山道具ラボ

by Daringdaddy #山で使う道具の話 #軽さと快適さのあいだ #買う前に知りたかったこと

白馬岳・大雪渓から栂池へ テント泊1泊2日|18時に登り直した山頂の夕日

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白馬大雪渓を登る登山者の列と、谷を上がってくる雲
2026年8月2日9時25分、標高2,138m。左の谷から雲が上がってきている

2026年8月2日6時33分、猿倉。標高1,253m。バスを降りて、クマスプレーをショルダーハーネスに挿し、ポールの長さを合わせた。曇り。この時間で、もう暑い。

白馬岳は初めてだった。この日から一泊二日で、大雪渓を登って村営頂上宿舎のテント場に泊まり、翌日は小蓮華山を越えて栂池へ抜ける。同行は友人がひとり。

山行データ(GPS実測)
山・コース白馬岳(2,932m)/猿倉→大雪渓→村営頂上宿舎→白馬岳→小蓮華山→白馬大池→天狗原→栂池
日程2026年8月2日(日)〜3日(月)/テント泊1泊
1日目6:33発〜19:59着(行動13時間26分)/登り約1,840m
2日目5:07発〜10:46着(5時間39分)/下り約1,250m
主な区間猿倉→白馬尻 67分/白馬尻→稜線(2,721m)4時間9分=猿倉から通算5時間16分/テント場→白馬岳 片道30分ほど/白馬大池→栂池 2時間17分
雪渓の状態2026年8月2日時点で上部は秋道。標高2,140m付近で雪を離れる。雪の上にいたのは1時間ほど
天候1日目=午前は曇りときどき晴れ、昼過ぎからガスと小雨、17時前に回復/2日目=早朝ガス、6時過ぎから晴れ
アクセス白馬駅から猿倉行きバス/下山は栂池自然園→ロープウェイ+ゴンドラ→バスで白馬駅
水場・トイレ猿倉荘・白馬尻・村営頂上宿舎・白馬山荘・白馬大池山荘・栂池自然園。大雪渓の途中にはない

南アルプスをやめて白馬へ|前夜の白馬駅と、朝5時に見た2日分の予報

もともとは南アルプスだった。仙丈ヶ岳と甲斐駒ヶ岳で日程を押さえていたのに、直前の予報が崩れた。地図を北へ滑らせて、白馬が残った。

行きは新幹線を使わず、特急とローカル線で5時間近く。特急あずさは松本から大糸線に直通するので、乗り換えの手間がない。前泊は白馬駅から車で5分の民宿、六拾刈(ろくじゅっかり)。夕食は駅前の大衆酒場「肉駅停車」で、翌日から二日歩くことを都合よく忘れて飲んだ。

白馬駅前の店で飲んだHAKUBA CRAFTのビールと肉料理
HAKUBA CRAFT のグラスと、肉と、揚げ物

翌朝5時02分、予報をもう一度見る。日曜は午後に雨が混じりそうだが午前は保つ。月曜は11時から崩れる。初日は早く出て大雪渓を涼しいうちに抜け、二日目は雨より先に降りきる。行程はそこで決まった。

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猿倉6時33分発|樹林帯の67分と、水を4リットル担いだ理由

猿倉登山口の「トレッキングと登山について」案内板
猿倉の案内板。雪渓の落石は速くて音がしない、と書いてある

猿倉から白馬尻までは林道と樹林帯で、標高1,253mから1,560mを67分。8月の低い樹林帯は風が通らない。曇っているのに気温は高く、歩き出して15分で汗が止まらなくなった。

僕は人よりかなり汗をかく。この日の水は4リットル以上を担いだ。テント泊装備にヘルメットとチェーンスパイクが加わって、そこへ4リットル。ザックは重い。それでも、大雪渓を抜けるまで補給できる場所がない。

