- 結論:山で効くかは「風量」でなく「吸気口がハーネスの外にあるか」で決まる
- 風を作る部品は各社ほぼ共通|モンベルもバートルも京セラ製デバイスを積んでいる
- 服の中で風はどこへ抜けるか|裾ゴム・襟・脇と、ザックの4本のベルト
- 効く条件と効かない条件|汗が出ない側にも、出すぎる側にも限界がある
- 電源が装備の本体|専用バッテリー343gとモバイルバッテリー兼用165gの差
- 4系統を並べる|モンベル・バートル・ワークマン・サンエスの重量と値段
- 山行別の落としどころ5パターン|低山日帰り・小屋泊縦走・テント泊は持たない・お試し・パネルで済ます
- 安全と法律の話|リチウムイオンバッテリーを山に持ち込む前に
- まとめ:買う前に、自分のザックのベルトの位置を見る
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夏の樹林帯を1時間登って、シャツが背中に貼り付いたまま稜線まで乾かない。あの状態を機械で壊せるなら、¥3万は高くない。
モンベルの公式オンラインストアで「ファンブロー ライトベスト」の内側の写真を開くと、バッテリーポケットに収まった黒い箱に、見覚えのあるロゴが入っている。作業服ブランドのバートルのロゴだ(2026年8月時点の掲載写真)。家電Watchのレビューも、ファンブローのファンとバッテリーを京セラインダストリアルツールズ製だと書いている。そしてバートルのエアークラフトも、ファンとバッテリーは京セラ製であることを販売各社が明記している。京セラインダストリアルツールズは京セラのグループ会社だ。
風を作る部品は、登山ブランドと作業服ブランドで共通らしい。だとすると、モンベルの90L/秒よりバートルの120L/秒のほうが涼しい——という比べ方は、出発点から怪しくなる。同じ工場で作られたモーターの回転数を比べても、その風が自分の背中に届くかどうかは分からないからだ。
山で効くかどうかを分けているのは、風量の数字ではない。服の中に入った空気が、どこを通ってどこから抜けるかのほうだ。そしてその通り道の上に、ザックのショルダーベルト・チェストベルト・ヒップベルト・背面パネルが、四方から乗ってくる。
なお「空調服」は株式会社セフト研究所と株式会社空調服の登録商標(登録第6072017号ほか)で、権利者は他社製品を指すときには「ファン付きウェア」と書くよう呼びかけている。この記事も以下その表記で通す。
ここで挙げる4ブランドのウェアは、どれも僕の手元にない。重量・風量・価格は各社の公表値と流通の実売値で、風の通り道の話は仕様と製品写真から読んだものだ。
結論:山で効くかは「風量」でなく「吸気口がハーネスの外にあるか」で決まる
先に判断の骨格だけ置く。ファン付きウェアを山で使うとき、効き目を決める順番はこうだ。
- 吸気口(ファン)が、ザックの背面パネルとヒップベルトの外にあるか
- 排気口(襟・脇・袖)が、ショルダーベルトとチェストベルトで潰れないか
- その上ではじめて、風量とバッテリーの持ちが効いてくる
1と2が崩れていると、3をいくら盛っても服の中の空気は動かない。作業現場ではこの1と2が問題にならない。工事現場でザックは背負わないからだ。だから作業服系の標準設計(腰の背面にファン2基、裾はゴムで閉じる)は、山に持ち込んだ瞬間に前提が外れる。
この軸で見ると、選択肢は次のように並ぶ。
| 重視する軸 | 1番手 | 2番手 |
|---|---|---|
| ザックを背負ったまま効かせたい | モンベル ファンブロー(左右非対称配置) | バートル サイドファン系(AC2094 など) |
| とにかく軽く済ませたい | サンエス RD9001S(デバイス355g) | ワークマン エントリーセット(デバイス403g) |
| まず安く試したい | ワークマン ウィンドコアエントリーセットベスト(¥9,800) | サンエス デバイス+作業服ベスト(約¥1万) |
| 風量の絶対値がほしい | バートル AC10+AC10-2(30V・120L/秒。単位まで公表) | ワークマン 30Vセット(最大150L・単位非公表で横比較不可) |
