- 「下りで膝が痛い」は一つの症状ではない|前と外側で、壊れているものが違う
- なぜ下りだけ壊れるのか|筋肉が伸ばされながらブレーキをかける「偏心収縮」
- 外側が痛むなら答えは尻にある|中殿筋の6週間強化で、24人中22人が無痛になった
- ポールは膝関節の力を12〜25%下げる|重いザックでも効くと確かめられている
- テープとサポーターは、証拠の質がここまで違う|「巻けば治る」ではない
- 効果の確かさで並べ直す|金と手間を、どの順に配分するか
- 下山のダメージは翌日に出る|バランスの崩れが24〜48時間後に66〜256%増える
- ポールの先が登山道を削る|逆八の字で、突く位置を道の内側に収める
- やってはいけないこと|膝痛で遠回りになりやすい四つ
- まとめ:痛む場所を見分けて、確かな順に手を打つ
- 参考にした資料
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「下りで膝が痛い」は一つの症状ではない|前と外側で、壊れているものが違う
登りは平気なのに、下りだけ膝が鳴く。荷物が重い日、行動が長い日にかぎって出る。この話をすると、返ってくる答えはだいたい同じだ。「太ももを鍛えましょう」「ポールを使いましょう」「サポーターを巻きましょう」。
でも、その三つを同じ皿に並べていいのか。まず「膝のどこが痛むか」で、壊れているものが違う。そして三つの対策は、効果の確かさが同じではない。調べていくと、いちばん効くものといちばん証拠が薄いものが、直感とは逆だった。
僕は1976年生まれで、今年50になる。トレイルランニングから山に入ったので下りは慣れているつもりだったが、テント泊装備を背負うと話が変わる。準備運動と足さばきを怠った日は、だいたい左膝の外側が痛くなる。不思議なことに、いつも左で、いつも外側だ。前側ではない。
この「外側」というのが、後で出てくる話の入口になる。太ももを鍛えろという定番のアドバイスは、外側の痛みにはあまり刺さらない。
なぜ下りだけ壊れるのか|筋肉が伸ばされながらブレーキをかける「偏心収縮」
登りで筋肉は縮みながら力を出す。下りは逆で、伸ばされながら踏ん張る。太ももの前は、体が落ちるのを一歩ごとに受け止めながら、じわじわ引き伸ばされていく。この使い方を偏心収縮という。
この収縮は、同じ力を出すときに筋線維あたりの張力が高くなりやすい。だから傷みやすい。下り坂を歩いた翌日に太ももが痛くなる、あの遅れてくる筋肉痛の主犯もこれだ。研究では、運動中と直後は痛みが出ず、おおよそ8時間後から痛みはじめ、1〜2日後に最大になると報告されている。
つまり下りは、心臓も肺も楽なのに、筋肉にとっては登りより過酷な作業が続いている。「下りは休憩」という体感は、筋肉の側から見ると嘘だ。
前側が痛むとき|太ももの力が、お皿を裏から関節に押しつけている
お皿(膝蓋骨)の前や周りが痛むなら、経路はわかりやすい。太もも前の筋肉が強くブレーキをかけると、その力はお皿を経由して伝わるので、お皿が裏から関節面に押しつけられる。膝を深く曲げて着地するほど、この圧は上がる。
この機序は、履いている靴でも動く。かかとの高い靴は体をわずかに前のめりにするので、そのぶん膝を深く曲げて着地することになる。靴を替えた日にだけ膝と足裏をやられた話で書いたとおり、同じ体・同じ斜面でも、足元の条件で痛む場所は移る。
外側が痛むとき|骨盤が落ちて、外側の帯が骨の出っぱりに擦れる
膝の外側には、太ももの外側を縦に走る硬い帯がある。腸脛靭帯という。膝の曲げ伸ばしのたびに、この帯が太ももの骨の外側の出っぱりの上を行き来する。ここが擦れて炎症を起こすのが、外側の膝痛の典型だ。
この帯が張る条件が、下りに揃っている。疲れてくると、片脚で立った瞬間に反対側の骨盤が落ちる。骨盤が落ちると脚は内へ倒れ、外側の帯は引っぱられる。斜面では、この骨盤の落ち込みと歩隔の狭さが、股関節と膝にかかる横方向の力を増やすと報告されている。踵が地面を叩く瞬間、それも疲れてからが、いちばん痛む。
ここに、僕の症状が全部おさまる。テント泊装備で疲れが溜まった下りの後半、骨盤が落ちて、左の帯が擦れる。「準備運動を怠ると痛くなる」という体感も、この機序で説明がつく。骨盤を支える筋肉が起きていないまま歩き出しているからだ。
外側が痛むなら答えは尻にある|中殿筋の6週間強化で、24人中22人が無痛になった
ここが、調べていていちばん驚いたところだ。外側の膝痛でいちばん効果が出ているのは、膝でも太ももでもなく、尻の横の筋肉だった。
