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by Daringdaddy #山で使う道具の話 #軽さと快適さのあいだ #買う前に知りたかったこと

てんくら・ヤマテン・登山天気・Windy、山の天気予報サービスは結局どれを信じるか|割れた日に多数決が効かない理由

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てんくら(てんきとくらす)の登山指数が何をどう計算しているのか、公式サイトに書かれているのは一段落しかない。「登山をするための快適さを、山頂や山麓の気象条件から、気象学的知見を用いてレベル値で表現をしています。降水量、風速、雲量などを総合的に考慮し、気象条件を独自計算したものです」(てんきとくらす 登山指数の説明)。これで全部だ。風速が何m/sを超えるとBになるのか、雨が何mm降るとCになるのか、その線引きは公開されていない。

それでも僕らは、出発前夜にあの1文字を見る。そして、たいてい割れる。あの日僕が開いていたのは、てんくら・登山天気・山天気・Windyの4つだった。4つ開いて4通りの顔をしていると、人は自分の行きたい方を選ぶ。

僕自身、この4つが割れた日に稜線へ上がったことがある。1つだけがAで、残り3つは雨と強風。そのAを根拠に出かけた——完全に、見たいものを見ていた。あとから分かったのは、その1票が「他と違う情報源からの反対意見」ではなかったということだ。結果は全方位からの爆風と霧雨で、夜半にテントのポールが折れ、一睡もできないまま朝を待った。その反省として決めたのが「割れたら多数決」というルールだった。

ところが、多数決が意味を持つのは、票が互いに独立しているときだけだ。あの4つのうち、本当に独立した予報はいくつあるのか。数えてみると、反省して作ったルールのほうが成立していなかった。

この記事で並べるのは、いま出発前夜に開かれることの多い5つ。指数のA/B/Cで知られるてんくら、山頂・登山道・麓を分けて出す登山天気(tenki.jp)、気象予報士が文章で書くヤマテン、世界の予報モデルを地図で見せるWindy、そして気象庁などの計算結果を丸めずにそのまま地図に描くSCW(SuperCWeather)だ。あの日の4つとは完全には重ならないが、順に元データまで遡っていく。

→ 予報が割れた日に稜線へ上がってしまった記録を読む

空の右半分だけに厚い雨雲がかかり、左半分は晴れている稜線上空のイラスト
同じ計算結果を、どこまで丸めて見せているかの違い。図:山道具ラボ

4つ開いても、独立した予報は3つしかない|条件次第で2つ、1つになる

国内で天気予報を出している民間の会社は、自前の観測網とスーパーコンピュータをゼロから持っているわけではない。気象庁が計算した数値予報の結果は、気象業務法にもとづいて指定された気象業務支援センターを通じて、民間の気象事業者などへ提供されている。各社はそれを基礎資料として、自社の予報や指数を組み立てる。

上流が同じであることは、各サービスが自分で書いている。

てんくらは各山ページの末尾に、高度別の値は「気象庁が作成した天気予報の基となる数値計算結果」だと明記している(あとの章で実物を見る)。数値予報の格子点値(GPV=気象庁のモデルが吐き出す格子ごとの計算結果)を、そのまま画面に載せているという意味だ。ただし、それが13km格子の全球モデルなのか、5km格子のメソモデルなのかまでは書かれていない。

SCW(SuperCWeather)も同じことを説明ページの冒頭で言っている。「SUPERCWEATHER.COMは気象庁や米国海洋大気局等の気象予測モデルをスーパーコンピュータで計算した予測を提供します」(SCW 説明ページ)。

ヤマテンにいたっては、自社の差別化ポイントとして裏返しに書いている。「多くの予報サイトがコンピュータの予想計算結果から予報を導き出すのに対して、ヤマテンではこれらの予報では表現できない、山特有の気象条件や地形を加味して気象予報士が手作りで作成した予報です」(ヤマテン公式)。他社が同じ計算結果を出発点にしていることを、競合の側から証言している格好になる。

Windyだけは、欧米のモデルを持ち込める。ヨーロッパ中期予報センター(ECMWF)、アメリカ海洋大気庁のGFS、ドイツ気象局のICON。ここが国内勢と系統の違う唯一の入口になる。