| 電源を1個にまとめたい | サンエス RD9641(PD対応・165g) | ワークマン エントリーセット(10,000mAh) |
この行はデバイス(ファン+バッテリー)だけの比較だ。作業服系は服単体の重量を公表していないので、服を含めた総重量では並べられない。モンベルのデバイスは560gで、ライトベストの147gを足すと707gになる。風量の行も、単位まで公表されている製品だけを並べている。
モンベル ファンブローそのものが山で効く条件(湿度・標高・汗冷え)は別の記事で細かく詰めた。単体で買うかどうかを迷っている段階なら、まずそちらを読んでからここへ戻ってきてほしい。
風を作る部品は各社ほぼ共通|モンベルもバートルも京セラ製デバイスを積んでいる
冒頭の話に戻る。ファン付きウェアは「ウェア」と「デバイス(ファン+バッテリー)」の二階建てで、後者はウェアメーカーが自分で作っているわけではない。
家電Watchのレビューは、モンベル ファンブローのファンとバッテリーを京セラインダストリアルツールズ製と書いている。バートルのエアークラフトについても、販売各社がファン・バッテリーは京セラ製だと明記する。決定的なのはモンベル自身の商品写真で、ライトベストの内側カットに写り込んでいるバッテリーには BURTLE のロゴが入ったままだ。さらに市場にはモンベル ファンブロー 19Vファンとバートル AC370・AC371 の両対応をうたうと両方の型番を並べた変換ケーブルが流通している。モンベルは製造元を公表していないが、外から見える手がかりはひととおり同じ方向を指している。
これは悪い話ではない。むしろ、部品の素性が同じなら比較の焦点はウェア側に絞れるということだ。ついでに、各社が誇る風量の数字も少し冷めた目で見られるようになる。
| デバイス | 最大電圧と風量 | 段を落としたとき | 重量 |
|---|---|---|---|
| モンベル ファンブロー システム | 19V/90L/秒 | 13V:66・9V:47・6V:32L/秒 | ファン217g+電池343g=560g |
| バートル AC10+AC10-2 | 30V/120L/秒 | 23V:91・16V:62・9V:38L/秒 | ファン223g+電池405g=628g |
| ワークマン 30Vセット(WZ4690) | 25V・18V・16Vの4段 | 約378g(公称・セット) | |
| ワークマン エントリーセット付属 | 9.0V(風量非公表) | 7.5V・6.0V | ファン158g+電池245g=403g |
| サンエス RD9001S | HIGH/53L/秒 | MIDDLE:46・LOW:31L/秒 | ファン190g+電池165g=355g |
この「L/秒」を横に並べて優劣をつける根拠は、実のところない。少なくとも各社の製品ページには、測定条件が書かれていないからだ。何もかぶせないファン単体で吐かせた値なのか、ウェアに取り付けた状態なのか、静圧がかかった状態なのか。それが分からないまま数字だけ並べても、比べているものが同じだという保証がない。ましてザックを背負えば服の中の圧力条件は変わる。カタログの大きい数字に飛びつくのは、この分野でも同じように危ない。
言えるのは相対的なことだけだ。9V級(ワークマンのエントリー、サンエスのHIGH)と、19V〜30V級(モンベル、バートル、ワークマンの上位)では、公称値が2倍以上ひらく。ここは体感の差として出てもおかしくない。だが19Vと30Vのあいだの差は、山では別の要因に埋もれる可能性が高い。次の章がその「別の要因」だ。
服の中で風はどこへ抜けるか|裾ゴム・襟・脇と、ザックの4本のベルト
涼しさの正体は、風そのものではない。株式会社空調服は自社の技術を「生理クーラー」と呼び、汗が蒸発するときの気化熱で体温を下げる仕組みだと説明している。ファンは冷たい風を作らない。ただの外気を大量に流し込んで、肌の上で止まりかけた汗の蒸発を強制的に動かすだけだ。