途中で沢を渡る。木々の間に滝が落ちていて、汗だくで見上げると少しだけ体温が下がる気がする。

汗をかきすぎる体質で夏山を歩く方法を読む


白馬大雪渓を1時間ほど|スプーンカットの雪と、2,140mで秋道に移るまで

白馬尻で滑り止めを装着する登山者たちと、雲で埋まった谷の奥
7時40分、白馬尻。谷の奥は雲で埋まっている

白馬尻に着くと、河原の脇で大勢が足を止めていた。ザックを下ろし、チェーンスパイクを履き、ヘルメットのストラップを締める。装備を替えるための、独特の間がある場所だ。谷の奥は雲で埋まっていて、これから登る先に何があるのかは見えない。

白馬尻から雪の上に立つまでには、まだ少しある。石碑の先はしばらく岩の斜面で、高低差のある岩を大股で乗り越しながら、雪渓の縁を詰めていく。雪に乗ったのは8時半ごろだった。

足元は白と灰色のまだらだった。表面が融けて浅い窪みが無数に並ぶ、スプーンカットと呼ばれる凹凸。これがちょうど足がかりになる。8月の雪はほどよく緩んでいて、チェーンスパイクの歯が素直に噛んだ。写真で見ると壁のようだが、蹴り込む必要はまったくない。

白馬大雪渓のスプーンカット状の雪面と、雪渓を詰める登山者の後ろ姿
融けた表面が浅い窪みになる。この凹凸が足を受け止める
白馬大雪渓を登る
前を向いて詰めていく。振り返るのは、抜けてからだった

履くのも外すのも数十秒で済む。雪の上と岩の上を何度か行き来するこの行程では、その差が効いた。

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コースは雪面に撒かれた赤い粉で示されている。ベンガラと呼ばれる顔料で、白一色の斜面ではこれがないと、どこを歩けばいいのかが分からない。実際、上部ではガスが降りてきて、20mほど先の人影が輪郭を失った。

登っていると、ときどきカラカラと乾いた音がした。石が転がる音だ。そのたびに足が止まって、音のした方を探す。落ちてくるのは雪渓の上ではなく、両脇の岩壁からだった。自分たちの歩いている線まで届いたものは一つもない。それでも、音が鳴るたびに体が固くなる。

ヘルメットは雪渓に入る前に被って、抜けるまで脱がなかった。この日は何も落ちてこなかった。ただ、年間およそ1万人がこの雪渓を通り、落石や斜面の崩れによる事故はほとんど毎年起きている。周囲の岩は割れ目が多く、脆い。

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夏の雪渓で本当に警戒すべきものを読む

標高2,140m付近で、列が雪渓から左手の岩場へ逸れていった。

白馬大雪渓で雪渓から岩場の秋道へ移る登山者たち
9時25分、標高2,138m。ここで雪を離れて斜面に上がる

雪渓が薄くなったり亀裂が入ったりすると、早めに雪を離れて山腹に道をつけ替える。これを秋道と呼ぶ。白馬山荘は7月29日に大雪渓上部が秋道に切り替わったと発信していて、僕らが歩いたのはその4日後だった。理由は歩いていて分かる。雪の縁が持ち上がって、下が空洞になっていた。

白馬大雪渓の縁に口を開けた亀裂と空洞
雪の縁の下は空洞になっている

チェーンスパイクを外して、雪を離れる。ここまでずっと前を向いて登っていたので、そこで初めて後ろを見た。歩いてきた雪渓が、灰色がかった帯になって谷底まで伸びている。その左の谷から、雲が下から這い上がってきていた。まだ、こちらには届いていない。ヘルメットを被ったままの額に、汗が溜まっていた。

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秋道の岩に打たれた黄色いペンキの丸印と、雪解け水を渡る木の橋
ペンキの丸印と、雪解け水を渡る木の橋

秋道はガレ場と草付きの斜面で、雪の上とはまったく違う登りになる。大きな石を大股で越し、固定ロープの張られた箇所を通過する。岩には赤と黄色のペンキで丸印が打たれていて、ガスの中ではそれだけが頼りになる。