ただし話はもう一段ややこしい。Windyは2024年8月から、気象庁のメソモデル(MSM)も載せている。 日本で開いたときの選択肢には、欧米の3モデルとmeteoblueに加えて、この気象庁のMSMが並ぶ。つまりWindyは「欧米側の1票」にも「国内勢と同じ1票」にもなり、どちらになるかは自分がどのモデルを選んでいるかで決まる。

つまり、出発前夜に4つ開いても、独立した情報源は3つしかない。どのサービスがどの柱に乗っているかを並べると、こうなる。

独立した情報源 中身 これに乗っているサービス
① 気象庁の数値予報 全球モデル13km/メソモデル5kmの計算結果 てんくら、SCW、登山天気、山天気ほか国内勢
② 欧米のモデル ECMWF・ICON・GFS・meteoblue(切り替えて見られる) Windy
③ 人の判断 予報士が地形と山特有の条件を読んで手作りする ヤマテン(ただし330山のうち60山だけ)

そして、この3本はどれも簡単に倒れる。

③が倒れる——予報士が読んでいるのは330山のうち60山で、それ以外の山とシーズンはアルゴリズムの計算結果だ。自分の行く山がノーマル予報の側なら、3本目の柱は立っていない。

②が①に合流する——Windyのモデルが気象庁のMSMになっていれば、それは欧米側の票ではなく国内勢と同じ票だ。設定を見ないかぎり、自分がどちらを見ているかは分からない。

両方が起きると、4つ開いて実質1票になる。多数決という言葉が、そもそも成り立たない場面のほうが多い。

てんくら・登山天気・SCWがそろって同じ顔をしていても、それは3票ではない。1つの計算結果を、3通りの見せ方で見ているだけだ。逆にこの3つで印象が食い違うなら、モデルが違うのではなく、丸め方か、見ている高度が違う可能性がまず疑われる。ここを取り違えると、多数決はいつまでも同じ答えしか返さない。

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登山指数は天気ではない:てんくらは3段階、登山天気は5段階に丸める

A・B・Cの定義そのものは、各山のページに載っている。

  • A:登山に適しています
  • B:風または雨が強く、やや登山に適していません
  • C:風または雨が強く、登山に適していません

計算に使うのは「降水量、風速、雲量など」と書いてあるのに、BとCの理由として画面に出る言葉は「風または雨」だけだ。雲量が効いているのかどうか、A・B・Cという1文字からは区別できない。そして気温は、計算に使う要素として名前が挙がっていない。

これは指数の欠陥ではなく、設計だと考えたほうがいい。A/B/Cは「山を楽しめる快適さ」の目安であって、遭難のリスク評価ではない。実際、公式には「登山指数には火山の噴火に関する情報は含まれておりません」ともある。

そして、指数を出しているのはてんくらだけではない。登山天気も、登山の快適度をA〜Eの5段階で出す。同じ気象庁の計算結果を、片や3段階に、片や5段階に丸めている——段階の数さえ各社の設計で、どちらも閾値は公開されていない。逆にヤマテンは指数を出さない。予報は文章で渡し、リスクが大きい日は警戒事項のマークと大荒れ情報を重ねる方式だ。1文字に丸めるか、5段階にするか、文章のまま渡すか。同じ上流から出発して、最後の見せ方だけがこれだけ違う。

「高度3100m付近」は北岳の山頂ではない

もうひとつ、画面をよく見ると気づくことがある。てんくらは登山指数の下に「上空の気温・風」を高度別で並べているが、その高度は山の標高ではない。

北岳(3,193m)のページで表示されるのは、高度4400m付近(600hPa)と高度3100m付近(700hPa)の2段だ。山頂はこの2つの気圧面のあいだにあって、どちらの行にも一致していない。標高2,500m級の山を開くと、段は700hPa(3100m付近)と800hPa(2000m付近)に切り替わる。つまり並んでいるのは、その山を挟む2つの気圧面の値であって、山頂そのものの予測値ではない。

そして各ページの末尾には、こう書いてある。「高度別の値は気象庁が作成した天気予報の基となる数値計算結果です」「天気予報ではありませんので、地形や日射などの影響により山岳では値が大きく異なる場合がありますので十分ご注意ください」。さらに「※1000m以上の地点は、気象業務法により表示内容が異なります」という注記まで添えられている(てんきとくらす 北岳のページ)。