だから設計上、この服は空気を漏らさない必要がある。同社の解説によれば、裾のゴムで空気の逃げ道を塞ぎ、襟と袖から抜けるように流れを作る。生地も「風を通しにくい高密度織物」であることが条件になる。通気性のいい生地では服が膨らまず、風が肌の上を舐めずに素通りしてしまう。
ここが山では厄介な二段構えの罠になる。ひとつめ。ファンを止めた瞬間、この服は風を通しにくい一枚に戻る。モンベルのファンブローも70デニールまたは40デニールのはっ水ナイロンタフタで、通気を売りにした生地ではない。稜線でファンを切る、あるいはバッテリーが切れる。そのとき胴体を包んでいるのは、汗の蒸散を助けない一枚だ。ファン付きウェアは「電源が入っている前提の服」であって、行動着として着っぱなしにできる保温着やウィンドシェルとは性格が違う。
ふたつめが本題だ。空気の入口と出口が、ザックのハーネスとまともに衝突する。
作業服系の標準配置は、腰の背面左右にファン2基。ここはザックのヒップベルトが乗る場所とほぼ重なる。そしてヒップベルトは緩められない。登山ザックは荷重の大半(一般に8割程度と言われる)を腰で受ける前提で設計されていて、山と溪谷オンラインの解説も、ザックが動かない程度にしっかり締めることを前提に調整手順を書いている。そしてヒップベルトは、ファンの都合で緩められる部品ではない。山と溪谷オンラインの解説は「強く締めすぎると体を圧迫したりスレたりする」と釘を刺したうえで、それでも「ザックがブレない程度に」締めることを求めている。締めすぎも緩めすぎも駄目で、ちょうどいい範囲は狭い。その範囲の中に、ファンを逃がす余白はない。緩めれば、腰で受けなかったぶんの荷重はそのまま肩に集まる。
出口も塞がれる。OUTDOOR GEARZINE はファンブロー ライトベストの実地テストで、風は脇と首元から抜けていくと書いたうえで、こう指摘している。チェストベルトやウエストベルトを使うと送風されるスペースが遮られ、効果は半減する、と。これは山向けに設計されたウェアの話だ。裾ゴムで空気を溜めてから襟と袖へ押し出す作業服型なら、影響はもっと素直に出る。
だからウェア側の勝負どころは、ファンの位置がハーネスを避けているかどうかになる。
| ブランド | ファンの取付位置 | ザックとの関係 |
|---|---|---|
| モンベル ファンブロー | 左右非対称。公式は「左側のファンは背中側、右側のファンは体の前面と、異なる方向に風を生み」(モンベル 公式)と説明する。穴自体はどちらも背面パネルの脇・腰寄りで、前面には付いていない。排気は襟の後ろ・脇・袖から | 「小型のバックパックを背負った時に、空気の流れを妨げにくい位置」(モンベル 公式)と公式が明言。この構造は特許申請中とされる |
| バートル サイドファン系(AC2094 など) | 両脇から後方へ寄せ、背面の出っ張りをなくした。ハイバック仕様(HB)はさらに高い位置 | もともとはフルハーネス・車のシート・工具ベルトとの干渉を避ける構造。ザックとの相性はその副産物 |
| 作業服系の標準ブルゾン・ベスト | 腰背面にファン、裾はゴムで絞る | 併用は想定外。ヒップベルトがファンの真上に乗る |
ここでもうひとつ、身も蓋もない話をしておく。ファン付きウェアは服の中に空気の層を作るために、普段よりワンサイズ上を選ぶのが定石とされている。作業服系の解説記事も、男性はふだんLならXLを、と書く。ところがザックを背負うなら、その膨らんだ生地の上からショルダーハーネスを密着させることになる。膨らませたい服と、密着させたいハーネス。両立しない要求を同時に着ているのが、山でファン付きウェアを使うという状態だ。ベスト型が山で支持されるのは、袖という余分な風路と余分なだぶつきを最初から切ってあるからでもある。
なお、背中の蒸れだけが目的なら、ファンを回さずに空気の層を作る手もある。後付けのバックパネルは75g〜300gで、電源も充電もいらない。ファンに進む前に、まずこちらを試す順番のほうが堅い。
効く条件と効かない条件|汗が出ない側にも、出すぎる側にも限界がある