骨盤が落ちるのを止めているのは、尻の横にある中殿筋という筋肉だ。ここが弱いか、疲れて働かなくなると、骨盤が落ちて外側の帯が張る。だから対策は、帯をほぐすことでも膝を固めることでもなく、骨盤を落とさない力をつけることになる。
外側の膝痛を持つランナー24人に、中殿筋に絞った6週間の強化を行った研究がある。結果は、24人のうち22人が全ての運動で痛みなく走れるようになり、6か月後の追跡でも再発の報告がなかった。股関節を横に開く力は、女性で平均34.9%、男性で51.4%上がっていた。
ランナーが対象で、人数は24人。登山の下りにそのまま置き換えられる数字ではない。それでも、この後に出てくるどの対策よりも大きな変化が出ている。しかも道具はほとんど要らない。
使うのはゴムの輪が1本だけだ。理学療法の現場で色分けされた強度が使われていて、弱い側から始めて慣れたら上げていく。6週間という単位で考えるなら、最初は軽いほうから入るのがいい。
やることは、横向きに寝て脚を上げる、立って脚を横に開く、その程度でいい。特別な器具も場所も要らない。効果量がいちばん大きい対策が、いちばん安いというのは、この記事で書きたかったことのひとつだ。
ポールは膝関節の力を12〜25%下げる|重いザックでも効くと確かめられている
道具で膝を助けるなら、証拠がいちばんはっきりしているのはポールだ。
25度に傾けた斜面を8人が下った実験で、ポールを使ったときと使わなかったときを比べている。地面反力・膝関節にかかるモーメント・すねと太ももの骨の間の圧縮力とせん断力が、ピーク値と平均値で12〜25%下がった。効いている理由は二つで、ポールに体重の一部を預けたことと、上体がやや前傾して膝にかかる力の腕が短くなったこと。
そして、この記事の読者に関係が深いのはこちらだ。経験者15人が、荷物なし・体重の15%・体重の30%という三つの背負い条件で下った実験がある。どの条件でも、ポールを使うと下肢の各関節にかかる力が有意に下がった。足首と膝が吸収するエネルギーのピークも下がっている。テント泊装備で膝が出る人にとって、ここは軽くない。
| わかっていること | 出所 | |
|---|---|---|
| 膝関節の力 | ピーク・平均で12〜25%低下 | 25度斜面・8人(1999年) |
| 効いている理由 | ポールへの荷重分散+上体の前傾で力の腕が短くなる | 同上 |
| 重荷でも効くか | 体重15%・30%の荷でも有意に低下 | 経験者15人(2007年) |
ただし但し書きがある。8人・15人という規模で、25度のランプは実際の登山道より均一だ。数字をそのまま自分の膝に当てはめられるわけではない。それでも「効く方向」が複数の研究で一致しているのは、次に出てくるサポーターやテープとは事情が違う。
下りで伸ばして使う|長さを変えられないポールでは、この使い方ができない
僕はトレイルランニングから入ったので、常にダブルストックだ。いま使っているのは内部コードを持たない構造のポールで、下りでは長さを伸ばす。斜面の下側に突くのだから、平地と同じ長さでは足りない。伸ばして前に置くと、三点支持を長い腕でやっている感覚になって、これが心強い。
ここで機種選びに条件がつく。折りたたみ式のポールは、たたむ・広げるはできても長さを変えられないものが多い。軽さを優先する超軽量モデルはこちらに寄る。下りで伸ばしたいなら、伸縮式かレバー式で長さを変えられるものを選ぶことになる。左右合計300g以下という軽さの土俵は超軽量ポールの限界を測った回で扱ったが、テント泊の重荷を預ける前提なら、そこまで削らないほうが安心して体重をかけられる。
テープとサポーターは、証拠の質がここまで違う|「巻けば治る」ではない
膝が痛いと、まず膝に何か巻きたくなる。僕も以前はサポーターを使っていて、今は必ずキネシオテープを貼る。ただ調べてみると、この二つは効果の証拠がいちばん薄い側にいた。
キネシオテープ|運動療法の「補助として」なら支持される
膝のテーピングについて、5つのランダム化比較試験・235人分をまとめた系統的レビューがある。結論はこうだ。
このレビューは、膝のテーピングを従来の運動療法への補助としてのみ支持する。テーピング単独では支持しない。
テープと運動を組み合わせると、運動だけ・テープだけよりも痛みが減った。一方でテープ単独の効果は限定的だった。
