- キャラバン72年目の越境:CRVが2026年9月に「足元の外」へ出る
- 同じ「ULTRA」でも中身は8種類ある:Ultra 100Xと200Xを分ける糸の太さとフィルム
- 31gの内訳を分解する:三つ折り財布の重さは、生地ではなく縁と口で決まる
- 筑波山を一日歩いて消えた問題:汗で湿った千円札は、自販機を通らない
- 9年物のX-Pac財布はこう歳を取った:ラミネートは裂けずに、折り目と縁から痩せる
- ULTRA版とULTRAGRID版:同じ形・同じ¥8,250で、31gと24gのどちらを選ぶか
- 日本の山はまだ現金インフラ:紙幣・小銭・カード9枚を1つに束ねる
- まとめ:31gのUL財布が、削らずに済ませたもの
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キャラバンが2026年9月、「CRV」というブランドを丸ごと作り直す。1954年の創業から72年、看板をずっと登山靴に置いてきた会社が、自社ブランドを本気で足元の外へ出す。その先行販売として並んだ20型の中に、31gの三つ折り財布があった。
財布に求めているものは、9年前から変わっていない。山でも普段でも同じものを持てて、軽くて小さいこと。汗と雨に晒され、ザックの中で他の荷物とこすれても平気なこと。山用と街用に分けると、入れ替えを忘れる日が必ず来る。
買うと決めるのに、比較検討は要らなかった。神保町の店の棚に下がっているのを見つけて、その場で決めている。ブラックのUltraで作られた財布だったからだ。手元のTrail Bum Go-onもLITEWAY Urban Pro Pack ULTRAもこの生地で、黒い樹脂膜の下にうっすら浮かぶ格子と、指で押したときのパリッとした戻り方は体が覚えている。あの生地で財布ができている。それだけで足りた。
判断材料もへったくれもない買い方だが、決めたあとで調べると、この31gは思っていたより理屈の通った作りをしていた。特に生地の選び方が面白い。Ultraという名前は8種類の別々の生地を指していて、CRVはこの財布に、その中でも軽いほうのグレードを当てている。
前任機は、2017年頃に作ってもらったオーダーメイドのX-Pac製だ。9年でそれなりに歳は取った。折り目のフィルムに白い筋が入り、縁のバイアステープがほつれ、表面の色が抜けている。ただし壊れてはいない。今日から使えと言われれば普通に使える。年始から「良いのがあれば乗り換えよう」と思っていたところで、これに出くわした。
筑波山を日帰りで歩き、街では毎日使っている。それだけで、前任機との差がひとつはっきり出た。汗をかいても、紙幣が濡れない。
雨に一日打たれた話や、数年単位の耐久はまだ書けない。書けるのは、山と街で使って分かったことと、作りと素材の設計意図、そして9年ぶんの前任機が教えてくれた「ラミネートの財布はどう歳を取るか」だ。
キャラバン72年目の越境:CRVが2026年9月に「足元の外」へ出る
キャラバンの年表は1952年から始まる。マナスル登頂を目指す日本の遠征隊のアプローチシューズとして開発が始まり、1953年にプロトタイプ、1954年に第一号を市販した。株式会社キャラバンの設立も同じ1954年6月だ。
そこから先、公式のシューズ年表に並ぶのは全部が足元の話になる。1958年にアッパーをナイロン化、1967年に「キャラバンスタンダード」の原型が完成、1981年に公式年表が国産初と記す「グランドキング」、2005年に国産キャラバンシューズの販売終了、2008年に「C1」で復活。72年ぶんが、まるごと靴の話で埋まっている。
小物をまったく作ってこなかったわけではない。自社ブランドのソックスがあり、コーデュラのポーチバッグもある。ただ、この会社がずっと名乗ってきたのは「登山靴のキャラバン」であって、生地から設計するバッグのブランドではなかった。
CRVはその中で2022年に生まれた新カテゴリーで、名前は "Create Real Vital" の頭文字だ。当初はVita・Free・Crossという3つのシューズシリーズで構成されていた。つまりCRVも、去年までは靴だった。
そのCRVが2026年9月、「URBAN TRAIL GEAR」というコンセプトで作り直される。シリーズ構成をひとつにまとめ、カラールールとロゴも刷新すると公式が告知している。そして本番に先んじて、バッグとアクセサリの20型が売られ始めた。