冷却の正体が汗の蒸発である以上、この道具には両側に限界がある。ここを理解しないまま買うと、「思ったより涼しくない」の理由が分からないまま終わる。
下側の限界は、汗が出ていないときだ。蒸発する水がなければ気化熱は発生しない。標高を上げれば気温は1,000mでおよそ6℃下がり、稜線に出て風が当たれば汗はすぐ引く。その状態でファンを回し続けても、冷却装置としては仕事をしていない。それどころか、湿ったシャツに外気を送り続ければ体の芯から熱を奪いにかかる。ファン付きウェアを山で使う運用は結局、汗が引いたら止める、の一行に集約される。
上側の限界は、汗が出すぎるときだ。体温調節に効いているのは蒸発した汗(有効発汗)だけで、肌を伝って滴り落ちる汗は熱を持っていってくれない。丹羽と中山が体力科学(1978年)に報告した実験では、気温を26℃に固定して湿度だけ変えると、総発汗量は湿度が高いほど増えるのに、蒸発した有効汗量は逆に減った。しかもこの乖離は、最大酸素摂取量の60〜70%という高い運動強度でとくにはっきり出ている。夏の樹林帯の急登は、まさにその強度と湿度の組み合わせだ。汗の量が増えても、そのほとんどが蒸発せずに滴るだけになる。
ファンはこの「蒸発しない汗」を蒸発側へ押し戻す装置だが、押し戻せる量には上限がある。「気温◯℃・湿度◯%までなら効く」という線を引きたくなるが、その線を裏づける一次資料は無い。確かなのは向きだけだ。湿度が上がるほど、かいた汗のうち蒸発してくれる分は減る。日本の夏の樹林帯は、その悪い側に振り切れている。
裏を返せば、効くのは「汗をかき続けていて、かつ乾かせる余地がある」帯だ。梅雨明けの低山、風の通る尾根の手前、日射の強い林道歩き。この帯は狭くはないが、山全体を覆う広さでもない。汗そのものの扱いを設計し直すほうが効く場面も多い。
電源が装備の本体|専用バッテリー343gとモバイルバッテリー兼用165gの差
重量の話をすると、たいていウェア本体のグラム数から始まる。だがファン付きウェアで一番重いのは電池だ。そしてここには、山で効いてくる差が二つある。
ひとつは表記の稼働時間の読み方。モンベルの取扱説明書によれば、19Vバッテリーの容量は3,350mAh/18V=60.3Whで、19Vで使うと1時間で自動的に13Vへ落ち、そこから約5時間。合計6時間だが、最大風量が6時間続くわけではない。バートルの30Vも同じ構造で、30Vは1時間、その後23Vで約5時間、平均77L/秒。「最大風量◯時間」ではなく「最大は1時間だけ」と読み替える必要がある。
電力量から逆算すると納得がいく。モンベルは60.3Whで合計6時間だから平均およそ10W。バートルは80.64Whで6時間、およそ13W。ワークマンのエントリーセットは10,000mAh(3.7V換算でおよそ37Wh)で9.0V時に約4時間、およそ9W。サンエスのHIGHは同じく約37Whで3.5時間、およそ11W。桁の話として読んでほしいが、ファン2基を回すのに要る電力は、どの系統もおおむね10W前後に収まる。つまり持ち時間はバッテリーのWhでほぼ決まる。風量の段を落とすというのは、この10Wを削る操作だ。
もうひとつが、山ではこちらのほうが大きい。その電池は、ほかのものを充電できるか。
| バッテリー | 容量 | 重量 | Wh/g(概算) | 他機器への給電 |
|---|---|---|---|---|
| モンベル 19V | 3,350mAh/60.3Wh | 343g | 0.18 | 不可(専用出力) |
| バートル AC10(30V) | 5,600mAh/80.64Wh | 405g | 0.20 | 不可(USB非対応) |
| ワークマン エントリー付属 | 10,000mAh/約37Wh | 245g | 0.15 | 可(モバイルバッテリー) |
| サンエス RD9641 | 10,000mAh/約37Wh | 165g | 0.22 | 可(Type-A/Type-C・PD対応) |
※Whは公称値または3.7V換算の概算。表記の桁が各社で揃っていないので、横比較は目安として見てほしい。