これは僕の使い方と噛み合う。準備運動をした日は痛くならず、怠った日は痛くなる。テープは貼っている。つまり僕の場合、効いているのはテープ単独ではなく、体を起こしてから歩き出すこととの組み合わせだったのかもしれない。
銘柄については、はっきりした好みがある。僕はニトリート以外を使わない。汗をかいて数時間歩くと、安いテープは端から浮いてきて、途中で貼り直すことになる。施術する側の人からも剥がれにくいと聞いていて、自分の実感もそこに一致している。ただしこれは僕の使用感と現場の声で、粘着の持続を銘柄間で比べた試験データを持っているわけではない。
膝まわりに貼るなら幅は50mmが扱いやすい。まず1巻で試して、続くようならロールに移るのが安い。
サポーター|効く機序が、思っているものと違う
サポーターについては、もう少し歯切れが悪い。膝の装具を扱った系統的レビューは、患者の選び方や装具の設計が結果を左右するとしたうえで、より質の高い研究が必要だと明記している。効かないという結論ではなく、断定できるだけの材料が揃っていない、という状態だ。
もう一つ意外だったのは、効く理屈のほうだ。柔らかいサポーターの働きは「関節を機械的に固定する」ではなく、圧迫が皮膚の感覚受容器を刺激することで説明されている。痛みの伝わり方を抑える効果、温まる効果、腫れを抑える効果、そして関節の位置を感じ取る精度への働きかけ。健常者では関節の位置感覚に有意な変化が出なかったという報告もあり、話は単純ではない。
だから僕は「サポーターは無駄」とは書かない。体感で楽になる人がいるのは事実で、その体感を否定する根拠もない。言えるのは、証拠の強さが中殿筋の強化やポールとは違う階層にある、ということだけだ。ここに最初のお金と期待を集めないほうがいい。
それでも使うなら、実績のある定番から入るのが無難だ。スポーツ用途で締め加減を細かく調整したいならザムスト、パンツの下に薄く収めたいならバンテリン。サイズは膝頭まわりを測って選ぶ。
効果の確かさで並べ直す|金と手間を、どの順に配分するか
ここまでの材料を、証拠の強さで並べるとこうなる。
| 対策 | 証拠の強さ | 出ている効果 | 費用 |
|---|---|---|---|
| 尻の横(中殿筋)を鍛える | いちばん強い | 24人中22人が無痛化・6か月再発なし | 約1,200円〜 |
| ポールで荷重を逃がす | 強い(定量的) | 膝関節の力が12〜25%低下。重荷でも有効 | 約12,000円〜 |
| キネシオテープ | 中程度 | 運動療法の補助としてなら支持される | 約700円〜 |
| サポーター | 弱い | 質の高い研究が不足。機序は感覚入力 | 約2,700円〜 |
膝が痛いから膝に巻く、がいちばん証拠が薄い。いちばん効くのは膝から離れた尻で、しかもいちばん安い。この逆転が、この記事でいちばん伝えたいことだ。
ただしこれは外側の痛みを前提にした順番だ。前側が痛むなら、太もも前の強化とポールが先に来る。だから最初に、自分がどちらなのかを見分ける必要がある。
下山のダメージは翌日に出る|バランスの崩れが24〜48時間後に66〜256%増える
もう一つ、知っておいて損のない話がある。下りで受けたダメージは、その日には自覚できない。
平均72歳の19人が、30分のトレッドミル歩行をした実験がある。平地を歩いた群と、10%の下り勾配を歩いた群を比べた。
| 測ったもの | 平地を歩いた群 | 下りを歩いた群 |
|---|---|---|
| 姿勢の揺れ(バランス) | 直後に52〜98%増、30分で元に戻った | 直後は変化なし。24時間後・48時間後に66〜256%増 |
| 筋力 | 1分後に23%低下、15分で回復 | 直後に27〜38%低下、48時間後もまだ戻らない |
| 立ち座り(60秒) | 直後に低下、15〜30分で回復 | 24〜48時間後に29%低下 |
平地なら30分で戻るものが、下りでは48時間戻らない。しかもバランスの崩れは直後には出ず、翌日以降に出る。
だから「下山中は平気だった」は、安全だった証明にはならない。下山の翌日、駅の階段や自宅の風呂場で足を滑らせるほうが、実は危ないのかもしれない。72歳・19人・トレッドミルという条件なので、40代50代の登山にそのまま当てはまるとは限らない。それでも、下山の翌日を「回復した日」と思い込まないだけの材料にはなる。
ポールの先が登山道を削る|逆八の字で、突く位置を道の内側に収める
ポールを勧める記事として、これは書いておきたい。ポールは登山道を削る。