読者が「北岳の風速」だと思って見ている数字は、正確には「北岳の緯度経度に対応する気圧面の、モデルの計算値」だ。運営会社が、自分でそう断っている。

てんくらを読むときに知っておくと効く4つ(すべて公式サイトの記載)
① 計算に使うのは「降水量・風速・雲量など」。閾値の数値は公開されていない
② 週間の登山指数と上空の気温・風は「当日9時に予想される状況」=1日1点の断面
③ 更新は今日明日が1日4回(1・7・13・19時頃)、週間の後半は1日1回(4時頃)
④ 火山の噴火に関する情報は含まれない

②はとくに効く。週間予報のところに並ぶA・B・Cは、その日の9時の状況をもとにした1文字だ。3時に小屋を出て、10時に稜線へ上がり、14時に雷雲に追われる——そういう1日のうち、9時の1点だけを見て「土曜はA」と読んでいることになる。夕方から荒れる日でも、9時が穏やかならAが立つ。

モデルの中の稜線は、実物より低くてなだらか:数値予報が5回まるめられて手元に届くまで

ここまでは「見せ方」の話だった。もう一段下、数値予報そのものの側にも、山では効いてくる性質がある。

気象庁は自前の解説資料で、モデル地形についてこう書いている。全球モデル・メソモデル・局地モデルの地形は、アメリカ地質調査所が作った約1kmメッシュの標高データを平滑化して作っている。実際の地形にはそれより小さいスケールの起伏があり、モデル地形とは「標高も起伏も異なっているために誤差が生じる」。この地形由来の誤差は決まって生じる系統誤差で、ガイダンスと呼ばれる統計的な補正で埋める前提になっている。

平滑化は、尖ったところを削って窪んだところを埋める操作だ。だからモデルの中の山頂は実際より低く、谷は実際より浅くなる。言い換えると、モデルの中に僕らが歩く稜線の細部は無い。あるのは、ならされた山塊だ。

格子の粗さも効く。気象庁は、格子間隔ごとに表現できる現象の大きさを明示している。約13km格子の全球モデル(GSM)で表現できるのは水平規模が100km前後およびそれ以上の現象、5km格子のメソモデル(MSM)で数十km以上、1km格子の局地モデル(LFM)でようやく10kmを下回る規模まで届くが、それでも個々の積乱雲を表現するには不十分だという。稜線1本の幅は、いちばん細かいモデルの格子より小さい。

さらに、地上の気温や風はモデルが直接計算した値そのものではない。気象庁の資料によれば、モデル大気の下層の値から気温減率を仮定したり、地表付近の安定度を考慮したりして、モデル地形の地表に対して算出されている。そして格子点と一致しない任意の地点の値を求めるには内挿が要り、その内挿処理は平滑化の効果を伴う。

実際の稜線から手元の1文字まで、情報は少なくとも5回まるめられている。

実際の稜線からモデル地形・格子の平均値・内挿を経て登山指数A/B/Cになるまでの5段階の図
図:山道具ラボ

この階段を見ると、「予報が外れた」という言い方が少しずれていることがわかる。ならされた地形の上で計算された格子の平均値が、実物の岩稜で起きたことと違っていた——それは外れたというより、最初から別の場所の話をしていたに近い。稜線に立った人間が「予報より風が強い」と感じるのは、多くの場合ごく正常な帰結だ。

だから、稜線で最後に判断するのは自分になる。予報が答えているのは「あすの、この格子の、この高度の平均」であって、目の前の空については何も言っていない。

→ 稜線で目の前の空を読む手がかりを確認する

ヤマテンで予報士が読んでいるのは、330山のうち60山だけ

「割れたら人が読んでいるほうを信じる」というのは、方針としては筋が通っている。ヤマテンは山岳気象に専門特化した気象会社で、月額550円(税込)、初回は登録日を含む7日間が無料だ。10日先までの専門天気図が6種類、時間送りで見られる。専用アプリは無く、スマホでもタブレットでもPCでもブラウザから開く(山行中向けの「登山中モード」がある)。

ただ、契約すれば全部の山に予報士のコメントが付くわけではない。ヤマテンの予報は2階建てになっている。

区分 対象 作り方(公式の説明)
スペシャル予報 主要60山 気象予報士が山特有の気象条件や地形を検証し、手作りで作成。解説の文章が付く
ノーマル予報 残りの山(合計330山) ヤマテンが独自に開発した山岳気象計算式に基づくアルゴリズム予報