登山者はすでにモバイルバッテリーを1個担いでいる。専用出力のモンベルやバートルを選ぶと、それは丸ごと追加の343g・405gになる。一方でサンエスの構成なら、電池は165gで、スマートフォンもヘッドランプも充電できる。すでに持っている1個を大きくして共用する、という発想が取れる。代わりに出力が低いので風量はHIGHで53L/秒どまり。ここは素直なトレードオフだ。
4系統を並べる|モンベル・バートル・ワークマン・サンエスの重量と値段
ここから個別に見る。並びは、山向けに設計されたモンベルを基準に置いてから、作業服系をデバイスの軽い順(サンエス355g → ワークマン403g → バートル628g)に並べた。作業服系は服単体の重量が公表されていないので、以下の数字はデバイスだけのものだ。
モンベル ファンブロー ライトベスト|147gの服に、560gの電装を足す
40デニールのナイロンタフタで147g。ベスト本体だけならウィンドシェルより軽い。裾はゴムで絞って空気の流出を防ぎ、ファン取付穴(径90mm)は左右非対称。OUTDOOR GEARZINE の実地テスト(レビュー)は、もっとも快適で実用的な風量は2段目の9V(47L/秒)だと評価している。モンベル公式はこの段の連続稼働時間を約13時間としている。日帰りなら、最大風量ではなくこの段でまる一日回す前提で電池を考えていい。同レビューはファンがバックパックと干渉しないぎりぎりの位置に置かれている点を評価しつつ、横幅のあるザックは購入前に確認したほうがいいとも書いている。
弱点も同じレビューが正直だ。デバイス560gの重さ、ベルト類を使うと効果が半減すること、専用バッテリーで他のデバイスを充電できないこと、そして長期縦走には向かないこと。日帰りの軽装備という土俵の中では、いまのところ完成度が高い。
モンベル ファンブロー ベスト|70デニールの標準型、公称237g
同じシリーズの標準版。生地が70デニールのフルダル・スパンライク・ナイロン・タッサーになり、公称の平均重量は237g。ライトベストとの差は90gで、そのぶん摩耗と引き裂きに強い。藪や岩に触れる行程を含むなら、こちらを選ぶ理由がある。襟の内側に保冷剤用のポケット、ジッパー付きポケット3個。
デバイスを合わせた総重量は797g。フルセットの実売はおよそ¥32,900になる。この金額と重さを「背中を涼しくするため」に払う判断が妥当かどうかは、行く山で変わる。
サンエス RD9001S|デバイス355g、電池はPD対応のモバイルバッテリー
サンエスの入門デバイス。ファンは1個約95g・厚さ約36mmのスリム型で、バッテリーは165gの10,000mAhモバイルバッテリー。Type-AとType-Cの出力を持ち、USB PD(機器に合わせて電圧を上げる急速充電の規格)に対応する。風量はHIGH 53L/秒で約3.5時間、MIDDLE 46L/秒で約5時間、LOW 31L/秒で約10時間。
風量の絶対値では19V級・30V級に届かない。だがデバイス355gという数字と、その電池がスマートフォンにも使えるという事実は、山では別の重みを持つ。装備表の「モバイルバッテリー」の欄をこれに置き換えられるなら、デバイス側で増える重さはファンの190gだけになる。ただしベスト本体の重さは各社とも非公表で、ここに1枚ぶん(実勢で300〜400g級)が別に乗る。それでもモンベルのフルセット707gと比べれば、電源を共用できるぶんの差は残る。「軽さと快適さのあいだ」を探すなら、この構成が一番効率のいい入口になりうる。
こんな人は避ける:最大風量で押し切りたい人、真夏の低山で本気の冷却を求める人。HIGHでも53L/秒は、30V級の半分以下だ。
ワークマン ウィンドコアエントリーセットベスト|¥9,800で全部そろう
ベスト、ファン2個、モバイルバッテリー(10,000mAh)まで入って¥9,800。本体はナイロン100%、メッシュ部はポリエステル100%で、襟元と脇に風量調整の開口がある。出力は9.0V/7.5V/6.0Vの3段で、稼働時間はそれぞれ約4時間・約6時間・約9.5時間。
