山道具ラボ

by Daringdaddy #山で使う道具の話 #軽さと快適さのあいだ #買う前に知りたかったこと

悪沢岳・赤石岳を椹島から周回 テント泊2泊3日|霧雨の稜線と、小赤石岳の先で割れた空

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赤石岳山頂から見た雲海と、雲の間から伸びる稜線
2026年8月30日12時48分、赤石岳山頂。前の日の朝から白いままだった空が、この16分前に割れた

2026年8月29日3時14分、椹島ロッヂ。標高1,123m。ヘッドランプを点けて歩き出した。雨はまだ降っていない。

南アルプス南部の荒川三山と赤石岳を、椹島から反時計回りに歩く。同行は友人が3人。前の日に東京から車で入って椹島に前泊し、この日からテントを担いで2泊3日、という計画だった。

当初の行程は、1日目に千枚岳から悪沢岳、荒川岳を越えて荒川小屋まで。2日目は赤石岳から聖岳まで足を伸ばして聖平小屋。3日目に椹島へ下りる。体力か天気のどちらかが持たなければ、千枚小屋と赤石小屋に泊まって赤石岳だけを回る短い周回に落とす、と決めて入った。結果から言うと、歩いたのは後者だった。

16日前、この縦走の足慣らしに歩いた赤岳の日帰りを読む

山行データ(GPS実測)
山・コース 悪沢岳(荒川東岳・3,141m)・赤石岳(3,120m)/椹島→千枚小屋→千枚岳→丸山→悪沢岳→中岳→荒川小屋→小赤石岳→赤石岳→富士見平→赤石小屋→椹島の周回
日程 2026年8月28日(金)椹島ロッヂに前泊/29日(土)〜31日(月)テント泊2泊/4人
行動時間 1日目 3:14発〜10:01着(6時間46分)9.7km・登り1,629m/2日目 4:27発〜16:21着(11時間53分、うち休憩2時間22分)13.1km・登り1,394m・下り1,457m/3日目 5:53発〜8:43着(2時間51分)5.1km・下り1,428m/合計28.0km、累積 +3,035m・−3,030m
主な区間 椹島→千枚小屋 6時間46分(標高差約1,490m)/千枚小屋→千枚岳 50分/千枚岳→悪沢岳 1時間33分/悪沢岳→荒川中岳避難小屋 1時間/荒川小屋→小赤石岳 1時間50分/小赤石岳→赤石岳 44分(山頂に30分あまり)/赤石岳→赤石小屋 2時間58分/赤石小屋→椹島 2時間50分
天候 29日=未明は曇り、登りの途中から雨、稜線は暴風で千枚岳を引き返す人がいた/30日=出発から12時半ごろまで霧雨と強風で視界なし、小赤石岳の先で回復、赤石岳山頂は晴れ、夕方に彩雲/31日=快晴、モルゲンロート
アクセス 東京から車で畑薙の夏期臨時駐車場へ。そこから特種東海フォレストの送迎バスで椹島ロッヂまで約70分。バスは同社の山小屋・ロッヂに1泊以上泊まる人向けの往復無料便で、テント泊だけの行程では乗れない。乗車中はヘルメット着用(貸出あり)。2026年は7月11日〜9月23日が予約制
小屋・水場 千枚小屋(2,610m)と赤石小屋(2,545m)のテント場に泊まった。水場は千枚小屋・荒川小屋・赤石小屋。荒川中岳避難小屋(3,060m)に水場はないが、売店でカップ麺と湯が出る
電波 千枚小屋のテント場では、povo(au回線)がかろうじて通じた
下山後 南アルプス赤石温泉 白樺荘(日帰り入浴は中学生以上600円、10時〜18時、火曜定休、8月は無休)

8月28日、畑薙|ヘルメットをかぶって乗るバスと、椹島ロッヂの前泊

朝8時に用賀で集まって、友人の車で静岡へ向かった。畑薙の手前にある白樺荘で昼を食べ、飲める人はビールで乾杯した。館内に温泉があると分かって、帰りはここに寄ろう、と話がまとまる。