ノーマル予報も無価値ではない。山向けに作られた計算式が入っている点で、汎用の地点予報とは違う。それでも「人が読んでいる」かどうかは別問題で、自分が見ている山がどちらなのかを知らないまま「ヤマテンがそう言うなら」と判断するのは、判断の根拠を取り違えている。

もうひとつ、対応表を読むと季節で入れ替わる山があることに気づく。利尻山や飯豊山、燧ヶ岳、至仏山などは4〜11月がスペシャルで、12〜3月はノーマルに落ちる。逆に蔵王山、那須岳、浅間山(黒斑山)、御在所岳などは、4〜11月がノーマルで12〜3月にスペシャルへ上がる。冬に人が入る山と、夏に人が入る山で、予報士の手を掛ける先を切り替えているということだ。自分の行く山が、行く季節にどちら側なのかは確認しておいたほうがいい。

なお北岳は通年でスペシャル予報の対象に入っている。南アルプスの主稜線のほとんどがそうだ。

登山天気は「山頂・登山道・麓」を分けて出す:同じ気象庁データを、地点の細かさで割る

日本気象協会の「tenki.jp 登山天気」は、国内勢のなかでは地点の刻み方がいちばん細かい。日本三百名山を対象に、山頂・登山道・麓の3つを別々に表示する。同じ山でも麓は雨、稜線は雪、ということが起きるので、この分け方は実用に効く。10日先までの予報、2日先までは3時間ごと、雷の危険度や高層天気図も見られる。快適度をA〜Eの5段階で出す指数もある。有料アプリで、プランは2段階。ライトプランが月額¥240、プレミアプランが月額¥550(年払いなら¥4,980)だ(tenki.jp 登山天気・2026-08-25時点)。

ただし上流は変わらない。日本気象協会も気象庁の数値予報を基礎資料として使う事業者で、独立した観測網とスーパーコンピュータで別の計算をしているわけではない。てんくらとSCWと登山天気を3つ開いても、票は1つだと考えたほうがいい。違うのは、その1つをどこまで細かい地点に落として、どう見せるかだ。

そのぶん、この3つの食い違いは読み方の手がかりになる。同じ気象庁の計算から出ているのに麓と山頂で絵が違うなら、それはモデルの違いではなく高度の違いを見ている。逆に3つとも同じ顔なら、それは3票そろったのではなく、1票を3通りの見せ方で見ているだけになる。

なお、地域単位の気象予報士による解説も付く。ヤマテンのように山ごとに読み込んだものではないが、「人の判断」が一切入っていないわけではない、という位置づけになる。

Windyで見ているのが気象庁とは限らないし、気象庁のこともある|モデル切り替えの落とし穴

Windyは見た目がいちばん専門的だ。風が流線で流れ、雨雲が動き、モデルを切り替えられる。そしてこの「切り替えられる」が、この記事の話といちばん深く関わってくる。

日本でWindyを開くと、選べるモデルは5つある。

モデル 出しているところ 目の細かさ 日本の山でどう効くか
MSM 気象庁 約5km(日本周辺のみ) いちばん細かい。ただしてんくら・SCW・登山天気と同じ計算結果
ECMWF ヨーロッパ中期予報センター 約9km 国内勢と独立した1票になる。欧米系ではいちばん細かい
ICON ドイツ気象局 約13km 同じく独立した1票。ECMWFと突き合わせる相手として使う
GFS アメリカ海洋大気庁 約22km いちばん粗い。稜線の風の細部は期待しない
meteoblue(画面の表示は mBlue) スイスの民間気象会社 上のモデル群を独自に加工したもの。もう1つの見え方として

いちばん大事なのは1行目だ。Windyは2024年8月から気象庁のMSMを載せている。 つまり、モデルをMSMにしたままWindyを開いているとき、見ているのはてんくらやSCWや登山天気と同じ気象庁の計算結果になる。画面の見た目はまったく違うが、元データは1つだ。

これが、最初の章で数えた「票が減っていく」仕組みのWindy側だ。国内勢が同じ上流を共有しているだけでなく、唯一の別系統だったWindyまで、設定次第で同じ上流に合流してしまう。