興味深いのは、その20型での生地の配り方だ。
| 製品群 | 採用生地 | 重量・価格の例 |
|---|---|---|
| バックパック(28L / 18L+) | Ultra 200X | 354g・¥28,600 / 356g・¥27,500 |
| ポーチ・ウォレット | Ultra 100X | 52g・¥9,130 / 31g・¥8,250 |
| ポーチ・ウォレット・ケース(別素材) | Ultra Grid | 24g・¥8,250 / 30g・¥4,620 |
| スタッフサック・ドライバッグ | ECOPAK EPLX200 / D50T | 20〜215g・¥3,300〜¥17,050 |
生地屋のカタログから「一番強いやつ」を選んで全型に貼る、という組み方をしていない。背負って岩に擦る物には上位グレード、手のひらに載る物には下位グレード、かさばる収納物にはリサイクル系。少なくとも、生地の名前そのものを看板に立てる気はなさそうだ、という手つきが伝わってくる。
同じ「ULTRA」でも中身は8種類ある:Ultra 100Xと200Xを分ける糸の太さとフィルム
キャラバン公式のスペック欄に書かれているのは「Ultra™ 100X(UHMWPE、ポリエステル)」だ。UHMWPEは超高分子量ポリエチレンの略で、ダイニーマと同じ系統の、分子鎖をうんと長くした高強度の繊維を指す。
Ultraを作っているChallenge Outdoorの製品ページを開くと、この名前が思ったより広い範囲をカバーしていることがわかる。無印のULTRAが4種類、CrossPly入りのULTRA Xが4種類。合わせて8種類ある。
| グレード | 表の糸 | 重さ | 引裂(経/緯) | 耐摩耗 |
|---|---|---|---|---|
| ULTRA 100X | 100デニール | 122 g/m² | 69.4 / 89.6 lb | 3,600回 |
| ULTRA 200X | 200デニール | 155 g/m² | 103.1 / 133.2 lb | 4,400回 |
| ULTRA 400X | 400デニール | 208 g/m² | 187.7 / 161.1 lb | 8,800回 |
| ULTRA 800X | 800デニール | 335 g/m² | 250 lb以上 | 16,000回以上 |
数字を並べると差は明快だが、実物を手に持つと見分けはつかない。理由は、名前の末尾についた「X」のほうにある。
ULTRA Xは、表側の織布と裏側のフィルムのあいだに、UHMWPEの糸を斜め格子に走らせている。これがCrossPly、いわゆるX-PLYだ。生地が斜め方向に伸びるのを止め、裂け目が走るのを食い止める役目を持つ。そして黒い生地の下で光を拾い、あのダイヤ模様として浮かび上がる。100Xにも200Xにも同じCrossPlyが入っているから、見た目の「Ultraらしさ」はグレードが変わっても変わらない。
言い換えると、あの黒い格子に惹かれて何かを買うとき、手に入るのが122 g/m²なのか335 g/m²なのかは、見ただけでは決められない。書いてある型番を読むしかない。
そのうえで、CRVがパックに200X、財布とポーチに100Xを配ったのは理屈が通っている。ザックは岩と木にこすられ、テント場で地面に置かれ、藪で引っかかる。財布はポケットの中でおとなしくしている。摩耗3,600回と4,400回の差が効いてくるのは、ほとんど前者のほうだ。
そして重さのほうは、もっと身も蓋もない。この財布を200Xで作り直しても、増えるのは2g足らずにしかならない。理由は次の章で分解する。
CRVで200Xが載っているのは、スタッフサックパックの28Lと18L+の2本だ。ロールトップにフロントのストラップという構成で、354g/¥28,600。生地の格をそのまま背負う物に振っている。
同じ200Xを国内ブランドで先にやったのがTrail Bum Go-onで、こちらは手元にある。40〜48Lのロールトップに大型フロントフラップという異形で、この生地の「保水しない」感覚を最初に叩き込まれたのがこの1本だった。
→ Ultra 200Xを背負って熊野古道と厳冬期の奥多摩を歩いた話を読む
31gの内訳を分解する:三つ折り財布の重さは、生地ではなく縁と口で決まる