白樺荘の食堂で、静岡麦酒のジョッキ
白樺荘。昼食のあと、飲める人は静岡麦酒で乾杯した

畑薙の駐車場に車を置き、荷造りをしてバスを待つ。この便に乗るのは15人ほどだった。

畑薙の駐車場の芝生で、ザックを広げて荷造りをする登山者たち
畑薙の駐車場。ここで最後の荷造り
畑薙のバス停。標識の下のベンチに、登山者のザックが並んでいる
畑薙のバス停。標識の下のベンチに、乗る人のザックが並んでいく
畑薙の林道脇に停まった特種東海フォレストの送迎バスと、乗車を待つ登山者たち
14時55分、畑薙。ここから先はマイカーで入れない

椹島へ入る送迎バスには、ヘルメットをかぶって乗る。安全のためのルールで、持っていなければ乗るときに貸してくれる。バスの中で全員がヘルメットをかぶっている光景は他ではまず見ないので、乗る前から仲間の気分が上がっていた。

椹島まで約1時間10分。運転手さんの解説が分かりやすくて、最初は全員が窓の外を見ていた。荒れた道の振動が心地よく、気づいたら仲間はみんな寝ていた。自分もだ。

送迎バスの車窓から見た畑薙湖の緑の水面と、曇り空の山並み
15時04分、車窓から畑薙湖

このバスは、特種東海フォレストが運営する山小屋かロッヂに1泊以上泊まる人向けの往復無料便で、テント泊だけの行程では乗れない。椹島ロッヂの前泊に、その1泊を使うことにした。

登山口へ続く道が1本しかない山で、帰りの足をどう残すかを読む

椹島ロッヂの木造の建物と駐車場
15時55分、椹島ロッヂ。標高1,123m

椹島ロッヂは、思っていたよりずっと大きな施設だった。案内されたのは2人1部屋の和室。夕方まで時間があるので敷地の中を歩き回り、最後は炊事場でみんなで食事をして眠った。

椹島ロッヂの和室。布団が敷かれ、ザックが2つ置かれている
2人1部屋の和室。布団は敷いてあった
レストハウス椹の内部。丸太を組んだテーブルと切り株の椅子、奥に薪ストーブ
敷地内のレストハウス椹。丸太のテーブルと薪ストーブがある
炊事場のテーブルで、チタンのカップに作った前泊の夕食
18時58分、炊事場。前泊の夜はここで自炊した

ここで一つ、失敗をしている。こういう前泊の夜は寝つけないまま翌日を苦しむことが多いので、今年3回使って調子のよかった市販の睡眠改善薬を飲んで早く寝た。それが翌日にどう響くかは、この時点ではまだ分かっていなかった。

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8月29日3時14分、椹島発|暗闇で揺れる滝見橋と、上がらないペース

2時過ぎに起きて、3時に出た。登山口はロッヂの敷地の奥にあって、小さな神社の前を通る。鳥居で一礼して、暗い樹林に入った。

暗闇の中、ヘッドランプに照らされた鳥居と登山者
3時19分。鳥居の先が登山道

歩き出して15分ほどで吊り橋を渡る。滝見橋。夜に渡るには、かなり怖い場所だった。前を歩く人の一歩ごとに橋全体が揺れて、ヘッドランプの輪の外は何も見えない。明るい時間でも、間隔を空けて一人ずつ渡ったほうがいいと思う。

夜の滝見橋。ヘッドランプの光に浮かぶ吊り橋のワイヤーと踏み板
3時29分、滝見橋。光の先に、先行する仲間のヘッドランプ
ヘッドランプの光の中に浮かぶ苔むした岩と、先を行く登山者の背中
4時17分、標高1,405m。まだ雨は来ていない

この日のうちに悪沢岳と荒川岳を越えて荒川小屋まで行くつもりだったので、序盤からペースを上げたかった。ところが、自分を含めてパーティ全体のペースが上がらない。

自分は、異常なほど眠かった。あくびが止まらず、眠い、眠い、と言いながら登っている。前の夜に飲んだ薬の影響だと気づいたのは後になってからで、この時は理由が分からなかった。友人の一人は途中から降り始めた雨で体が冷え、こちらもペースが落ちる。若い二人は問題なく登っていた。

この登りで岩が顔に見えて戻らなかったことと、歩きながら意識が飛んでいた話を読む

明けてきた針葉樹の樹林帯。倒木と苔の登山道
5時34分、標高1,565m。千枚小屋まで、あと1,000m登る

自分の体調の悪さは自覚していた。他の3人に問題がないなら3人で当初の行程を進んでもらい、自分は一人で千枚小屋泊まりの短い周回に切り替える。そう考えて、先行していた二人に追いつき、その話をした。