葱平から稜線へ|花が増えるのと入れ替わりに、視界が消えた

雪渓の上部、標高2,000m前後の一帯を葱平(ねぶかっぴら)という。オレンジのクルマユリ、青紫の小さな花、黄色い頭花の群れ。雪が消えたばかりの斜面が、短い夏に一斉に咲いている。花に詳しいわけではないのに、足が何度も止まった。

大雪渓上部の登山道の脇に咲くクルマユリ
標高2,197m。登山道の縁にクルマユリ

そうしているうちに、ガスが濃くなっていった。標高2,400mを越えたあたりで雨が落ちてくる。ぽつぽつという程度だったのが、頂上宿舎が近づくころにははっきりした雨になった。二人ともレインウェアを上下とも着る。視界は、10mか20mか、というところまで縮んだ。

→ このガスがどこから来ていたのか、雲の名前で読み解いた話を読む


村営頂上宿舎のテント場|雨の中の設営45分と、同じテントの2人組

稜線の一角、標高2,721mに着いたのが11時49分。猿倉から5時間16分だった。

ガスに包まれた白馬岳頂上宿舎のテント場
12時54分。テントの色だけが浮いて見える

雨は続いていたので、着いてすぐ張ることにした。テント場はガレていて、ペグが素直に刺さる場所を探すところから始まる。設営に45分かかった。

ガスの中に張られたDurston X-Mid 1 Solid
張り綱の先は白い。ペグの頭は石で押さえた

僕のテントはDurstonのX-Mid 1 Solid。隣で、同じDurstonのテントを張るのに手こずっている若い二人組がいた。声をかけたら「お願いします」と言うので、一緒に張った。

彼らのはX-Mid 2 Pro。同じX-Midでも、1人用のSolidとは生地もポールの通し方も勝手が違う。四人でああでもないと言いながら、最後はきれいに立った。役に立つことを言えていたかどうかは、分からない。

Durston X-Mid 1 Solid
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このテントを1年使って分かったことを読む


道を間違えた240mの先|ご夫婦が小声で教えてくれた雷鳥

テントを張り終えて、山頂へ向かうことにした。歩き出して10分ほどで、どうも様子がおかしい。地図を見ると、北へ行くべきところを南へ来ていた。テント場から240mほど。標高はむしろ上がっている。

その先の、ちょっとした展望地のような場所で、先を歩いていたご夫婦が振り返った。小声だった。雷鳥がいますよ、と。

ハイマツの手前の草地にいる夏羽の雷鳥
13時02分、標高2,754m。ハイマツの手前、草の中

夏羽の雷鳥が一羽いた。灰褐色のまだら模様が草と岩に溶けていて、教えてもらわなければそのまま通り過ぎていたと思う。友人は雷鳥を見るのが初めてで、しばらく黙って見ていた。

向きを直して、来た道を戻る。


白馬山荘で山頂を見送る|標高2,826mのラーメンと、白い壁

今度こそ北へ。白馬山荘まで登って、標高2,826m。ここで休憩を取りながら、この先どうするかを話した。

山頂まではあとわずかで、行こうと思えば行けた。ただ、視界がない。ガスは濃く、行っても白い壁を見て帰るだけになる。この日は山頂を見送ることにした。

白馬山荘で頼んだラーメンとご飯と生ビール
ラーメンとご飯とビール。窓の外は白い

ビールとラーメンを頼んだ。雨に濡れた体に、熱いスープが入っていく。テント場に戻ったのが15時ちょうど。山荘でラーメンとご飯を食べたばかりで、腹はまったく減っていない。夕食をつくる気にもならず、この日はもう終わったつもりでシュラフに潜り込んだ。


