自立式の小さな袋は、ブースの外なら扱いやすいのに、ブースの中では使えないことがある。行き先にブースがあるなら、手持ちの袋がその形式に合うかを先に確かめる。
「1回分」は水で測った数字だった|JIS K7223が脱イオン水と食塩水を分けている理由
携帯トイレの中身は、便を受ける袋と、液体を固めるための凝固剤と、それを封じる袋でできている。この凝固剤の主役が高吸水性樹脂、いわゆる吸水ポリマーだ。紙おむつと同じ材料系で、ポリアクリル酸ナトリウムが主流になっている。
この材料には、あまり表に出てこない癖がある。何を吸わせるかで、吸える量が一桁変わる。
ポリマーが膨らむのは、内側に固定されたマイナスの電荷どうしが反発して網目を押し広げ、そこへ水が入り込むからだ。ところが液体側にナトリウムなどのイオンが溶けていると、内と外の濃さの差が小さくなり、水を引き込む力がしぼむ。純水なら自重の数百倍から1,000倍近くを抱えるのに、尿のような塩を含む液体では50〜100倍あたりまで落ちる。おむつ業界が「粉の重さの50〜100倍のおしっこを吸う」と言うのは、この落ちたあとの数字だ。
面白いのは、規格のほうがこの事情をきちんと知っていることだ。高吸水性樹脂の吸水量を測る JIS K7223 は、試験液として脱イオン水と0.9質量%の食塩水の両方を使うと定めている。わざわざ2種類決めてあるのは、1種類では性能を表せないからにほかならない。ついでに言えば、吸水速度を測る JIS K7224 の標準状態は23±2℃だ。「約1分で凝固」という表示は、室温の実験台の上での話になる。
にもかかわらず、製品に印刷されるのはたいてい水のほうの数字だ。総合サービスのサニタクリーンは、凝固できる量を「約1,000cc」としたうえで、括弧書きで「水道水による自社試験」と条件を明かしている。エクセルシアのほっ!トイレも「500cc以上(自社試験)」と書く。モンベルのO.D.トイレキットに至っては、吸水量そのものが公開されていない。
条件を明記している会社はむしろ誠実な部類で、責める話ではない。ただ読む側としては、袋の「1,000cc」を尿1,000ccと読み替えてはいけない、という一点だけは押さえておきたい。実際にどこまで落ちるかはメーカーが公表していないので、ここは断定できない。
ひとつ留保を置く。携帯トイレの凝固剤は吸水ポリマー単体ではなく、ケイ酸塩鉱物や消臭・除菌成分を混ぜた粉やシートになっている製品が多い。だからおむつ用ポリマーの倍率をそのまま製品の性能に当てはめることはできない。言えるのは「公称値は水基準であり、尿での値は各社とも公開していない」までだ。
氷点下の稜線で凝固剤が固まらないのでは、という心配もよく聞く。水の粘りが増すぶん、理屈のうえでは遅くなる方向に働くはずではある。ただし各社とも低温での実測値を出しておらず、公開されている文献にも見当たらない。そのうえ尿は体温で出てくるので、粉が冷えていても反応する液体そのものは温かい。数字がない以上、寒さを個数の判断材料に使うのは無理がある。
山では尿の量そのものが増える|高所利尿と寒冷利尿が「1泊で2個」を崩す
袋の容量が目減りするかもしれない、という話をした。困ったことに、反対側からも挟まれる。山では出る量が増える。
平地の目安から確認しておく。健康な成人の1回の排尿量はおよそ200〜400mL、1日の総量が1,000〜2,000mL、回数は7回以下とされる。携帯トイレの「1回分」を考えるとき、無意識に置いている前提はこのあたりだろう。
標高が上がると、この前提が動く。薄い空気に合わせて呼吸が増えると、二酸化炭素が抜けて血が傾く。体はそれを戻すために、余った分を尿として出す。心房性ナトリウム利尿ペプチド(ANP)が増え、水を体に留める側のホルモンが抑えられることも合わせて知られていて、高所順応が進んでいる人ほどよく出るようになる。エベレストのベースキャンプにあたる5,300mでは、就寝中に2L出て何度も起きるという報告がある。これは体調不良ではなく、むしろ順応が回っているサインとして扱われる。
寒さも同じ方向に効く。体温を逃がさないよう手足の血管が締まると、そのぶん血液が体の内側に回り、腎臓を通る量が増えて濾される量も増える。南極での研究では、30分程度の短い寒冷曝露でも尿量と尿中の電解質排泄がそろって増えたことが報告されている。冷えた朝にトイレが近くなるのは、気のせいではない。