椹島から千枚小屋までは標高差およそ1,490m。岩頭見晴らし4時49分、小石下5時39分、清水平6時52分、蕨段7時55分、駒鳥池9時13分。長い樹林の登りで、休憩を含めて6時間46分かかっている。

苔の上に置かれた木の看板。「お疲れさま 小屋まであと15分」と手書きしてある
10時00分、標高2,619m。この看板を見たときの安堵は大きかった

千枚小屋10時01分|「稜線に出た瞬間、吹き飛ばされそうだった」で、行程を切り替える

千枚小屋に着くころには、風と霧雨がひどくなっていた。

休んでいたところへ、千枚岳に向かって引き返してきた屈強そうな男性が戻ってきた。上の様子を聞くと、稜線に出た瞬間に体が吹き飛ばされそうな風で、とても無理だった、と言う。その一言で、当初の行程そのものを見送ることに決めた。自分だけでなく、4人全員で千枚小屋に泊まる。

「待てば好転するか」で、停滞と撤退を分ける考え方を読む

千枚小屋の手描きの案内図。小屋・テント場・トイレ・水場の位置が描かれている
千枚小屋の案内図。テント場は小屋の下の林の中

テント泊の手続きをして、雨の中で張るタイミングを待った。小屋の中でしばらく待っていると小降りになる時間があり、その隙に張りに行く。テント場には水が溜まってぐちゃぐちゃの場所と、比較的水はけのよさそうな場所があった。雨に耐えられそうなほうを選んで設営した。降り続く中でテントと小屋を行き来するのに、傘が役に立った。

雨に濡れた針葉樹の林の中に張られた、灰色のDurston X-Mid 1 Solid
11時46分、千枚小屋テント場。標高2,610m。雨の合間に張った

テントはDurstonのX-Mid 1 Solid。雨の設営でも、フライを先に張ってからインナーを吊るせる構造なので、中を濡らさずに済む。

Durston X-Mid 1 Solid
📌 Durston X-Mid 1 Solid
Durston Gear|890g(フライ+インナー)|$289(約46,200円・2026-09-02時点、1ドル160円換算)|国内代理店なし・公式直販のみ

Proではなく生地テントのSolidを選んだ理由と、使って分かったことを読む

千枚小屋の前から見下ろした雲の下の山並み
11時52分、千枚小屋の前。下界は見えても、上は白い

夕方から雨が止んで曇りになる、という予報を信じていた。ところが、雨も風も一向に弱まらない。外に出るのも憂鬱なほどの荒天が夜まで続き、外で一緒に食べるのは諦めて、各自テントの中で食事をとった。

夕方の千枚小屋テント場。濡れた林の中のテント
17時09分。予報では、この時間には止んでいるはずだった
テントの中で、クッカーに入れて湯煎する田所商店監修の担々まぜ麺の袋
18時15分。テントの中で、担々まぜ麺を湯煎する

この夜の夕食は、麺場 田所商店が監修した「花椒香る担々まぜ麺」だった。常温保存のまぜ麺で、袋のまま湯煎できる。213gと重いが、湯に放り込むだけで極太麺のコシがそのまま出てくる。フリーズドライとアルファ米で組んできた山の夕食に、レトルト麺という枠が増えた。

担々まぜ麺の中身をメーカーの商品ページで見る

これ自体は通販で買えないが、同じ部類のレトルト麺なら手に入る。

Tablestock 麺QUICK 麺屋武蔵 豚骨魚介まぜそば 5食入
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テーブルストック|180g/食|¥3,240(5食・2026-09-02時点)|常温保存・電子レンジ/湯煎対応

真夜中になっても、風雨の止む気配はなかった。それでも翌日の予報は曇りになっている。それを信じて、明日は3時出発を目指して起きよう、とだけ決めて眠った。


8月30日4時27分、千枚小屋発|1時間遅らせた出発と、テムレス

目が覚めると、絶望するような雨音と風の音が聞こえていた。このタイミングで外に出てもどうにもならない、と各自が思ったらしい。テント場でかろうじて通じるpovoの電波で連絡を取り合い、出発を1時間遅らせることにした。

4時27分に出発。相変わらず前日と同じ暴風と霧雨だった。ウェアは前の日からびしょ濡れで、夜のうちになんとか乾かして着られる状態に持っていったものの、出て間もなくありとあらゆるものがまた濡れた。樹林帯の登り出しは、傘を差して歩いた。