Windyを「独立した1票」として使うために
① 左下のモデル名をタップして、いま何を見ているか確かめる
② MSMのままなら、それは国内サービスと同じ票。ECMWFへ切り替える
③ ECMWFとICONを見比べる。2つが同じ絵なら大外れの確率は下がる
④ 2つが割れているなら、その日はどの予報も信用しすぎない

細かさで言えば、MSMの5kmが最も細かく、次がECMWFの9km、ICONが13km、GFSが22kmと続く。ただし細かさと当たりやすさは同じものではない。細かいモデルは短い時間の雨に強く、長い先の大きな流れは全球モデルのほうが得意、という住み分けがある。

更新の回数にも差がある。ECMWFは1日4回走っているが、Windyの無料版で見られるのはそのうち2回分で、4回すべてを取るにはPremiumが要る。出発直前に開いた画面が、半日前の計算結果ということが起こりうる。

まとめると、Windyの価値は解像度ではなくモデルを並べて食い違いを見られることにある。同じECMWFなのにサイトやアプリで値が違う、という質問への回答がWindyのコミュニティにもあって、解像度・更新回数・どの初期時刻の計算かで結果は変わると説明されている。数字を1つ持ち帰る道具ではなく、割れているかどうかを確かめる道具だと思っておくと使い方を間違えない。

SCWは丸める手前を見せる:5kmメッシュを、補正しないまま並べる

SCWは、気象庁の数値予報を地図の上にそのまま描く。詳細予報は5kmメッシュで1時間ごと・39時間先まで、広域予報は20kmメッシュで264時間(11日)先まで。詳細予報の更新は1日8回(2:30、5:30、8:30、11:30、14:30、17:30、20:30、23:30)で、広域予報は1日1回(4:00)だ。5km・39時間という刻みは、気象庁メソモデルの仕様(5km格子・39時間予報)とそのまま重なる。

おもしろいのは、SCWが自分の限界を利用上の注意として先に明記していることだ。

SCW の説明ページは、自分が並べているのは数値予報であって天気予報ではない、と断っている。予報モデルには特性による系統誤差が含まれるので本来は補正とマージンの上乗せが要る、それができない人は気象予報士が補正して作った天気予報のほうを使ってほしい、と。

丸めていない数字を見せる側が、丸めていないことの危うさを自分で書いている。これは弱点の告白であると同時に、SCWがどのポジションにいるかの宣言でもある。丸める手前を見せる代わりに、丸める作業は読み手に渡す。前の章で見た「モデル地形の系統誤差はガイダンスで補正する前提」という気象庁の説明と、まっすぐ噛み合っている。

裏を返せば、SCWを開いたときに読み手がやるべき仕事は増える。雨量の色が稜線に乗っているかどうか、風の場が山越えでどう変わっているか、それを自分で読む。時間はかかるが、A/B/Cの1文字に比べれば、落ちている情報は圧倒的に少ない。

割れた日の順番:多数決をやめて、丸めの少ない側から戻る4ステップ

ここまでの材料をまとめると、予報が割れた夜にやることは「票を数える」ではなく「どこで丸められたかを遡る」になる。

割れたときの4ステップ
① 何が割れているかを特定する。風か、雨か、時間帯か。「AとC」ではなく「午後の風速が7m/sと18m/sで割れている」まで下ろす
② 丸める手前に戻る。SCWで5kmメッシュの雨量と風を、Windyで別系統のモデルを見て、食い違いが天気の不確実性なのか見せ方の差なのかを分ける
③ 人の判断があるか確認する。その山が、その季節に、ヤマテンのスペシャル予報の対象かどうかを見る
④ A/B/Cは最後に見る。①〜③で組み立てた見立てと合っているかの答え合わせに使い、出発点にはしない

そして、A/B/Cについてはもう一つ言い添えておきたい。「Cだから行かない」は安全側に倒れるからまだいい。危ないのは「Aだから行く」のほうだ。Aが見ているのは降水量・風速・雲量であって、雷も、視界も、雪面の硬さも、噴火も入っていない。夏の午後雷はAの日にも育つし、残雪期の凍結もAの朝に起きる。指数は「快適さ」の目安だと公式が書いているとおりに読むしかない。