展開すると23×10.5cm。面積にして約0.024平方メートル。Ultra 100Xは1平方メートルあたり122gだから、1枚ぶんで約3gにしかならない。三つ折り財布は外装と内側のポケットで生地がおおむね二重になるので、生地の総量はざっと6g前後と見ておけばいい。
公称重量は31gだ。つまり残りの25g、全体の8割は生地ではない。
内側を開くと、25gの正体が見える。左右のカードポケット、中央のメッシュポケット、縁を巻くグログランテープ、外側のジッパー、それを止めるゴムバンド、そしてすべてを縫い留める糸。財布という道具は、ほとんどが「縁」と「口」でできている。
これは選び方の話に直結する。生地のグレードを1段上げても、この31gはほとんど動かない。200Xと100Xの差は1平方メートルあたり33gで、二重ぶんに換算しても2g足らずだ。逆に、ジッパーを1本足したりカード室を1段増やしたりすれば、その何倍も重くなる。軽い財布を探しているなら、生地名を見るのではなく、ジッパーの本数と縁取りの取り回しを数えたほうが早い。
構成そのものは、日本で使う財布として素直だ。メインポケットが紙幣、左右のポケットにカードが最大9枚、小銭と鍵はジッパー室。中央のメッシュは、開けずに中身を目視できる。
この構成が街で効いた。使い始めてまず分かったのは薄さで、前任のX-Pac財布より明らかに薄い。そして、中を探す時間が減った。左右のカードポケットと中央のメッシュで置き場所が割れているぶん、開いた時点でどこに何があるかが見えている。入る量は前より増えているのに、探す手間のほうは減った。 三つ折りで容量を足すと厚みと引き換えになるのが普通なので、ここは素直に良い。
そして手触りが良い。バックパックで見慣れていたはずの生地なのに、財布になると別物に感じる。面積が小さいぶん、フィルムの張りと、その下にある織りの目が、指の腹に集中して来るのだと思う。毎日ポケットから出し入れする物で手触りが良いのは、スペック表に一行も乗らないかわりに、毎日効く。
ジッパーのゴムバンドは、買った時点では半信半疑だった。閉じた財布の口をゴムの輪に引っかけて押さえるだけの仕組みで、その一手間が毎回面倒にならないかと思っていた。使ってみると、これが良い。三つ折り財布はカードが増えると厚みで反り返り、ザックの中で自然に開こうとする。あれをゴム1本で止めていて、引っかける動作も片手で済む。
ひとつだけ手を入れた。購入時のテンションはやや弱い。 カードを詰めた状態だと押さえきれていない感じがあったので、ゴムをもう一結びして短くした。それだけで締まりが出て、閉じた形が保たれるようになった。数十秒で終わるので、緩いと感じたら試す価値がある。
筑波山を一日歩いて消えた問題:汗で湿った千円札は、自販機を通らない
夏の筑波山を日帰りで歩いた。標高でいえば低山だが、真夏の低山は汗の量なら高山より厳しい。財布はロングパンツの右ポケットに入れていた。腿に押しつけられたまま一日歩く場所で、体温と汗からは逃げようがない。
前任のX-Pac財布では、これがしばしば起きた。下山して自販機に千円札を入れると、吸い込まれずに戻ってくる。 汗で湿った紙幣は、識別機を通らない。現金を持ってきているのに、その現金が使えない。
CRVに替えて、これが起きなくなった。同じように入れて、下山して開けても、紙幣は乾いたままだった。
生地の話が実地で回収された形になる。Ultra 100Xは織布の裏に0.75milのフィルムが貼られていて、公称の耐水は200 PSI以上。汗のような低い圧力の水分に対しては、桁でいえば過剰なほどの余裕がある。
ただし、ここで前任機を「防水が弱い生地」と片づけるのは違う。X-Pacも同じ「織布+フィルム」のラミネートで、新品のときは同じように汗を止めていたはずだ。 9年のあいだに何かが変わって、止まらなくなった。何が変わったのかは、実物を見れば見当がつく。
9年物のX-Pac財布はこう歳を取った:ラミネートは裂けずに、折り目と縁から痩せる
2017年頃から使ったオーダーメイドのX-Pac財布は、9年でこの3つが進んだ。
- 折り目のフィルムに白い筋が入った
- 縁のバイアステープがほつれた
- 表面が擦れて色が抜けた
裂けたことは一度もない。表布はいまも張りを保っていて、機能としては現役だ。変わったのは、生地そのものではなく、生地を貼り合わせている層と、縁を巻いていたテープと、色だった。