暗いテント場で、ヘッドランプの光に照らされた白い傘を差して歩く登山者
千枚小屋のテント場を出る。ヘッドランプの光の中で、白い傘がよく目立つ
夜明け前の霧雨の中、ヘッドランプを点けてガレた斜面を登る筆者
5時前、千枚岳への登り。ヘッドランプはまだ消せない。同行者の撮影

この山行で初めて持ち込んだのが、ジャージテムレス No.283 だった。もともと家の食器洗い用に買ってあった作業用の手袋で、水を通さず、透湿性がある。インナーグローブの上に重ねて使った。行動中に手が冷え切ることがなかったのは、これのおかげだと思っている。

ショーワグローブ No.283 ジャージテムレス
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ショーワグローブ|281+2gほど(実測報告値)|¥825(2026-09-03時点)|透湿防水ポリウレタン・裏起毛なし・ジャージ裾・S〜LL

手首から先の防水は、これで足りた。袖口から入る水までは防げないので、そこはレインジャケットの仕事になる。雨の稜線で手の体温を守るという一点では、不足を感じなかった。

夜明け前の青い光の中、千枚岳直下の岩稜
5時13分、標高2,871m。千枚岳の直下

雨と風に苦しみながら、5時17分に千枚岳(2,880m)。友人の一人は前の日からあまり体調がよくなさそうで、この日も苦しそうな登りを強いられていた。少し心配な状況だった。

千枚岳の山頂標識。周囲はガスで白い
5時17分、千枚岳。標高2,880m

千枚岳から悪沢岳までの稜線は景色がいい、と地図にもガイドにも書いてある。楽しみにしていた区間だったが、一面が白で、何も見えなかった。いつ雨が止むんだろう、まさかこのまま一日行くんじゃないだろうな。そんなことを言いながら、安全に次の目的地へ着くことだけを目的に歩いた。

ガスに包まれた稜線を、黄色いザックカバーの登山者が登っていく
6時30分、標高3,064m。丸山を越えて悪沢岳へ

悪沢岳6時58分、3,141m|白一色の山頂と、心の目で見た山容

丸山(3,032m)を6時20分に通過して、6時58分に悪沢岳。南アルプス南部の最高点で、この山行の最高点でもある。

悪沢岳の山頂標識を囲む、雨具を着た4人
7時03分、悪沢岳。標高3,141m。全員ずぶ濡れで、全員笑っている

山頂にいた13分のあいだ、標識の向こうは白いままだった。霧の切れ目に、ときどきものすごい山容が覗く。そのたびに、ここは本当ならこう見える場所なのだと、心の目で補いながら次の目的地へ向かった。


荒川中岳避難小屋8時11分|36分の休憩と、カップヌードルPRO

悪沢岳からコルへ下って登り返し、8時すぎに荒川中岳避難小屋(3,060m)に入った。

ガスの向こうに荒川中岳避難小屋の屋根が見えてくる。手前には防護柵の続く登山道
8時14分。柵の先に小屋の屋根

ここの小屋番の方が、非常に親身だった。今日はこれでも風が弱いほうだけどね、と教えてくれ、冷え切った4人にカップ麺を出せるよう、早く湯を沸かしてくれた。ぶっきらぼうな口調の奥に、こちらの状態を見て動いてくれる優しさがあった。いまでも感謝している。

ガスに包まれた荒川中岳避難小屋の三角屋根と、その前に立つ登山者
荒川中岳避難小屋。標高3,060m。ここで36分休んだ

食べたのはカップヌードルPRO。腹が満たされると心まで満たされて、力が湧いてくる。あの感覚をあれほど強く実感したことは、それまでなかった。前の晩から体調を崩して食事もろくにとれていなかった友人も、ここで緑のたぬきを食べてかなり復活した。行動を止めて温かいものを腹に入れたのは、この日いちばん効いた判断だったと思う。

日清 カップヌードルPRO しょうゆ
📌 日清 カップヌードルPRO しょうゆ
日清食品|75g×12個|¥3,103(2026-09-02時点)|高たんぱく・低糖質・塩分控えめ

止まった瞬間から始まる「熱の収支」で、夏山の低体温症を考えた記事を読む

8時50分、中岳(3,084m)。そこから荒川前岳の南東斜面のお花畑を抜けて、荒川小屋へ下る。

中岳の山頂標識。ガスの中に木の標柱が立つ
8時50分、中岳。標高3,084m
お花畑に咲き残っていた淡いピンクの穂状の花
9時10分、標高2,884m。前岳の南東斜面。8月末でも花が残っていた
ガスの斜面を、両手を広げた登山者が下っていく
9時32分、標高2,673m。荒川小屋への下り