→ 午後の雷をどこで切り上げ、どこへ逃げるかの基準を読む

もう一つ、割れているのが「風雨の強さ」ではなく「いつまで続くか」の場合は、比べるものが変わる。台風なのか前線なのかで、待つことの意味が正反対になるからだ。

→ 待てば好転するかで撤退を分ける考え方を読む

あのとき「1票」だと思っていたものが、独立した反対意見ではなく同じ元データを1文字に丸めたものだったと知っていたら、判断は違っていたはずだ。

5サービスの立ち位置:元データ・格子・丸め方・向く場面

5つを1枚に並べておく。優劣ではなく、丸めの階段のどこに立っているかの表だ。ついでに「入り口」も入れた。アプリだけのもの、ブラウザだけのものが混ざっていて、ヤマテンは専用アプリを持たずブラウザで開く。登山天気は逆にストアからしか入れない。

サービス 元データ 見せ方と丸め 入り口 更新 向く場面
てんくら 気象庁の数値計算結果(公式明記) 降水量・風速・雲量をA/B/Cの1文字へ。閾値は非公開。高度別は気圧面の値 ウェブ+アプリ(WEB起動型) 今日明日は1日4回/週間後半は1日1回 候補日を粗くふるいにかける
登山天気(tenki.jp) 気象庁の数値計算結果(日本気象協会が加工) 山頂・登山道・麓の3地点+A〜Eの5段階指数。10日先まで、2日先は3時間ごと アプリのみ(有料) 公式に明示なし 同じ山の高度差を分けて見る
ヤマテン 数値予報+気象予報士の判断(主要60山) 文章。残りの山はアルゴリズムのノーマル予報 ウェブのみ(登山中モードあり) 公式に明示なし 主要山域で判断がシビアな日
Windy ECMWF・ICON・GFS・meteoblue+気象庁MSM 面表示。MSMなら5km、欧米系はECMWFの9kmが最小 ウェブ+アプリ ECMWFは無料2回/Premium4回 モデル間の食い違いを見る(MSMのままだと国内勢と同じ票)
SCW 気象庁・米国海洋大気局のモデル 面表示。詳細5kmメッシュ/広域20kmメッシュ。補正なし ウェブのみ 詳細1日8回/広域1日1回 丸める手前を自分で読む

予報が届かない場所で判断を継ぎ足す:風速計・気圧計・ラジオという継ぎ手

ここからは、出発したあとの話になる。予報は出発前に固定されるが、山は動き続ける。

ただし先に言っておくと、ここから出てくる道具は全部そろえるものではない。 要る人が多い順に並べる。上の2つはほとんどの人に効いて、下へ行くほど「そこまでやる人はやる」の領域になる。自分がどこで止めるかを決めながら読んでほしい。

「強い風」を自分の目盛りに翻訳しておく

てんくらがBやCを出す根拠は風だ。ところが、山で「今日は風が強い」と感じたその風が何m/sだったのかを、実際に測ったことのある人は少ない。目盛りが無いまま、予報の数字と体感を突き合わせている状態になる。

基準は気象庁が公表している(風の強さと吹き方)。

平均風速 気象庁の説明 稜線での意味
10〜15m/s 風に向かって歩きにくくなる。傘がさせない 歩けるが体力を削られる。てんくらがBを出しはじめる帯
15〜20m/s 風に向かって歩けなくなり、転倒する人も出る。高所での作業はきわめて危険 まっすぐ歩けない。ザックが帆になる
20〜25m/s 何かにつかまっていないと立っていられない 行動そのものが成立しない

ただしこの表は地上の観測を前提にした目安で、地形で風が集まる稜線やコルでは、同じ気圧配置でももっと強く吹くことがある。

この3行を覚えておくだけで、予報の「風速15m/s」が自分の体で何を意味するかが決まる。ここまでで足りる人がほとんどだと思う。

そのうえで、一度だけ実測して体感と突き合わせておくと対応表が自分のものになる。シンワ測定の79003はベーン式(羽根車の回転数で測る方式)で0.01m/s刻み、風力階級も同時に出る。毎回持ち歩く道具ではなく、目盛りの校正を一度やるための道具だ。

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気圧の「推移」だけは、電波が無くても取れる

山にいるあいだ、外から新しい予報が入ってこなくても、自分で観測できる量がひとつある。気圧だ。同じ場所に留まっているのに気圧が下がり続けているなら、動いているのは自分ではなく気圧配置のほうになる。