X-Pac VX21は、210デニールのナイロン表布・ポリエステルのX格子・PETフィルム・50Dの裏当てを貼り合わせた4層構造で、重さは1平方メートルあたり約203g。9年ぶんの結果を単純化すると、ラミネートの財布は破断で終わらず、折り目と縁からじわじわ痩せていくということになる。
汗が染みるようになった経路は、分解しないと確かなことは言えない。ただ、水を止めているのは織布ではなく裏のフィルムで、そのフィルムが割れた線と、縫い目が緩んだ縁が、9年ぶんの変化のほぼ全部だ。無関係だとは思えない。そして重要なのは、裂けるより先に防水のほうが落ちたという順番のほうだ。 生地としての寿命が来る何年も手前で、財布としての機能はもう削られていた。
ここが、生地のスペックシートを読んでも出てこない部分だ。Challenge OutdoorがULTRAについて公開しているのは、引裂(ASTM D2261)、耐摩耗(ASTM 3884)、耐水圧(200 PSI以上)の3つ。どれもラミネート生地の強さを測る妥当な試験だが、どれも「同じ線を毎日折り続けたらどうなるか」を測っていない。X-Pac側にも屈曲耐久の公称値は見当たらなかった。
財布はザックと違って、決まった線を1日に何度も、何年も折られる。ザックを想定して選ばれた生地の数字が、財布の5年後の見た目を保証してくれるわけではない。
Ultra 100Xも、構造だけ見ればX-Pacと同じ「織布+フィルム」のラミネートだ。表の糸がナイロンからUHMWPEに変わり、フィルムが0.75mil(1milは1000分の1インチ。約0.019mm)になっているが、折り目に樹脂の層が走っているという事実は変わらない。だから数年後に同じ白い筋が入る可能性は普通にあると見ておくのが妥当だと思う。そこにデータを持っている人は、いまのところいない。
縁も同じで、CRVはグログランテープで巻いている。前任機がほつれたのとまったく同じ構造だ。
そう考えると、この財布の見どころは「壊れないこと」ではなく、壊れ方が前任機とほぼ同じ形で来ると予測できることにある。9年でどうなるか知っている構造を、素材だけ入れ替えてもう一周する。それは判断材料としてはかなり贅沢な状態だ。
→ UHMWPE系の生地がDCF・Ultra・ALUULA・DWCの4つに分岐した経緯を、素材の家系図として解剖した記事を読む
ULTRA版とULTRAGRID版:同じ形・同じ¥8,250で、31gと24gのどちらを選ぶか
このウォレットには素材違いが2つある。ここが実際に迷うところだと思う。寸法・構成・価格はまったく同じで、生地と重さと色だけが違う。
| 項目 | ミニマルウォレット ウルトラ | ミニマルウォレット ウルトラグリッド |
|---|---|---|
| 生地 | Ultra 100X(UHMWPE+ポリエステル) | Ultra Grid(リサイクルナイロン+UHMWPE) |
| 水の止め方 | ラミネートフィルム/200 PSI以上 🌟🌟🌟🌟🌟 | PUコーティング/1500mm 🌟🌟🌟 |
| 重さ | 31g 🌟🌟🌟🌟 | 24g 🌟🌟🌟🌟🌟 |
| 折り目に樹脂の膜があるか | ある(0.75milフィルム) | 無い(裏面コーティング) |
| 見た目 | 黒い樹脂膜に大きなダイヤ格子 | 織りの細かいグリッドが表に出る |
| カラー | 190ブラック | 100グレー / 108シルバーグレー |
| 価格・寸法・カード枚数 | ¥8,250・展開W23×H10.5cm・最大9枚 | ¥8,250・展開W23×H10.5cm・最大9枚 |
Ultra Gridは、リサイクルナイロンの織りにUHMWPEの糸を格子状に打ち込んだ生地で、防水は裏面の1500mmのPUコーティングが担う。ラミネートフィルムを持たないので、折り目に割れる膜がない。前の章の話でいくと、これは長期的にはむしろ有利になる。
代わりに、水の止め方の桁が変わる。Ultra 100Xの200 PSI以上は水柱に直すと14万mm相当で、1500mmとは桁が2つ違う。ただしこの2つは試験のかけ方が同じとは限らないので、そのまま何倍という比較にはできない。読み取れるのは「同じ土俵で語る数字ではない」ということだけだ。PUコーティングも経年で加水分解するので、そちらの寿命は別途ある。