荒川小屋(2,615m)で9時45分から28分休み、水を汲んで大聖寺平へ。小赤石岳の肩まで、ガスの中の登り返しが1時間ほど続く。

小赤石岳への登りの岩塊帯。濡れた岩が積み重なっている
11時42分、標高3,004m。小赤石岳の肩から上は岩
小赤石岳の山頂標識
11時58分、小赤石岳。標高3,081m

途中、ハイマツの上に小鳥がいた。ずぶ濡れになった体を、目の前で乾かすような仕草をしている。色と体つきからカヤクグリに見えた。ここまでの雨と風のあとで、その様子にずいぶん癒やされた。

ハイマツの枝先にとまった、濡れた羽の茶色い小鳥
12時26分、標高3,044m。こちらを気にする様子もなく、羽を乾かしていた

小赤石岳12時03分|稜線に青が混じり、4人で赤石岳へ登ることにした

小赤石岳(3,081m)を12時03分に越え、大倉尾根の下降点へ下った。体調のすぐれない友人は、赤石岳は無理かもしれない、と弱気になっていた。取り付きの手前まで一緒に行ってから決めよう、と話していた。

ここで初めて変化が来た。もともとの予報でも夕方から晴れとはなっていたが、小赤石岳から赤石岳へ向かう途中で、少しだけ青空が見えた気がした。期待しすぎないように歩き続けていると、青が徐々に広がっていく。

稜線の先の赤石岳にかかっていたガスが薄くなっていく
12時32分、標高3,035m。赤石岳の輪郭が出てきた
初めて見えた青空と、稜線の下に広がる雲海
同じ12時32分。前の日の朝から、初めての青

前の日の朝からほとんど日の光を浴びていない4人のテンションは、ここで一気に跳ね上がった。天気が変わったことで、結局は4人全員で山頂を目指して登り始めた。山々にかかる雲海があちこちに見え始め、ここまで景色をまったく見られなかったこともあって、全員が深く感動していた。

雲が抜けていく赤石岳へ、稜線を登っていく登山者たち
12時33分、標高3,041m。赤石岳の取り付きへ

赤石岳12時47分、3,120m|30分あまり待った360度と、滝雲

12時47分、赤石岳。最高のタイミングだった。360度、雲と山が入り混じる景色が広がって、ここまで来てよかった、と全員が嬉しさで泣きそうになっていた。

赤石岳山頂の古い木の標柱に立てかけたザックとポール
12時47分、赤石岳山頂。標高3,120m
青空の下、赤石岳の山頂標識を囲む4人
13時10分、赤石岳。6時間前の悪沢岳とは別の顔になっている

まだ一部、見えていない方向があった。山頂でゆっくり待つことにして、30分あまりいた。遠くには、天気の回復を見て赤石岳を目指して登ってくる登山者の姿も見えた。

赤石岳山頂から南側。雲海の上に稜線が続く
12時58分。南へ続く稜線
赤石岳山頂から北側。歩いてきた小赤石岳と荒川三山の稜線
13時01分。歩いてきた小赤石岳と、その奥の荒川三山。半日前は何も見えなかった稜線
雲海を見下ろす稜線に立つ登山者のシルエット
13時11分。雲海を見下ろす
赤石岳山頂から見た滝雲。稜線を越えて雲が流れ落ちている
13時12分。稜線を越えて落ちていく滝雲

滝雲を眺めたり、おふざけの動画を撮ったりとひとしきり楽しんでから、13時23分にこの日の宿泊地、赤石小屋へ向けて下り始めた。


富士見平15時49分|木々の隙間に、いきなり富士山

赤石岳から赤石小屋までは、基本的に下りが続く。途中に富士見平というビューポイントがあることは分かっていたので、天気がまだ持ってくれれば見られるかな、と期待しながら下った。危なげな場所がないわけではないが、各自が自分の残り体力と相談しながら、めいめいのペースで進む。