知りたいのは絶対値ではなく傾きなので、履歴が残る道具が効く。カシオのプロトレックPRG-340-3JFは過去42時間の気圧傾向をグラフで保持し、変化が大きいときには表示と音で知らせる仕様になっている。42時間あれば、前夜のテント場から翌朝の稜線までが1枚に収まる。54gでタフソーラー、地図もGPSも積んでいないぶん電池を気にしなくていい。すでに気圧計付きのGPSウォッチを使っているなら、買い足す話ではなく手首の機能を思い出す話になる。

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電波が届く場所で「取り直す」ための電源

てんくらの更新は1日4回、SCWの詳細予報は1日8回。行動中に電波が拾えるなら、朝の画面より新しいものが出ている可能性が高い。とくに午後の雷は、朝の計算に入っていなかった育ち方をすることがある。

問題は電源で、寒い時期はここが最初に落ちる。リチウムイオン電池は冷えると内部抵抗が上がり、残量表示と関係なく出力が絞られる。予報を取り直したいときに限ってスマホが落ちる、というのは電池化学としては正常な挙動だ。

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→ 氷点下でモバイルバッテリーが落ちる仕組みと運用を読む

ここから先はやる人だけ|圏外でラジオの気象通報から天気図を描く

先に正直に書くと、これは万人向けの手段ではない。 20分の放送を聞きながら等圧線を手で引く作業で、慣れも時間も要る。日帰りや小屋泊で必要になることはまず無い。

それでも残しておくのは、電波の無い縦走の3日目に「外から届く新しい情報」がこれしか無くなる場面があるからだ。ラジオの気象通報は各地の天気と船舶からの報告を20分かけて読み上げる番組で、聞きながら用紙に書き込むと、その時刻の地上天気図が手元にできる。電池はスマホより桁違いに持つ(ソニーのICF-T46は69g・単4形2本)。

2026年3月30日のNHKラジオ波の再編で、長らくラジオ第2の16時にあった気象通報はNHK AMへ移り、平日15時45分から、土日祝は17時5分からの20分間になっている(スポーツ中継などで変更あり)。

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書き込む先は専用の用紙がある。等圧線を引くための緯度経度の枠と、天気記号の凡例が刷ってあるもので、家で1枚練習してから持っていくと現地で詰まらない。

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気象通報の書き取り用・天気記号の凡例つき|50枚綴り ・ ¥980(2026-08-23時点)

落とし穴のほうから学ぶ

最後に本を1冊。ヤマテンを率いる猪熊隆之が書いた新書で、タイトルからして気象情報の落とし穴を扱っている。予報の作り方を解説する本は多いが、これは「なぜ手元の予報がそう見えるのか」の側から入る。この記事で追いかけた話を、予報を作る側の言葉でもう一段深く読める。

ヤマケイ新書 山の天気にだまされるな! 気象情報の落とし穴を知ってますか?
ヤマケイ新書 山の天気にだまされるな! 気象情報の落とし穴を知ってますか?
猪熊隆之(山と溪谷社・2016年11月)|新書判240ページ ・ ¥880(2026-08-23時点)

まとめ:A/B/Cの1文字を、丸める前の風速と雨量に戻して読む

予報が割れた夜に必要なのは、信じるサービスを1つ決めることではない。どの数字が、どこで、何回まるめられたものかを知って、割れている場所まで戻ることだ。

同じ気象庁の数値予報が、平滑化された地形の上で、5kmや13kmの格子の平均として計算され、地点へ内挿され、最後に降水量・風速・雲量を束ねた1文字になる。この階段のいちばん下だけを見て、上の4段で何が落ちたかを知らないまま多数決をすると、票を数えているつもりで同じ計算結果を何度も数えることになる。

やることは単純だ。A/B/Cを見たら、その根拠になっている風速と雨量まで一度戻す。戻した先で他のサービスとまだ食い違っているなら、それは本物の不確実性だから、行程を短くするか、日を変える。戻した先で一致しているなら、割れて見えていたのは丸め方の差でしかなかったということになる。

丸めた1文字は、決めるための道具ではなく、決めたあとの確認に使う。それだけで、出発前夜に「見たいものを見る」余地はかなり狭くなる。

山で出会うものの名前を覚えたくて、写真クイズのiPhoneアプリを3本つくりました