では何個か。ここは各社が尿での容量を出していない以上、きれいな計算はできない。割り切って「必要と思う回数+2」を上限の目安に置くのが現実的だと考えている。1個あたりの重さは軽いもので40g前後、かさも文庫本ほどの面と数mmの厚みなので、2個の余分は装備の判断としてほとんど痛くない。足りない側のリスクとは釣り合わない。
体の内側の事情については、標高が上がると体で何が起きるのかを整理した記事と、山で腹の調子が狂う仕組みを扱った記事のほうが詳しい。回数そのものを減らしたいなら、そちらの水分計画から入るほうが早い。
モンベル43gからほっ!トイレ約190gまで|主要5製品を凝固剤の量と袋の構成で見る
国内で普通に買えて、登山で現実的に使えるものを5つ選んだ。重さの幅がそのまま「何を同梱しているか」の差になっている。
| 製品 | 重量 | 凝固剤 | 袋の構成 | 便座に被せる方式 | 保存 |
|---|---|---|---|---|---|
| モンベル O.D.トイレキット | 43g | 吸水ポリマー1回分(量・吸水量とも非公開) | 便袋+防臭袋の2枚 | 開口部の周囲130cmで覆える寸法 | 記載なし |
| QQトイレ | 42g | 「375GEL」(吸水量非公開) | 自立式2L袋+二重チャックの防臭袋 | 自立式のため不向き。要事前確認 | 記載なし |
| ポイレ | 1回分パック70×90mm | 抗菌性凝固剤「かた丸」/ポリマー7g | 排便袋1枚+アルミ個包装 | 袋の寸法が非公開。要事前確認 | 15年 |
| サニタクリーン Rosa | 約95g | 高速吸水凝固シート(袋に圧着一体) | 便袋+高密閉チャック袋+水溶性ティッシュ | 便袋55×65cmで覆える寸法 | 未使用7年(同社簡単トイレ) |
| ほっ!トイレ 標準パック | 169〜191g | 吸水性樹脂・ゼオライト・消石灰・セルロース | 便袋+処理袋+ポンチョ同梱 | 袋の寸法が非公開。要事前確認 | 5年 |
重量の出どころは各社の公称値で、ほっ!トイレは資料によって169gと191gが混在している。実測ではないので幅で書いた。
モンベル O.D.トイレキット|1回分43g・¥330、判断に迷ったときの基準点
便袋が65×50cm、開口部の周囲が130cmある。この開口部の大きさは地味に効くところで、しゃがんだ姿勢で外さないための余裕になる。中身は便袋・吸水ポリマー1回分・防臭袋という素っ気ない3点で、凝固は約1分とされる。
単品330円という値付けと、モンベルの店舗網で当日買えるという入手性が強い。登山用品店の棚に必ずあるものを基準点にしたい人には、ここから始めるのが素直だと思う。弱点は情報の薄さで、吸水量も凝固剤の量も公開されていない。何ccまで受けられるのかを知ったうえで数を決めたい人には物足りない。
こんな人に:まず1つ持っておきたい人、道具は店で現物を見てから買いたい人。 こんな人は避ける:容量を数字で把握してから個数を決めたい人。
QQトイレ|42gで自立する2L袋、封じ方にいちばん手が入っている
僕が持っているのがこれだ。パッケージは8.5×15.5cmで、ポケットティッシュとそう変わらない。中身は自立するジッパーバッグ(2L)、二重チャックの防臭袋、375GELという凝固剤、水溶性ティッシュ。
この製品の見どころは、袋が自立することと、外袋に食品用のアルミ蒸着処理を使っていることの2点だ。自立するというのは、片手で口を押さえていなくてよいということで、狭いブースや不安定な足元では効いてくる。アルミ蒸着は臭いを通しにくい層として働く。メーカーは可燃ごみとして焼却できるとしている。
弱点は開示の薄さだ。凝固剤の量も吸水量も非公開で、「375」が何を指すのかも説明がない。保存年数の記載も見当たらない。作りそのものは悪くないが、他社が成分や保存年数を出してくるようになった今、情報の出し方は一世代前に見える。もうひとつ、自立式の小ぶりな袋は便座を覆う形状ではないので、洋式便座に被せる方式のブースがある山では使えない可能性がある。行き先にブースがあるなら事前に確認したい。