赤石岳から東へ下る稜線。左手にはまだ雲が残る
13時15分。下り始める前の、東尾根の眺め
大倉尾根の下り。北沢源頭の緑の谷と、その奥のガス
14時13分、標高2,867m。北沢源頭へ下る
樹林の斜面から見下ろした谷と、青空の下の山並み
14時27分、標高2,790m。谷の向こうまで晴れている
斜面に架けられた木の桟橋。単管パイプで支えられている
14時38分、標高2,727m。桟橋は濡れていると滑る
登山道をふさぐ倒木を、足元を見ながら越える
14時50分。倒木の上を歩く区間

富士見平が近づいて、道の先を見ながら歩いていると、木々の隙間からいきなり富士山が目に入った。

登山道の先、木々の間に富士山の頂が見える
15時04分、標高2,720m。最初に見えた瞬間

ここで見た富士山は、忘れられない。一人だったのに、思わず大声が出た。赤石岳の山頂ではその方角に雲が残っていて富士山は見えなかったので、ここで見られたことがなおさら大きかった。

富士見平から見た富士山。手前に南アルプスの緑の山並み、その奥に富士山
15時06分、富士見平。標高2,707m
富士見平の標識
富士見平の標識。赤石小屋まではあと26分だった

赤石小屋16時21分|彩雲と、ツエルトを張るお父さん

16時21分、赤石小屋(2,545m)。テント場に4人でテントを張った。この山行で初めて、のんびりできる時間だった。夕方には彩雲がきれいに出て、テーブルで各自が持ってきたものを自炊しながら、酒と飯を楽しんだ。こういう時間を取れたのは、この三日でいちばんの救いだった。

赤石小屋の手描きの周辺案内図。小屋・テント場・展望台の位置
赤石小屋の案内図。標高2,550mと書いてある
夕方の赤石小屋の屋根の上に出た、雲の縁が虹色に染まる彩雲
18時31分、赤石小屋。雲の縁だけが色づいていた
夜の赤石小屋テント場。ランタンの灯りに浮かぶテント
赤石小屋のテント場。二晩目にして初めて、雨音のない夜だった

テント場で隣になったお父さんが、非常に面白い方だった。

最初に着いたのが自分だったので、ここに張りますね、と声をかけると、私もこの木をちょっと使わせてください、と丁寧に断りを入れてくださった。そこまで気を遣わなくても、と思いながら自分のテントを張っていると、そのお父さんはファイントラックのツエルトを張っている。その年代の方でそこまで攻めた道具を使っている人には会ったことがなくて、ただ者ではないな、と思って少し話を伺った。

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やはり百名山を目指している方で、大学時代と社会人になってからで50座ほど登っていたので、5年で全部登ろうと決めて来られたそうだ。天気予報を見て前々日にこの行程を決め、赤石小屋から登って、こちらとは逆回りに歩く計画だという。大学と社会人で計4つの山岳会に所属されていた、山のベテランだった。

今回で91座。残している山を聞くと、北アルプスと中央アルプスです、とのことだった。いちばんおいしいところを最後の最後に取っておき、いちばん大変なところを先に片付ける。その進め方も含めて、参考になった。自分ももう少し歳をとっても、こういうふうでありたい。


8月31日5時53分、赤石小屋発|モルゲンロートと、椹島まで2時間50分

最後の朝は、素晴らしいモルゲンロートだった。小屋の人もテント場の人も、みんな一様に東の空を見ていた。

夜明けの赤石小屋テント場。樹林の向こうの稜線が明るくなり始めている
5時02分、赤石小屋テント場。月がまだ残っている
朝日を受けて赤く染まる赤石岳の稜線と、手前の針葉樹
5時16分。前の日に立った稜線が赤く染まる

5時53分に下り始めた。椹島への道は、樹林帯をひたすら下る。前の日、前々日の暴風と霧雨の中とは違って、ゆとりを持って山歩きが楽しめる、とても楽しい時間だった。途中、渓流沿いでかなりの角度の下りを強いられる場面や、少し危なげな桟橋をいくつか渡るところもあった。カンバ段7時19分、登山口8時31分、椹島8時43分。全員無事に下山した。

朝日が差し込む針葉樹の樹林帯を下る登山者
5時58分。三日目にして初めて、朝日の中を歩いた
樹林の斜面に架かる木の階段。長く急に下っている
8時34分、登山口の手前。最後まで階段と桟橋が続く

椹島ロッヂに着くと、バスまで少し時間があった。荷物を整理し、テントやタオルなど濡れたものを乾かしながらバスを待った。

青空の下の椹島ロッヂ
8時43分、椹島ロッヂ。三日前に暗闇で出た場所

下山後|白樺荘とさわやか

バスで畑薙に戻り、来るときに昼を食べた白樺荘で風呂に入って、三日分の疲れを流した。日帰り入浴は600円。その後、静岡名物だという炭焼きレストランさわやかでハンバーグを食べた。自分は初めてだった。車で東京へ戻り、用賀で解散した。