17時、空が抜ける|同じテント場が別の場所になるまで

曇天のテント場に並ぶ色とりどりのテント
16時44分。谷の奥は灰色のまま

それが17時前に変わった。テントの外が明るい。出てみると、雲が下がっていた。テント場からすぐの、少し高くなった場所まで歩いてみる。

ガスが引いた白馬岳頂上宿舎のテント場を高い場所から見下ろす
17時12分、同じテント場

青い屋根の頂上宿舎と、その周りに散らばる色とりどりのテント。奥の岩峰まで見えている。振り返ると立山連峰があった。数時間前まで20m先も分からなかった場所である。

そして、それまで一度も姿を見せなかった白馬岳の山頂が、はっきり出ていた。


18時に登り直す|片道30分の白馬岳山頂で見たブロッケンと日没

「あそこまで行ってみようか」という話は、そこで一度出た。

行かない理由のほうが多かった。もう17時を回っている。往復で1時間はかかる。ガスの戻りは早いから、着く頃にはまた白くなっているかもしれない。この日はすでに一度、同じ理由で山頂を見送っている。テントに戻ってビールを開ければ、それで十分に良い一日だった。そのつもりで、一度は行かないことにした。

18時になっても、雲は戻ってこなかった。日没まではまだ1時間以上ある。行ってみよう、とどちらかが言って、慌てて支度をした。

テント場を出たのが17時59分。テント泊装備は置いて、ヘッドランプだけポケットに入れた。片道30分ほどの道だ。

登っている途中、斜面の下側のガスに、人の形をした影が立った。

先に見えたのは影のほうだった。霧の上に、頭と肩と、伸ばした腕がある。少し遅れて、そのまわりに輪があるのに気づいた。淡いオレンジと、その内側にうっすら緑。じっと見ていると、輪のふちがどこなのか分からなくなる。

白馬岳山頂付近の霧に映ったブロッケン現象の影と淡い輪
18時25分、標高2,911m。霧の上に影が立ち、そのまわりに淡い輪が出る

ブロッケンだ、と二人で言い合って、しばらくそこから動けなかった。

白馬岳山頂から見た夕日と、オレンジに染まる雲海と登山者たち
雲が谷を埋めて、端からオレンジに変わっていく

山頂には何人かいた。全員が西を向いている。座っている人はいなくて、一人はスマホを高く掲げていた。雲は谷を埋めて、稜線の高さでゆっくり波打っている。それが端からオレンジに変わっていく。

18時53分、太陽が雲の層に触れて、赤い半円になった。

雲の層に沈んでいく赤い夕日と、暗くなった稜線
18時53分。この日の日の入りは19時06分

沈みきってから、ヘッドランプを点けて下りた。テント場に戻ったのが19時29分。

日没後に歩く前提でヘッドランプを選ぶ基準を読む


8月3日5時43分、同じ山頂|方位盤に並んだ硬貨と、その先の白

翌朝は11時から雨の予報だった。降り出す前に栂池まで抜けたい。5時に出るつもりで、4時15分に起きた。暗いうちに湯を沸かし、テントを畳んで、5時07分に歩き出した。

白馬岳の山頂を通過したのが5時39分。前の晩と同じ場所である。

ガスに包まれた白馬岳の山頂標識と方位盤
8月3日5時43分、白馬岳山頂
白馬岳山頂の方位盤に並べられた硬貨と、その先の白いガス
周りの山を同定するための盤。硬貨が一列に並んでいる

「昨日行ってよかったね」

山頂にいたのは10分ほどで、写真を撮って先へ進んだ。


白馬岳から白馬大池へ|ガスが抜けたあとの稜線と、小蓮華山の鉄剣

白馬岳から白馬大池までは、ゆるやかに下りながら小さなピークをいくつも越えていく。歩き出してしばらくは、ずっとガスの中だった。今日は終日こんな感じかな、と言いながら歩いた。

6時00分にはまだ白かった。6時09分には、正面に山並みがあった。

ガスが抜けた白馬岳から小蓮華山への稜線
6時09分。9分前まで、この方向は白一色だった

抜けてみると、稜線の左右で表情がまるで違った。富山側はハイマツと草の斜面がなだらかに落ちていく。信州側は白っぽいガレが切れ落ちて、その底を雲が埋めている。同じ尾根の上を歩きながら、片側は牧場のようで、片側は崖だ。