こんな人に:ブースの中で片手を空けたい人、ザックの中でかさばらせたくない人。 こんな人は避ける:成分や容量の開示を重視する人。
ポイレ|凝固剤7gを明かしている数少ない1本、個包装で15年
1回分がアルミの小袋に封入されていて、外寸は70×90mm。この中に抗菌性凝固剤「かた丸」と排便袋が入る。
この製品を評価したいのは、凝固剤に含まれる高吸水性ポリマーの量を7gと明かしている点だ。吸水量を「水で何cc」と書くより、粉が何グラム入っているかを出すほうが、読む側は自分で見当をつけられる。判断材料として一段まっとうな出し方だと思う。アルミ個包装のおかげで保存が15年と長く、ザックに入れっぱなしにする使い方とも相性がいい。
弱点は袋の側だ。外袋の防臭層について、他社ほど具体的な説明がない。個包装は未使用時の保護であって、使用後の封じとは別の話になる。持ち帰りを考えるなら、防臭袋を別に足す前提で見たほうがいい。
こんな人に:ザックに入れっぱなしで数年放置したい人、1回分ずつ小分けで管理したい人。 こんな人は避ける:買ったセットだけで持ち帰りまで完結させたい人。
サニタクリーン Rosa|凝固シートが袋と一体、粉をこぼす動作がない
総合サービスは災害用トイレの老舗で、山向けというより備蓄・避難所の文脈で名前が通っている。Rosaはその携帯版で、約95g。便袋が550×650mm、封じる高密閉チャック袋が240×375mm、水溶性ポケットティッシュが付く。
構造上の特徴は、凝固シートが袋に圧着されて一体になっていること。粉を振りかける動作が要らないので、風のある場所や暗がりで手順を1つ減らせる。同社の簡単トイレでは凝固能力を「約1,000cc(水道水による自社試験)」、未使用時の保証を7年、凝固が保つ期間を約1か月以上としている。凝固シートには抗菌素材を使い、臭いのもとになる菌の増殖を抑える設計だという。
弱点は重さとかさで、40g台の2製品と比べると倍以上ある。軽さを削って、手順の少なさと袋の作りを取った設計という理解でいる。
こんな人に:暗い中や強風下で手順を減らしたい人、粉を振りかける動作に不安がある人。 こんな人は避ける:1gでも軽くしたい人。
ほっ!トイレ 標準パック|ポンチョ込み169〜191g、隠す手段まで持っていく1本
いちばん重い。そのぶん、他の4製品が持っていないものが入っている——目隠しのポンチョだ。
凝固剤の成分も公開されていて、吸水性樹脂・ゼオライト・消石灰・セルロース。消石灰は便の中の菌を抑え、悪臭成分を分解・吸着する役割を担う。同社の携帯用1回分パックは最大吸収量を「500cc以上(自社試験)」、保存を5年、凝固が保つ期間を1か月以上としている。2014年と2015年には、同社が無償提供した携帯トイレを山梨県が富士山五合目で登山者に配った実績もある(約19,000個)。
この1本が効くのは、ブースがない場所で使わざるを得ないときだ。登山道からわずかに外れた斜面で、ポンチョがあるかないかは、使えるか使えないかの差になる。逆に、携帯トイレブースが整った山だけを歩くなら、190g近い重さは過剰装備になる。
こんな人に:ブースのない山で使う可能性がある人、隠れる場所を確保しにくい人。 こんな人は避ける:ブースのある山にしか行かない人、軽量化を優先する人。
臭いを止めるのは凝固剤ではなく袋の枚数|アルミ蒸着・二重チャック・防臭袋の置きどころ
凝固剤の仕事は液体をゲルに変えて、動かないようにすることだ。臭いを完全に消す装置ではない。臭気を止めているのは、その外側の袋のほうになる。
袋の構成で見ると、5製品は3つに分かれる。
| 層の作り | 該当 | 持ち帰りでの扱い |
|---|---|---|
| 便袋+防臭袋(2層) | モンベル、サニタクリーン Rosa | そのままでも成立。多日程なら1層足したい |
| 便袋+二重チャックのアルミ蒸着袋 | QQトイレ | 封じは5製品で最も手が入っている |
| 便袋+処理袋(防臭層の明示なし) | ポイレ、ほっ!トイレ | 防臭袋を別に用意する前提で組む |
外側の1枚を足すなら、クリロン化成のBOSが手堅い。もともと医療向けに開発された防臭フィルムで、同社の非常用トイレセットにも「臭わない袋BOS・凝固剤・汚物袋・便器カバー」という構成で組み込まれている。単体のSサイズなら1枚あたりの重さはごくわずかで、使用済みの袋を丸ごと放り込むための最後の1層として持てる。