僕がULTRAを選んだ理由は、黒とあのダイヤ格子だ。数字で詰めればULTRAGRIDのほうが軽いし、折り目の理屈でも分がある。それでも、あの生地で財布を持ちたかった。
日本の山はまだ現金インフラ:紙幣・小銭・カード9枚を1つに束ねる
海外ブランドの軽量ウォレットは、キャッシュレス前提で設計されているものが増えた。マチが2mmしかない薄型カードケースに小銭用のジップが申し訳程度に付く、という形が典型だ。歩く土地によっては、それで足りる。
日本の山は、まだそこにいない。山小屋の売店、テント場の受付、登山口の駐車料金、バスの運賃、トイレのチップ。現金でしか回らない場面が普通に残っている。千円札を数枚と、100円玉をそれなりの数。これを毎回持っていく前提は外せない。そして、持っていった千円札が汗で使えなくなれば、持っていないのとほぼ同じだ。紙幣を乾いたまま運ぶことは、日本の山ではそれなりに実用的な要件になる。
CRVの構成が噛み合うのはここだ。紙幣室・カード最大9枚・ジッパー式の小銭室という三点セットは、日本の山と街を1つの財布で通すための最小構成に近い。カード9枚というのは山用としてはかなり多く、街の財布を別に持たなくていい枚数になる。山と街で入れ替える運用は、いつか必ず忘れる。
軽量ウォレットは国内ブランドにも良いものが揃っていて、店頭で一通り触ってはいる。ただ、自分の使い方に噛み合わなかったり、単純に手が伸びなかったりで、結局こうなった。軽さと値段だけを詰めるなら、選択肢は他にいくらでもある。
そして、財布をどこに入れるかは製品選びと同じくらい効く。ヒップベルトのポケットか、サコッシュか、ザックの中か。触る頻度で置き場所を決めると、財布に必要な仕様も自動的に決まってくる。
→ ザックを下ろす回数をゼロにする、持ち物の置き場所の決め方を読む
財布の隣に置く物としては、同じUltra 100Xのユーティリティポーチが同時に出ている。52g・¥9,130で、W13×H19×D3cm。ショルダーコード付きで、財布・スマホ・行動食をまとめて首から下げられるサイズだ。
まとめ:31gのUL財布が、削らずに済ませたもの
軽い財布はたいてい、何かを諦めることで軽くなっている。小銭室を落とす。紙幣を折らせる。カードを3枚に絞る。そうやって削っていった先にあるのは、山では回るが街では足りない財布だ。
CRVのこれは、そこを削らずに31gに収めている。 紙幣室があり、小銭と鍵のジッパー室があり、カードは最大9枚入る。生地のUltra 100Xは1平方メートルあたり122gで、9年使ったX-Pac VX21の約203gより4割ほど軽く、裏に貼られたフィルムが水を通さない。軽さと収納が両立しているのは、生地が軽いからではない。軽い生地を使ったうえで、構成のほうを削らなかったからだ。
使ってみると、この設計はもう一段はっきりする。ゴムバンドで口を止める。メッシュで中を見せる。カードの置き場を左右に割る。どれも軽量化には1gも寄与しない。ULに振り切るなら真っ先に落ちる部分を、この財布は残している。 残したうえで31gに収めたから、街でも山でも同じものを持てている。
そのうえで、看板の「ULTRA」の四文字だけでは何も決まらない、というのは覚えておいていい。あの黒い格子は8種類のうちどれを買っても同じ顔で出てくる。122 g/m²も335 g/m²も、見た目は同じ「Ultraらしさ」になる。型番まで確かめて、初めてその道具が何を想定して作られたかが読める。CRVはパックに200X、財布とポーチに100Xと配っていて、この配り方には理屈がある。31gの財布を200Xで作っても2gしか重くならないかわりに、1gも得はしない。
そして型番も、財布の寿命までは教えてくれない。9年物のX-Pac財布が変わったのは折り目のフィルムと縁のテープで、どちらも公開されているどの試験項目にも入っていなかった。CRVのこれも同じ場所を持っている。数年後に同じ白い筋が入っても、たぶん驚かない。
それでいい、と思っている。買った理由は最初から数字ではなく、棚でこの生地に出くわしたことだった。理屈は後から確かめて、幸い破綻していなかった。
72年ぶんの年表を靴で埋めてきた会社が、CRVの最初の越境に手のひらサイズの31gを選んだ、というのも今になると腑に落ちる。手のひらサイズの小物は失敗したときの傷が浅く、そのくせ毎日手に取る。9月の本番で何を出してくるか、いまは素直に楽しみにしている。