鉄板の上のさわやかのハンバーグ
15時01分、炭焼きレストランさわやか

当初に思い描いていた旅とは、程遠い行程になった。聖岳は残ったし、千枚岳から悪沢岳の稜線は何も見ていない。それでも、この4人で歩いた三日間は、長く残る山行になった。


三日で効いた装備|テムレスと傘、誤算は撥水と時計

この山行の1日目と2日目は、去年の10月に北岳の稜線で捕まった暴風と霧雨と同じくらいきつかった。去年の自分だったら絶対に無理だったと思う。それが今年は自分も大丈夫だったし、4人のパーティとしても大丈夫だった。持っていったもののうち、はっきり効いたものと、はっきり誤算だったものを分けて書く。

傘|一本あるかないかで、雨の中の行動がまるで違った

この山行のために、初めて登山用の傘を買った。エバニューのAiry wide U.L. umbrella。120gで、開くと直径108cmある。使ったのは、1日目の千枚小屋のテント場と、2日目の登り出し。傘が一本あるだけで、雨の中の行動がまるで違うと感じた。稜線の暴風で差せるものではないので、効くのは風のない場面に限られる。

色は真っ白で、買うときはどうなんだろうと思っていた。実際には、夜にヘッドランプで照らされるとよく映えるし、白だから汚れやすいかと思いきや汚れにくい素材で、帰宅後に汚れを落とすのもとても楽だった。

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📌 エバニュー Airy wide U.L. umbrella
エバニュー|120g|¥4,997(2026-09-02時点)|開傘径108cm・収納時25cm・ホワイト EBYR773

登山に傘はアリかを、UL傘6製品と固定方法で比べた記事を読む

撥水|ニクワックスをかけたのに、熱処理をしていなかった

出発前にレインウェアにニクワックスの撥水剤をかけていた。ところが加熱処理をしていなかったので、特にジャケットのほうは、まったくと言っていいほど水を弾かなかった。撥水剤は、洗い込んだあとに乾燥機やアイロンで熱を加えると効きがはっきり立ち上がる。分かっていたはずの工程を、時間がなくて飛ばした。ここは反省点だ。

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ニクワックス|300ml×2本(液量600g)|¥3,350(2026-09-02時点)|洗剤と撥水剤のセット・洗濯機で使える

撥水が落ちたレインウェアを、洗濯・熱処理・回復剤の順で戻す手順を読む

時計|Apple WatchのWorkOutDoorsは、雨の日に使えなかった

右手のApple WatchにWorkOutDoorsを入れてナビをさせていたが、この山行ではまったく使えなかった。雨や水滴、濡れたウェアに画面が誤反応して、何度も勝手にワークアウトが止まる。ナビもできない。1日目はこのアプリ単体で運用していたので、記録がまともに取れなかった。2日目からはヤマレコを主にして、時計は従にした。それ以降はトラブルなく運用できている。

晴れた日の使い勝手と、雨の日の使い勝手は別物だと思ったほうがいい。雨のなかで頼る前提のナビは、スマートフォン側に置いておくべきだった。

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持っていったもの一覧|ベースウェイト6.9kg、椹島を出るとき約11.2kg

3日間でザックに入れて背負ったもの、着て歩いたもの、道中で減っていったものを分けて並べる。数字は自宅の秤で量った実測値で、前月の白馬岳とほぼ同じ構成だ。違いは、傘とテムレスが加わったこと、雪の道具が抜けたこと、食料が3日分になったこと。

白馬岳の二日間で背負った一覧と、雪渓の道具を読む

区分 重量
ザックに入れた装備(ベースウェイト) 6.92 kg
水・食料・ガス(減っていくもの) 4.27 kg
椹島を出るときのザック 11.19 kg
+ 着て歩いた分・手に持った分 0.94 kg

夕食は計量のあとで1日目の分を担々まぜ麺(213g)に差し替えたので、実際にはこの表より60gほど重い。白馬岳のときと同じで、水の3リットルがいちばん重い。椹島から千枚小屋までの途中の水場は清水平なので、そこまでの分は削らなかった。

ザックに入れたもの(6.92kg)