ただし、ここは正直に線を引いておく。防臭性能を横並びで比べられる第三者試験のデータは、探した範囲では見つからなかった。各社が自社基準で「臭わない」と書いているのが現状で、どれがどれだけ優れているかを数字で断定はできない。言えるのは、層が増えれば漏れる経路が減るという構造上の話までだ。
袋を重ねて中身を守るという考え方そのものは、濡らしたくないものを袋で守る設計を扱った記事と同じだ。向きが逆——外に出したくないか、中に入れたくないか——なだけで、袋の重ね方の理屈は共通している。
使い終わってからが本番|早池峰の販売3,645個・回収627個が示す持ち帰りの設計
ここが、製品比較からいちばん抜け落ちる部分だ。
環境省が山小屋トイレのあり方をまとめた資料は、携帯トイレの導入条件として「入手しやすく、使いやすく、捨てやすい」の3つを、すべて満たす必要があると書いている。同じ資料は負の側面もはっきり書く。ほとんど使われなかったり、登山道の周辺に捨てられて逆にゴミが増えたりする恐れがある、と。普及を後押しする側の文書が、これを書いている。
日本で携帯トイレの普及がいちばん進んだ山のひとつが、岩手県の早池峰山だ。平成9年に山岳会が会員に配って使用体験を始めたのが起点で、その後は県と民間の保全団体が一緒に普及を進めた。環境省の資料(平成24年10月調べ)には、こんな数字が載っている。
- 販売数:平成22年度 2,052個 → 平成23年度 1,472個 → 平成24年度 3,645個
- 回収ボックスへの回収数:平成23年度 383個 → 平成24年度 627個
平成24年度に販売が2.5倍に跳ねたのは、山頂避難小屋のトイレを閉めて携帯トイレのみを使う「携帯トイレデー」を、前年の30日間から121日間へ広げたからだ。制度が動けば数は動く。
一方で、販売3,645個に対して回収ボックスに戻ったのは627個にとどまる。ここは慎重に読む必要があって、買ったものを全部使うわけではないし、持ち帰って家庭ごみに出すのは環境省も自治体も認めている正規のルートだ。だから残りが捨てられたという読み方はできない。それでも、買った時点と、片づけがつく時点のあいだには、想像よりずっと大きな隙間があることは見える。
そして現在。岩手県の令和8年度の案内では、無人販売ボックスが小田越登山口・河原の坊総合休憩所・山頂避難小屋の3か所に6月上旬から10月中旬まで置かれ、携帯トイレ用ブースは山頂避難小屋に3室(降雪期は使用不可)と小田越登山道の1合目付近に1基ある。ところが回収ボックスは「小田越登山口のみ」で、岳駐車場・峰南荘前・河原の坊総合休憩所前には設置していないと明記されている。平成24年度の資料では4か所だった。
環境省が挙げた3条件のうち、細っているのは3つめだ。だから持ち帰りは、山に用意されている前提で計画してはいけない。
山域ごとに違う出口を、行く前に1回だけ調べておく
回収の仕組みは山ごとにまるで違う。代表的なところを並べる。
| 山域 | ブース | 使用済みの出口 |
|---|---|---|
| 磐梯山(福島) | 弘法清水小屋に2室(洋式便座に被せる方式専用) | 八方台・裏磐梯・猪苗代の各登山口に回収箱 |
| 利尻山(北海道) | コース上に専用ブース5か所 | 鴛泊・沓形の両登山口に回収箱。島内各所で1セット400円 |
| 大山(鳥取) | 6合目避難小屋、ユートピア避難小屋 | 南光河原駐車場と大山情報館横に回収ボックス。原則は持ち帰って家庭ごみ |
| 塩見岳(南アルプス) | 塩見小屋に専用ブース(通常トイレなし) | 宿泊者は袋が無料。持参者はブース無料で回収料1回100円 |
| 早池峰山(岩手) | 山頂避難小屋3室、小田越登山道1合目付近 | 回収ボックスは小田越登山口のみ(令和8年度) |
| 富士山 | 山小屋トイレが主(協力金制・200〜300円程度とされる) | 最高所の小屋〜山頂の往復約2時間はトイレなし。使用後は持ち帰り |