「1/3の値段で足りるのか」への答えは、条件つきで是だ。デバイスが9V止まりなので、19V級・30V級の風量は出ない。だがここで思い出したいのが、OUTDOOR GEARZINE がモンベル ファンブローで「もっとも快適で実用的」と評価したのも、第二段階の9V(47L/秒)だったという点だ。19Vのバッテリーを積んだ山向けウェアでも、実際に多く使われる帯は下の段に落ちる。ワークマンのエントリーセットの上限も同じ9.0Vだが、こちらは風量を公表していないし、ファンもモンベルとは別物(158g/2個 対 217g/2個)だ。だから「同じ9Vだから同じだけ吹く」とは言えない。言えるのは、山で使う帯が上限まで回し続ける帯ではない、というところまでだ。冷却の主役は気化熱であって送風量そのものではないから、汗が乾く条件が整っている場面(風のある尾根、日射の強い林道、湿度の落ちた朝)なら、9Vでも汗の乾きは変わる。そして電池がモバイルバッテリーなので、行動が終われば普通の充電器として残る。
ただし三つ。ファンは腰の背面配置で、ザックのヒップベルトと正面衝突する。他のウィンドコアのファン・バッテリーと互換性がない。そして店舗販売が中心で、通販の在庫は季節に左右される。
バートル AC10+AC10-2|30V・120L/秒、そのぶん628g
風量の絶対値を求めるならここになる。5,600mAh/80.64Whのバッテリーが405g、ブラシレスモーターのファン2個で223g。30Vで120L/秒、23Vで91L/秒、16Vで62L/秒、9Vで38L/秒の4段。30Vは1時間で23Vに自動で落ち、そこから約5時間、平均77L/秒で回る。急速充電は約4時間。
628gは軽くない。しかも他機器への給電に対応しないので、モバイルバッテリーとは別勘定になる。それでも、汗が滴り落ちるほど出る人が湿った樹林帯を登るなら、蒸発側へ押し戻す力の大きさがそのまま効く場面はある。
服の側は、ザックを背負うなら背面ファン型ではなくサイドファン型(AC2094 など)を選ぶ。両脇から後方にファンを寄せて背面の出っ張りをなくした設計で、フルハーネスにも対応する。ここで一点、正直に書いておく。作業服ブランドの製品ページには、服単体の重量が載っていない。バートルもワークマンもサンエスも、素材と機能は細かく書くのに、グラム数の欄がない。作業現場では服の重さを1グラム単位で数えないからだろう。平均重量を必ず出す登山ブランドとは、そもそも数字の出し方が違う。だからここでは、重量が公表されているデバイス側だけをカードにしてある。
全体比較表:4系統の総重量・実売・ザック適性・電源汎用性を🌟5段階で並べる
| 構成 | 総重量の目安 | 実売の目安 | ザック適性 | 電源の汎用性 |
|---|---|---|---|---|
| モンベル ライトベスト+システム | 707g | 約¥32,300 | 🌟🌟🌟🌟🌟 | 🌟 |
| モンベル ベスト+システム | 797g | 約¥32,900 | 🌟🌟🌟🌟🌟 | 🌟 |
| バートル サイドファンベスト+AC10 | デバイス628g+服(非公表) | 約¥20,000 | 🌟🌟🌟🌟 | 🌟 |
| サンエス RD9001S+作業服ベスト | デバイス355g+服(非公表) | 約¥10,000 | 🌟🌟(服の配置しだい) | 🌟🌟🌟🌟🌟 |
| ワークマン エントリーセットベスト | デバイス403g+服(非公表) | ¥9,800 | 🌟🌟 | 🌟🌟🌟🌟 |
山行別の落としどころ5パターン|低山日帰り・小屋泊縦走・テント泊は持たない・お試し・パネルで済ます
| 山行 | 選び方 | 理由 |
|---|---|---|
| 真夏の低山を日帰り(丹沢・奥多摩・六甲) | モンベル ベスト+システム | 荷が軽くベルトの締め込みが浅い。19Vをまるごと使い切れる |
| 小屋泊の縦走 | サンエス RD9001S+サイドファン系のベスト | 電池を共用でき、小屋で充電できる。稜線では止める前提 |