稜線上の草地と、点在する高山植物
足元は草地。奥に続く稜線を、これから辿っていく

足元は花だらけだった。名前はほとんど知らない。深く切れ込んだ花弁の濃い桃色が、ハイマツの縁に固まって咲いていた。白い小さな花が、丸い葉を敷き詰めた上に散っている。しゃがんで見て、立ち上がってまた歩く。それを何度も繰り返した。

ハイマツの縁に咲く、切れ込んだ花弁の高山植物
花弁の先が糸のように裂けている。名前は知らないままだ

雲の動きも忙しい。稜線を越えた雲が、そのまま反対側の谷へ流れ落ちていく。滝雲と呼ばれるものらしいが、落ちるというより、静かに注いでいるように見えた。振り返れば、歩いてきた稜線が細い線になって伸びている。

稜線から見た雲海と山並み
7時21分。左は雲海、右はガレ場。同じ尾根の両側

途中の小蓮華山(2,766m)は、山頂に鉄剣が突き立っている。ここへ来て初めて知ったのだが、新潟県の最高峰でもある。かつては祠があったが、山頂の崩落で失われた。いまは積まれた石の上に、小さな石仏がひとつ残っている。

小蓮華山の山頂に立つ鉄剣
6時55分、小蓮華山。鉄剣が空に向いている
小蓮華山の山頂に残る石仏
祠が失われたあと、石仏だけが残った

船越ノ頭を過ぎると、進む先の景色が変わる。それまで見えていたのは山と雲だけだったのが、緑の斜面の向こうに水面が現れた。白馬大池だ。まだ遠い。

稜線の先に見えてきた白馬大池
7時55分。緑の先に、初めて池が見えた

池が近づくにつれて、足元の植生がまた変わる。丸い葉が地面を覆って、その上に白い花が点々と乗っている。

白馬大池の畔に群れて咲く白い花
岸が近づくと、ハイマツから草と花に入れ替わる

この区間は、ほとんど言葉を交わさずに歩いた。

白馬大池と赤い屋根の白馬大池山荘
8時33分、白馬大池。赤い屋根が大池山荘

8時17分に白馬大池へ降りた。岸の近くは底の石が見えるほど澄んでいて、赤い屋根の山荘が湖畔に建っている。ここで12分休んだ。


白馬大池から栂池へ|大岩帯の2時間17分と、下りが遅くなる理由

白馬大池の岸を通る大岩の道を歩く登山者たち
大池の岸から乗鞍岳へ。岩を一つずつ越えていく

白馬大池を8時29分に出て、乗鞍岳へ登り返し、そこから天狗原へ下る。この区間が大岩だらけだった。

一つひとつの石が大きく、段差も大きい。膝より高い岩に足を下ろし、着地点を目で探し、また次を探す。それが延々と続く。下りだから速いだろうと考えていたのが、実際はまるで速くならない。

11時から雨、という予報が頭にあった。休みたい、とは何度も思った。ただ、休めばそのぶん下山が後ろにずれる。それが嫌で、ほとんど足を止めなかった。大池から栂池までの2時間17分で、5分以上止まったのは一度だけだった。終盤は二人とも無言だった。

天狗原の湿原を横切る木道
天狗原。木道に出ると、足の運びが変わる

天狗原で木道に出た。板の上に乗せるだけで足が前に出る。湿原にはワタスゲの白い綿毛が揺れていた。

栂池自然園に着いたのが10時46分。雨には降られなかった。


二日で効いた装備|ヘルメット・チェーンスパイク・ポール・水4リットル

装備 今回どう効いたか
ヘルメット大雪渓では必携。落石が来なくても抜けるまで脱がない
チェーンスパイク8月の緩んだ雪面には十分。2,140mで外して秋道へ
水4L以上樹林帯と雪渓の間に水場がない。汗をかく体質なら削れない
Durston X-Mid 1 Solid雨の中の設営45分。ガレ場でのペグの効きは場所選びで補う
トレッキングポール雪渓の登りと、大池から栂池の大岩帯で効いた
クマスプレー出番なし。ショルダーハーネスに挿しておく
ヘッドランプ夕方の山頂から戻る下りで使用。日帰りのつもりでも入れておく
レインウェア上下2,400m以上で着用。稜線の雨は横から来る