アパラチア山岳会の解説によれば、濡れた土や柔らかい土では石突きが5cm近くまで刺さり、直径1cmほどの穴が残る。先端が埋まった状態で上のポールが振れるので、穴は上が広いV字になる。ネパールのサガルマータ国立公園でこの過程を追った研究では、こうしてできた小さな土の塊が雨水で容易に流され、登山道の侵食につながると報告されている。植生が減り、やがて登山道が横に広がっていく。
僕がやっているのは、突く位置の管理だ。手を外、先端を内に寄せる。八の字を上下逆さにした形で突いて、石突きが登山道の内側に収まるようにする。外に開いて突くと、道の縁の植生を一歩ごとに刺すことになる。長い腕で三点支持をする感覚は変わらないまま、穴を開ける場所だけを道の中に閉じ込められる。
もう一つ簡単なのが、石突きにゴムを被せることだ。乾いた土や岩、木道では十分にグリップするし、金属の先が土を掘り返すのを防げる。サイズは石突きの径に合わせないと歩行中に外れるので、手持ちのポールを測ってから選ぶ。
やってはいけないこと|膝痛で遠回りになりやすい四つ
- 痛む場所を確かめずに太ももを鍛える。外側の痛みなら、鍛える場所は尻の横になる。定番のアドバイスが自分の故障に当たっていないことがある。
- サポーターに最初の期待を集める。証拠がいちばん薄い階層にある。楽になる人はいるが、そこを土台にしないほうがいい。
- 準備運動を省いて歩き出す。骨盤を支える筋肉が起きていないまま下りに入ると、外側の帯に最初から負担が乗る。
- 下山の翌日を「回復した日」として扱う。バランスは翌日以降に崩れる。翌日に別の山へ行く計画は、思っているより攻めている。
まとめ:痛む場所を見分けて、確かな順に手を打つ
下りで膝が痛むとき、やることは二段ある。まず、前が痛むのか外側が痛むのかを見分ける。前ならお皿の裏に圧が集まっている話で、外側なら骨盤が落ちて帯が擦れている話だ。原因が違うのだから、効く手も違う。
そのうえで、効果の確かさの順に手を打つ。外側なら尻の横を鍛えるのが最優先で、これがいちばん大きな変化が出ていて、いちばん安い。次にポールで荷重を逃がす。テープは運動と組み合わせてこそ支持される。サポーターは、証拠の階層が一段下がることを知ってから使う。
僕の場合、痛くなる日とならない日の差は、装備ではなく準備運動と足さばきだった。膝に巻くものを増やす前に、歩き出す前の10分と、尻の横の6週間がある。そこを先に埋めたほうが、たぶん近道だ。
参考にした資料
- Schwameder H, Roithner R, Müller E, Niessen W. "Knee joint forces during downhill walking with hiking poles." Journal of Sports Sciences 17(12), 1999. ── 25度斜面・8名。ポール使用時の膝関節モーメント/圧縮力・せん断力の12〜25%低下。
- Medicine & Science in Sports & Exercise, 2007(経験者15名・荷重3条件でのポール使用) ── 体重15%・30%の荷を背負った下りでも、下肢各関節のモーメントが有意に低下。
- Fredericson M, et al. "Hip abductor weakness in distance runners with iliotibial band syndrome." Clinical Journal of Sport Medicine, 2000. ── ITBSのランナー24名。中殿筋に絞った6週間の強化で22名が無痛化、6か月後も再発報告なし。
- Logan CA, et al. "Systematic Review of the Effect of Taping Techniques on Patellofemoral Pain Syndrome." Sports Health, 2017. ── 5件のRCT・235名。テーピングは運動療法への補助としてのみ支持され、単独では支持されない。
- 国立長寿医療研究センター(NILS-LSA、地域在住520名・CT撮像) ── 日本人の大腿四頭筋における筋量と筋質の年齢・性差。研究紹介
※本記事の数値は、ランナーや高齢者を対象にした研究を含む参考値で、登山の下山にそのまま一致するとは限らない。痛みが続くとき、腫れや不安定感があるときは、自己判断で対処せず整形外科へ。