| テント泊の縦走・重荷 | 持っていかない | ヒップベルトを強く締めるほど風路が死ぬ。増えた重さだけが残る |
| まず一度試したい | ワークマン エントリーセットベスト | ¥9,800で全部そろう。合わなくても電池はモバイルバッテリーとして残る |
| 背中の蒸れだけを何とかしたい | 後付けバックパネル | 75〜300g・電源不要。ファンより先に試す価値がある |
ひとつ付け加えると、冷却が効いて発汗が減れば、担ぐ水も減らせる。この効果は装備表の上で無視できない大きさになるので、増えた電装の重さと相殺して考えたい。
安全と法律の話|リチウムイオンバッテリーを山に持ち込む前に
最後に、電源を山へ持ち込むという行為そのものについて。
リチウムイオン蓄電池は電気用品安全法の対象になりうる品目だ。適合の印が製品に付くPSEマーク(電気用品安全法に基づく表示)で、経済産業省の解説によれば、単電池あたり400Wh/L以上の体積エネルギー密度を持つものが「リチウムイオン蓄電池」として規制対象になる。加えて2019年からはモバイルバッテリーも対象に加わった。ワークマンやサンエスのようにモバイルバッテリーを電源に使う構成は、この後者に該当する。一方、モンベルやバートルの専用出力バッテリーがどちらの区分に入るかは、内部セルの体積エネルギー密度で決まる。製品ページにも取扱説明書にも、セル単位の数値までは書かれていない。
実務的な結論は、区分の詮索よりも運用の側にある。モンベルの取扱説明書は、他社製品と組み合わせて使った場合の故障やファンの落下について責任を負わないと明記し、たき火やストーブを扱う場所での使用、寝袋や布団に覆われた状態での使用を禁じている。使用環境温度は0〜40℃、保管は-10〜45℃。山ではこう読み替えられる。
- 純正の組み合わせで使う。変換ケーブルで他社のファンやモバイルバッテリーを繋ぐ改造は、保証の外に出るだけでなく、電圧の想定が崩れる
- テント内やシュラフの中で稼働させない。熱がこもる状況は説明書が明確に禁じている
- 落下や外装の亀裂があった電池は使わない。岩場で一度落としたら、その日は使わないくらいの線引きでいい
- 航空機で運ぶなら、事前に航空会社の規定を見る。リチウムイオン電池は100Whを境に扱いが変わるのが一般的で、モンベルの60.3Wh、バートルの80.64Whはいずれもその下に収まる。ただし予備電池の持ち込み方法は各社で案内が違うので、遠征前に自分の使う航空会社のページで確かめてほしい
火気と電池を同時に扱う場所が山の幕営地だ、という一点だけは頭に置いておきたい。
まとめ:買う前に、自分のザックのベルトの位置を見る
ファン付きウェアの比較記事は、たいてい風量とバッテリー容量の表で終わる。だが登山者にとって、その表の数字はほとんど順位を決めない。決めるのは、ファンの穴が自分のザックのヒップベルトより上にあるか下にあるか、そして脇と襟の排気がショルダーとチェストのベルトに潰されないか、という位置関係だ。
だとすれば、買う前にやることは一つに絞れる。いつも使っているザックを背負って、ヒップベルトの上端が体のどこに来るかを指で確かめる。数字にしておく。モンベルのファン取付穴は径90mm、左右非対称に開く。バートル AC2094 の着丈はSで64cm、3XLで74cmだ。ヒップベルトの上端が乗るのは腰骨(腸骨稜)のすぐ上で、ベストの裾はたいていそれより下まで来る。つまり腰の背面に穴を開ける標準型は、着丈のいちばん下、ベルトが乗る帯に吸気口を置いていることになる。逆にモンベルやサイドファン型は、穴を脇から上へ逃がしてこの帯を外している。買う前に見るのは風量の欄ではなく、穴が裾から何cm上にあるかだ。この帯に吸気口が乗ってしまえば、風量の数字は服の外の話で終わる。
そしてもう一つ。効く時間と効かない時間は、一本の山行のなかで何度も入れ替わる。汗をかいている登りでは働き、汗が引いた稜線では体を冷やす側に回る。汗が引いたら止める——この一手間を引き受けられるかどうかが、¥9,800でも¥32,900でも、最後の分かれ目になる。