ポール|大岩帯で腕に体重を逃がせるかどうか

ポールがいちばん働いたのは、雪渓の登りではなく2日目の大岩帯だった。膝より高い段差を降り続ける区間では、腕にどれだけ体重を逃がせるかで脚の残り方が変わる。Z折り式は畳んだときが短く、雪渓の取付でザックに挿すのが速い。長さ調整式は登りと下りで詰めたり伸ばしたりできる。今回のように登りと下りの性格がはっきり違う行程では、後者の利点が出た。

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左右300g以下の軽量ポールで、どこまで削れるかを読む

足元をもう一段|雪が硬い日と、傾斜が強い場面に備えるなら

今回チェーンスパイクで足りたのは、「8月上旬・午前中・雪が緩んでいる」という条件の上での話だ。6月から7月の残雪期は雪の量も傾斜も違う。早朝に雪面が凍っていれば短い歯では滑るし、傾斜が強い場面では前爪が要る局面も出てくる。前爪のある10本爪があると、蹴り込んで登れる範囲まで守備範囲が広がる。

Grivel G10 EVO ニュークラシック
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Grivel|806g(ペア)|21,587円(2026-08-05時点)|10本爪・セミワンタッチ

クマスプレー|出番はなかったが、猿倉から先はずっと挿していた

二日とも使わずに帰ってきた。ザックの中に仕舞ってしまうと意味がないので、ショルダーハーネスの手が届く位置に挿しておく。熊用として設計されたスプレーは、唐辛子成分の濃度と噴射距離・噴射時間がEPA(米国環境保護庁)の基準で決められている。護身用の催涙スプレーとは別物だ。

カウンターアソールト CA230 熊撃退スプレー
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COUNTER ASSAULT|230g|22,440円(2026-08-05時点)|国内正規代理店:株式会社モチヅキ

熊撃退スプレーを7つの軸で選ぶ基準を読む


持っていったもの一覧|ベースウェイト7.3kg、出発時11.9kg

この二日間でザックに入れて背負ったもの、身につけて歩いたもの、道中で減っていったものを分けて並べる。数字は自宅の秤で量った実測値で、テント泊装備としては軽くも重くもない、ごく普通の構成だと思う。

ザックに入れた装備(ベースウェイト)7.35 kg
水・食料・ガス・酒(減っていくもの)4.53 kg
出発時のザック11.87 kg
+ 着て歩いた分・手に持った分0.88 kg

重さの内訳を見ると、水の3リットル分が効いている。装備を100g単位で削っても、水1リットルで簡単に打ち消される。それでも大雪渓を抜けるまで補給できないので、ここは削らなかった。

ザックに入れたもの(7.35kg)