品目 使ったもの 重量
バックパック Trail Bum Go-on 610 g
バックパネル mont-bell V.B.P. バックパネル 298 g
インナーバッグ Sea to Summit ウルトラシル 36L 65 g
テント Durston X-Mid 1 Solid 890 g
ペグ MSR グラウンドホグ 104 g
フットプリント Durston フットプリント 100 g
テントマット Evernew FP Mat 125 200 g
エアーマット Therm-a-Rest X-Therm NXT 540 g
シュラフ Sea to Summit Spark 2 464 g
ピロー Nemo Fillo Elite 85 g
電動ポンプ aerogogo 28 g
耳栓 100円ショップ 5 g
レインジャケット THE NORTH FACE クライムライトジャケット 298 g
レインパンツ ミレー Typhon 50000 ST パンツ 200 g
ダウン karrimor ultra feather jacket 210 g
ウィンドシェル Quechua 100 g
ミトン ARC'TERYX Venta Mitten 100 g
シャツ(予備) THE NORTH FACE ジップドライシャツ S/S ×2 280 g
ソックス(予備) injinji 5本指ソックス 70 g
サンダル Shamma Sandals 198 g
折りたたみ傘 Evernew Airy wide U.L. umbrella 120 g
熊スプレー フロンティアーズマン 345 g
会員制捜索 ココヘリ発信機 60 g
コンパス Sun Company Therm-o-Compass 9 g
ナイフ Victorinox クラシック 21 g
救急セット キネシオテープ4本ほか 140 g
皮膚クリーム ヒビケア 30 g
ボトル Nalgene 100 g
ボトル mont-bell フレックスウォーターボトル 2L 75 g
浄水器 Katadyn BeFree 44 g
バーナー PRIMUS P-117 110 g
クッカー TOAKS チタン 750 110 g
カトラリー チタンスポーク 10 g
モバイルバッテリー Flextail 10000 145 g
モバイルバッテリー CIO 半固体 187 g
ケーブル アダプタ含む 50 g
ヘッドライト Nitecore NU25 UL 159 g
ランタン TRYL micro lantern/ソーラーランタン 77 g
制汗スティック Old Spice 100 g
こまごま 歯ブラシ・ゴミ袋・日焼け止め 80 g
下山後セット タオル・着替え・バフ・ソックス(車に置いた) 100 g

着て歩いたもの・手に持ったもの(0.94kg)

品目 使ったもの 重量
ミッドレイヤー karrimor オクタ マウンテン ジップアップ 150 g
手袋 イスカ グローブ(テムレスの下に重ねた) 40 g
シャツ(半袖) 軽くて涼しい半袖シャツ 63 g
タンクトップ THE NORTH FACE FLT Impulse Singlet 75 g
パンツ 山と道 5-Pocket Light Pants 150 g
ソックス injinji 5本指/mont-bell メリノ 5本指 170 g
キャップ Millet キャップ 40 g
ポール Durston Iceline Trekking Poles 250 g

水・食料・ガス(4.27kg/椹島を出るとき)

品目 内容 重量
出発時(ボトル500ml+ペットボトル) 3,000 g
ガス PRIMUS 110 200 g
夕食 担々まぜ麺/辛ラーメン/マウンテングルメラボ(計量時はUL弁当) 450 g
昼食 2日分 300 g
朝食 2日分 200 g
行動食 1〜2日目は1日4つ、3日目は2つ 120 g

おわりに|次に同じ周回を歩くなら

続けたいこと。テムレスと傘は、雨の3日間でいちばん割に合った道具だった。避難小屋で行動を止めて温かいものを食べたことも、体調を崩していた友人が復活した以上、次も同じ場面で同じことをする。行程を二段構えで持って入ったことも、それがあったから小屋前の一言で迷わず切り替えられた。

直したいこと。撥水剤は熱処理までやって初めて仕事をする。それを知りながら飛ばした。時計のナビは、雨の日には頼れないと分かった。記録も道案内も、スマートフォンのアプリを主にする。そして前泊の夜の睡眠改善薬は、翌日の眠気を引きずるとはっきり分かったので、山の前夜には使わない。

残ったのは聖岳と、千枚岳から悪沢岳の稜線の景色だ。赤石岳の山頂で見えなかった富士山は、富士見平で見た。次は、あの稜線を晴れた日に歩きたい。

山で出会うものの名前を覚えたくて、写真クイズのiPhoneアプリを3本つくりました