塩見小屋のように回収に100円かかるところもあれば、大山のように駐車場まで持ち帰れば箱があるところもあり、早池峰のように下山口を選ぶと箱がないところもある。共通しているのは、どこも「その日のうちに家まで持って帰る」が成立するなら困らないという点だ。子ども連れで大山を歩いたときの夏山登山道の所要時間と装備をまとめた記録にも、ブースと回収箱の位置は効いてくる。
家庭ごみとしての扱いは自治体で分かれる。多くはおむつと同じ可燃ごみでよいが、袋に「し尿ごみ」と書くよう求める自治体もある。行く前に1回だけ、自分の市区町村の分別を確認しておくと、下山後に迷わない。
ザックの中で、どこに入れるか
持ち帰りが前提だと、収納場所も設計の対象になる。押さえどころは3つだ。
- 外付けにしない。枝や岩に当たる位置に吊るすのは、破れの経路をわざわざ作ることになる。
- 食料と別の区画に入れる。心理的な問題に見えて、実際は臭いの移りの問題でもある。行動食の袋と同じポケットに入れない。
- 硬い外殻をひとつ挟む。防水スタッフサックや、口の閉まる小型の容器に入れてからザックへ。潰れても中身が外に出ない層をもう1枚作っておく。
多日程なら、日数分の使用済みが溜まっていくことも忘れないほうがいい。2泊3日で4個使えば、4個ぶんの体積と重さがそのまま増えていく。行きは軽く、帰りは重い装備として計算に入れておく。
行き先別に何個持ち、何を足すか|型A・B・Cから逆算する5パターン
ここまでを、持ち物の形に落とす。
| 行き先 | 個数の目安 | 組み合わせ |
|---|---|---|
| トイレのある日帰り低山(型に当たらない) | 1個 | 軽い1本を入れっぱなしに。保険としての携行 |
| ブースのある山の日帰り(型A/磐梯山・大山・早池峰など) | 2個 | 現地の袋を買う手もある。ブースの方式と、下山口の回収箱を先に確認 |
| ブースのない山・道を外れて使う可能性(型A/型C) | 2個 | ポンチョ同梱の1本を1つ混ぜる。隠す手段を装備側で持つ |
| 小屋締め後の1泊2日(型B・トイレが止まる想定) | 4個 | 夜間の分を厚めに。防臭袋を2枚足し、防水スタッフサックに隔離 |
| 2泊3日以上の縦走(型B+型C) | 5〜6個 | 増えた使用済みの置き場を先に決める。日ごとに封じる袋を分ける |
数字はあくまで目安で、根拠は前述の「必要と思う回数+2」でしかない。厳密な計算に見せかけないほうがいい。
夜の回数が読めない人ほど、多めに倒すのが合理的だと思う。テント場で夜中に何度も起きるのは、標高が上がったときの体の反応として珍しくない。小屋泊まりでも、標高2,500mから始まる呼吸の変化のせいで眠りが浅くなり、そのぶん起きる回数が増える。
まとめ:袋に書いてある数字を、自分の山の数字に置き換えるために
持つかどうかは、山の格や季節では決まらない。登山口を出てから戻るまで、トイレとトイレの間が何時間空くか。それだけで決まる。磐梯山のように季節と無関係に最初から無い山があり、小屋締めで止まる山があり、あるのに間隔が空く山がある。この3つのどれかに当たったら持つ。当たらなければ、1個をザックに残しておけばいい。
持つと決めたあとで効いてくるのが、もうひとつの話だ。携帯トイレの「1回分」は、水を23℃で測った実験室の単位であって、稜線で自分の体から出るものの単位ではない。
規格そのものがそれを認めている。JIS K7223 は吸水量を脱イオン水と0.9%食塩水の両方で測ると定め、JIS K7224 は速度の標準を23±2℃としている。にもかかわらず製品に印刷されるのは水側の値で、尿での実効量を公開しているメーカーは見当たらなかった。反対側では、高所と寒さが尿量を押し上げてくる。袋は目減りするかもしれず、出る量は増えるかもしれない。
だから選び方は、容量の数字を比べる作業にはならない。どこで使うか(ブースがあるか、その形式に袋が合うか)、どう封じるか(袋が何層か)、どこへ捨てるか(下山口に箱があるか)の3つで決める。軽さで選ぶならモンベルかQQトイレ、ブースのある山ならモンベルかサニタクリーン、放置年数ならポイレ、隠す手段まで持つならほっ!トイレ、という並びになる。
数を決めるときも、精度の高い逆算はできない。できるのは、外れたときに困る側へ余裕を倒すことだけだ。「必要と思う回数+2」。40g前後のものを2つ足す判断に、迷う理由はほとんどない。