品目使ったもの重量
背負う
バックパックTrail Bum Go-on610 g
バックパネルmont-bell V.B.P. バックパネル298 g
インナーバッグSea to Summit ウルトラシル 36L65 g
寝る
テントDurston X-Mid 1 Solid890 g
ペグMSR グラウンドホグ104 g
フットプリントDurston フットプリント100 g
テントマットEvernew FP Mat 125200 g
エアーマットTherm-a-Rest X-Therm NXT540 g
電動ポンプAEROGOGO28 g
シュラフSea to Summit Spark 2464 g
NEMO Fillo Elite85 g
ランタンTRYL マイクロランタン20 g
ランタンソーラーランタン57 g
耳栓
持っていく衣類
レインジャケットTHE NORTH FACE クライムライトジャケット298 g
レインパンツTyphon 50000 ST パンツ200 g
ダウンジャケットkarrimor ウルトラフェザージャケット210 g
ウィンドシェルQuechua100 g
ミトンARC'TERYX ヴェンタミトン100 g
シャツ(長袖)THE NORTH FACE ジップドライシャツ L/S160 g
パンツ(予備)山と道 5-Pocket Light Pants150 g
ソックス(予備)mont-bell メリノソックス100 g
サンダルShamma Sandals Super Brown198 g
雪渓と安全
ヘルメットGrivel360 g
チェーンスパイクmont-bell ULチェーンスパイク300 g
熊スプレーフロンティアーズマン350 g
会員制捜索ココヘリ発信機60 g
ヘッドライトNitecore NU25 UL159 g
コンパスSun Company Therm-o-Compass9 g
ナイフVictorinox クラシック21 g
救急セットキネシオテープ4本ほか140 g
折りたたみ傘140 g
水と食事
ボトルNalgene100 g
ボトルmont-bell フレックスウォーターボトル 2L75 g
浄水器Katadyn BeFree20 g
バーナーPRIMUS P-117110 g
クッカーARATA ACP-70068 g
点火マッチ10 g
カトラリーチタンスポーク10 g
カップFozzils カップ34 g
こまごま
モバイルバッテリーFlextail Zero Power 10000145 g
充電アダプター
日焼け止め50 g
制汗スティックOld Spice100 g
歯ブラシ10 g
下山後セットタオル・着替え・バフ・ソックス100 g

着て歩いたもの・手に持ったもの(0.88kg)

品目使ったもの重量
着て歩く
ミッドレイヤーkarrimor オクタ マウンテン ジップアップ150 g
シャツ(半袖)THE NORTH FACE ジップドライシャツ S/S140 g
パンツ山と道 5-Pocket Light Pants150 g
ソックスmont-bell メリノ 5本指100 g
手袋アクシーズクイン UVメッシュグローブ40 g
キャップMillet キャップ40 g
バフ雪の照り返し対策10 g
シューズmont-bell アルパインクルーザー800 レザー ワイド
ポールDurston Iceline Trekking Poles250 g

水・食料・ガス・酒(4.53kg/出発時)

品目使ったもの重量
消耗品
出発時3000 g
ガスPRIMUS 110200 g
行動食3食分120 g
食事UL弁当150 g
食事まぜ麺200 g
食事朝食2日分100 g
食事予備パン150 g
コーヒー5 g
ウイスキーと日本酒600 g

酒の600gは、削ろうと思えば削れる。ただ、テント場で飲むために担いでいるので、これは装備ではなく目的のほうだ。

この行程を背負ったザックのレビューを読む

テント泊のザックが重くなる理由を、全部広げて問い直す


下山後|みみずくの湯と、特急で開けた地酒「大雪渓」

栂池のレストランでビールを一杯飲んでから、ロープウェイとゴンドラで降りた。二日かけて登ったところを、座ったまま降りていく。

白馬駅行きのバスに乗り、「白馬ハイツ」で降りて歩いて6分のみみずくの湯へ寄った。白馬八方温泉の日帰り入浴施設で、大人650円。高アルカリ性のぬるりとした湯で、露天からは白馬三山と八方尾根が見える。前泊した宿も同じ八方温泉の源泉だったので、行きと帰りを同じ湯で挟んだことになる。

帰りの特急で、駅で買った地酒を開けた。

特急車内のテーブルに置いたおつまみ弁当と、地酒「大雪渓」のカップ酒
ラベルの写真は、緑の谷に白い雪渓が伸びている

銘柄の名は、白馬岳のあの雪渓から来ている。ラベルに刷られているのは、前の日の朝に自分の足で踏んでいた雪だ。それを、安曇野の景色が流れる窓の横で飲んだ。

山で出会うものの名前を覚えたくて、写真クイズのiPhoneアプリを3本つくりました